下部組織の受難:闇咬①
「あいつらか?」
一人の男が指を差した先にはアディル達アマテラスがいた。それを見た別の男が静かに頷く。
「ああ、間違いない。ムルグ達と一緒に黒喰を捕縛したハンターチームだ。チーム名は“アマテラス”」
「あんなガキ共に黒喰のやつらは捕まったのか?」
「実際に実力行使したのはムルグ達であいつらはサポートをしてたって話だ」
「サポートか……。見てくれの良い五人のメスガキで楽しんだって事かよ」
男は下品な事を下品な口調で言う。その事にもう一人の男は愛想笑いで返した。相手の反応に少しばかり違和感を覚えたのだが、男は大した事ではないということですぐに頭の片隅に追いやった。
「闇咬なら簡単に捉える事が出来るだろう。それを使ってムルグ達に揺さぶりをかけるというのが毒竜の方々の目的という話だ」
「揺さぶりというよりも脅迫だろ?」
「そうとも言うな」
闇咬の男はニヤリと獰猛そうな表情を浮かべつつ返答するともう一人の男も今度はニヤリと嗤うと軽口で応じた。
「ま、毒竜からの依頼とありゃ受けねぇわけにはいかないな。任せてくれって伝えておいてくれ」
「わかった」
闇咬の男へそう簡潔に返答するともう一人の男は背を向けて歩き去った。
「あの五人……どう楽しんでやろうかな」
闇咬の男はニヤニヤと見る者全てを不愉快にする嗤顔を浮かべアディル達を一瞥すると男もまたその場を離れた。
* * *
闇咬の男は王都の外れにある本拠地へと向かう。闇咬の本拠地は表向きは酒場を装っているのだが、客層は王都の中でも断トツに悪い事で有名であり、善良な市民はまずこの酒場を利用しようとはしないだろう。
「おお、ジムドどうだった?」
闇咬の男が酒場に入ると何人かの男達が声をかけてくる。ジムドと呼ばれた男は獰猛そうな表情を浮かべて言う。
「仕事だ。お前らいつでも出られるように準備しておけよ」
ジムドの返答に男達の歓声があがった。ここでいう仕事の内容が何なのか男達は具体的には知らない。だが、具体的な内容はどうあれ、殺し、犯し、奪うのどれかであることを男達は知っており、自分達の黒い欲望を満たしてくれるのはありがたいモノであった。
「俺はボスに報告してくる」
ジムドはそう言うと酒場の奥にある階段をのぼり少し進むと重厚な扉があった。
コンコン……
ジムドは扉にノックすると返事を待たずに扉を開けて部屋に入る。部屋の主はジムドを見るとニヤリと嗤いつつ言う。ジムドの礼儀に反した行動を気にするような部屋の主ではない。
「竜眼の連中はなんて言ってた?」
野太い声がジムドへと発せられる。野太い声の持ち主は闇咬のギルドマスターであるエファン=ラムセイルである。
エファンは暴力の世界で生きているという事を体現する風貌をしている。頭髪を剃ったスキンヘッドで頭部、顔面には無数の刀痕があり、顔面の左部分には幾何学的な文様の入れ墨が入っていた。
体格も分厚く後ろに飾られている戦槌はエファンが生粋のパワーファイターであることを知らしめている。
エファンが自分の部屋に返事を待たずに入れる事を許しているのは、もし自分を殺そうとした者であっても返り討ちに出来ると言う自信の表れなのだ。
「ムルグ達を追い詰めろというのが毒竜の方々の意向という事です。そのためにまずは協力者の“アマテラス”とかいうガキ共のハンターチームをやれって話ですよ」
「アマテラス?」
「ムルグ達が黒喰を捕らえた時のサポートに回っていたガキ共です」
「ガキの相手をさせようってのか?」
エファンの声に僅かながら不快な感情が含まれているのをジムドは察した。
「どうやらそのようで」
「舐められたもんだな。闇咬がガキの相手とはな」
「そう落胆したものでもないですよ」
「あん?」
ジムドの言葉にエファンが訝しんだ視線を向ける。
「そのガキ共なんですが五人が女なんですよ。それもとびきり良い女というやつです」
「なるほどな。とりあえずそいつらで楽しもうって事か?」
「ええ、あと五年もすりゃそれぞれの娼館でトップになれる女ばかりです」
「そうか。闇咬の奴隷にして野郎共の相手をさせるとするか」
「気に入った女ならボスが飼えば良いですよ」
ジムドの言葉にエファンは嗜虐的な嗤みを浮かべた。エファンも女が嫌いな訳ではない。ジムドの提案を忌避するべき理由などどこにもないのだ。
「そいつらはどこにいる?」
「王都のハンターギルドにいましたよ」
「そうか。とりあえずそいつらを攫ってこい」
「はい」
エファンの指示は簡潔を極めている。その簡潔な指示に対してジムドも二つ返事で答えているところを見るといつもの事なのだろう。
「ボス!!」
そこに血相を変えたメンバーの一人が部屋に駆け込んできた。
「なんだ。騒々しいぞ」
エファンの言葉に駆け込んできたメンバーが落ち着きをなくした声で言う。
「か、囲まれています!!」
「なんだと!?」
エファンが即座に立ち上がり、窓から外を見ると黒装束を身につけた者達がぐるりと本拠地を取り囲んでいるのが見えた。
「ムルグ……あの野郎……」
エファンが囲んでいる者達の中に灰色の猟犬の姿を見つける怒りの声を発する。
「ふざけやがって」
ジムドもムルグ達の姿を見つけると怒りの声を上げる。それは裏切り者を糾弾する声であった。
エファンもジムドもムルグ達に意識を向けていたため、灰色の猟犬などよりも強大で恐ろしい者達がいることに気づいていなかったのだ。
そう……
アディル達、アマテラスの刃が闇咬に迫っていたのである。




