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下部組織の受難:竜眼④

 エリスが扉から姿を見せキョロキョロと辺りを見渡しているのを見たヴェルがアディルへ話しかけた。


「ねぇアディル……あれって」

「ああ終わったみたいだな」

「ねぇ二人で闇ギルド一つ制圧するって……あの二人とんでもないわね」

「ああ、怒らせないようにしないとな」

「それはあんたぐらいよ。調子に乗って一線越えちゃうんだから気を付けなさいよ。私だから広い心で許してるのよ」

「お前この間、何の警告も無く俺の頭を吹っ飛ばそうとしなかったか?」

「あの男への復讐だけで頭がいっぱいだから他の事を覚えてられないのよ。ゴメンネ♪」

「だから可愛く言えば許されると思うなって」


 アディルは呆れつつヴェルに返答する。


(まぁヴェルも出来ない事はないよな……。でもただの殺戮になっちまうからな)


 アディルは心の中の言葉を音声化するような事はしなかった。正直な話、ヴェルであっても闇ギルドを一人で殲滅することは決して不可能では無い。しかし、ヴェルの技は殺傷能力が高すぎて肉片に変わってしまうのである。


「ほら二人ともいくわよ」


 アリスが不毛な会話を無理矢理に終わらせる。別に二人の会話に嫉妬したからでは無く単純にエリスに対して悪いという考えからである。エスティルが姿を見せないのは反対側にいるシュレイとアンジェリナを呼びに行っているからであろう。


「だな。待たせるのも悪いからな」

「それもそうね」


 アリスの後ろにアディルとヴェルが続くと三人の姿を見つけたエリスがブンブンと手を振った。


「お疲れ様、エリス首尾はどう?」

「うん。あっさりと終わったわ。敷地内の人間は一人を除いて呪血命(まじないのちのみこと)で縛ってあるわ」

「その一人は?」

「エルメックよ」


 エリスは何でもないようにエルメックの名を告げるとアディル達は呆れた様な表情を見せる。いくらなんでもボスをそのままにするというのは迂闊ではないかという考えなのだ。


「どうしてエルメックを呪血命(まじないのちのみこと)で縛ってないんだ?」


 アディルの問いかけにエリスは即座に返答する。


「別にこれといった理由は無いわね。実力的に大した奴じゃ無かったし、他の連中が見張ってるから逃亡の恐れも無いわ」

「なるほどな」


 アディルはエリスの言葉に苦笑を浮かべる。エリスは慢心から言ったのではない。その証拠に敷地内に数体の式神を放っているのをアディルは捉えていたのである。

 アディル達は敷地内に堂々と入りそのまま建物内へと入っていった。建物内に入ったアディル達を見た竜眼(ドルグシア)の面々は直立不動の姿勢をとった。

 それらを華麗にスルーしつつエルメックが昏倒している部屋へと到着する。エルメックは後ろ手に縛られており、その横には二人の男が立っていた。


「ご苦労様、あなた達は出てなさい」

「「はっ!!」」


 もはや完全に竜眼(ドルグシア)の女主人というべき風格でエリスが男達に命令すると軍人さながらに姿勢を正すと即座に部屋を出て行く。


 男達が部屋を出て行って三分ほどで、エスティル、シュレイ、アンジェリナの三人が部屋に入ってきた。


「じゃ、起こすわね」


 アンジェリナが未だに昏倒しているエルメックに対して水瓶(アクエリアス)の魔術を展開するとコップ一杯分の水がエルメックの頭上に発生すると、そのまま落下しエルメックの頭に直撃した。


「うわっ!!」


 エルメックは水をかけられた事により一気に覚醒すると自分が置かれている状況の異常さに戦慄していた。自分は後ろ手に縛られ、七人の人物に囲まれているのだから冷静でいられるはずも無かった。

 しかも、二人は先程自分を昏倒させたエリスとエスティルである。当然ながら自分とは次元の違う技量を持った二人の仲間に囲まれている事に気付き冷静さを完全に失っていた。


「初めましてエルメックさん。竜眼(ドルグシア)の皆さんは俺達“アマテラス”のために働いてくれるという事で本当に嬉しいですよ」

「な……」

「ああ、承諾の言葉は聞かなくても結構です。あなたが言いたいことはわかってますからね」

「……」


 エルメックは沈黙を保ったのはアディル達の話を途中で遮るような事をすれば自分にどれほどの不幸が訪れるのか本能が察していたからである。


毒竜(ラステマ)に対して黒喰(クルシズ)を捕まえた中心は灰色の猟犬(グレイハウンド)で間違いないとまずは伝えてもらって良いですか?」


 アディルの問いかけにエルメックはコクコクと頷いた。


「うんうん、物わかりが良くて助かりますよ。黒喰(クルシズ)の連中は俺達の実力を見誤ったから力によって押さえつけるしかなかったんですよ。その点竜眼(ドルグシア)のリーダーともなれば的確な判断が出来ると言うわけですね」


 アディルの空々しい称賛の言葉を受けてエルメックは冷や汗がどうしても止まらない。別にアディルは威圧的な態度を取っているわけでもないし、殺気を放っているわけでもない。だが、それでもエルメックはアディルの言葉の端々に不穏なキーワードがのぼり、恐怖が後から後から湧いてくるのである。


「当然だが、これ以外の情報を流してもらう事もあるからな。細心の注意を払っておいてもらえますよね?」

「な、何をすれば良いんです?」


 エルメックはアディルへの返答に極々自然に敬語を使っていた。呪血命(まじないのちのみこと)で縛ってない状況を考えるとエルメックの態度は生き残るための行動であったのだ。


「ああ、それはな」


 アディルはニヤリと嗤いエルメックへ任務を言い渡した。

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