下部組織の受難:闇咬②
「さてと行くとしようか」
「了解~♪」
アディルの言葉にアリスが返答する。他のメンバー達も同様の表情だ。言葉は軽いが完全にアマテラスの面々は戦闘モードに入っているのだ。
いや、戦闘モードに入るというのは少しばかり語弊があるかもしれない。アディル達はどんなに緩んでいる雰囲気を出していても完全に警戒を解くと言う事はない。そのために正確に言えば闇咬へ戦闘モードを向けたというのがより正しいのだ。
「おい、行くぞ」
仲間に向けた言葉とは対称的に灰色の猟犬、ビスト達へと向ける態度は冷たい。アディル達に声をかけられた面々はビクリと身を震わせてアディル達の後ろに続く。
「何度も言わせるな。お前達が前に立て」
シュレイがムルグ達に言うとまたもビクリと身を震わせると、慌ててアディル達の前に出る。これで形的には灰色の猟犬が一行のリーダーという位置付けに見えるのだ。
「今回は闇咬か。黒喰、竜眼と違って武闘派集団という話じゃない。期待できるかしら?」
「私はあんまり期待してないわ」
エリスとエスティルの会話にアマテラスの面々は同意とばかりに頷いている。黒喰、竜眼の実力の低さが闇咬への期待値を大いに下げていたのである。
一行はそのまま闇咬の本拠地に向かって悠々と歩いていた。
* * *
「よし始めるか」
アディルはそう言うと懐から符を十数枚取り出した。アディルが符を取り出すのとほぼ同時にエリスの方も符を取り出すと地面に放った。
地面に落ちた符からモコモコとした黒い靄が立ち上ると奇妙な仮面をつけた黒装束の男達が現れる。アディルとエリスの使役する式神である。式神達の腰にはアディルの天尽と同じ形状の剣があった。
「行きなさい」
エリスの言葉を受けた黒装束の男達は闇咬の本拠地をぐるりと取り囲み始める。その気配を察した闇咬のメンバーの一人が窓から顔を出すと驚きの表情を浮かべて慌てて中へと引っ込んで行った。
「よし、行くとしよう」
アディルの言葉にアマテラスの面々は、表向き酒場の本拠地へ向かって行くと壁に張り付いた。その際に灰色の猟犬、ビスト達はその場に堂々と立っている。
中からガラの悪い声が響き渡っている。どうやら自分達が襲撃を受ける立場になった事に動揺しているようであった。
『ムルグ達が俺達を狙いに来やがったぞ』
『おもしれぇ!! 返り討ちにしてやんぜ』
『いくぞ!!』
『おお!!』
自分達が襲われるという衝撃が一旦収まると逃走ではなく、反撃を選択したようである。武闘派集団の面目躍如というものであるが明らかに悪手であると言える。完全に準備を整えているアディル達と興奮状態にある闇咬ではすでに勝負は決していると言えるだろう。
扉の両隣にはアディルとシュレイが、エスティル、アリス、エリス、ヴェル、アンジェリナは四つある窓の下でそれぞれ控えている。
「アホだな……」
シュレイが呆れたような声を出す。シュレイの正直すぎる感想であるが、アディルも同意見である。自分達が襲撃を受けている事を察したのだから一度はその場を放棄して反撃に出るという方法もあるのに、闇咬の面々にはその選択肢がそもそもないような感じがしたのである。
「そういうな……虚しくなるだろ」
シュレイの言葉にアディルも舌打ちを堪えてそうな声で答える。アディルにしてみればここまで単純な連中なら組みしやすいという感想であるが、闘技者の思考とすると情けなさ過ぎて真面目にやるのがバカバカしくなると言うものであった。
ドタドタ!!
バタン!!
扉が乱暴に開け放たれ、数人の男達が飛びだしてきた。男達の正面には灰色の猟犬達が立っており、男達の意識は完全にそちらに向いており、アディルとシュレイが目に入らなかったのだ。
アディルとシュレイはそれぞれ武器を抜き放つと同時に飛びだした男達を背後から斬りつけた。
「がぁ!!」
「ぎゃああああ!!」
アディルとシュレイの一閃に飛びだした男二人が、血を撒き散らして倒れ込んだ。一応急所は外しているのだが、倒れ込んだあ男二人にとって何の慰めになっていないだろう。
「え?」
「へ?」
突然、目の前を走っていた仲間が切り伏せられた事に理解が追いつかなかった。次に飛びだしてきた男が呆けた声を出した瞬間に、アディルとシュレイは続いた男二人への攻撃を行う。
シュレイは剣の柄で男の顔面をアディルは横蹴りを胸部に入れる。アディルの横蹴りをまともに受けた男はそのまま室内に蹴り戻されることになった。後に続く男達とぶつかりその場に倒れ込んだ。
「な、なんだ!?」
「バッキャロー!! 何やってやがる!!」
巻き込まれ倒れ込んだ男達の怒号が響き渡った。幸い巻き込まれなかった男達も完全に勢いを殺されてしまった。
「いくわよ!!」
「「「「了解!!」」」」
ヴェルのかけ声に女性陣が一斉に答えると窓から突入する。思わぬ侵入者に男達は完全に思考停止する。
女性陣が中に突入するのを見て、シュレイは外に飛び出した男達を排除にかかる。外に飛び出した男の数は四人、シュレイは斬り伏せた男の顔面をついでとばかりに蹴り飛ばし四人に斬りかかったのだ。
シュレイと四人の男達の実力差は凄まじいものであった。シュレイが剣を振るう度に男の体から血が噴き出しそのまま倒れ込むのだ。いかに想定外の事が起こったとはいえ、ここまで一方的な戦いになるのはシュレイの技量が優れているのは間違いない。
四人の男達を斬り伏せたシュレイが室内に飛び込むとそこではアマテラスの蹂躙が行われていたのであった。
やはり私は戦闘シーンを書くのが好きなようです(^∇^)




