プロローグ①
「何? 黒喰が捕まっただと!!」
「デカイ声出すなよ。それで?」
激高した男をもう一人が窘めると報告に来た男に問いかける。報告に来た男は顔中に冷や汗をかきながら報告を続ける。
「は、はい。黒喰を捕縛したのは灰色の猟犬が率いるハンターチーム二つです」
「灰色の猟犬だと? ムルグ達か!!」
「あの野郎!! 舐めた真似しやがって!!」
報告を聞いた男達とは別の者達が激高する。報告に来た男は恐怖のあまりにガタガタと震え始めている。
「落ち着け……」
そこに一人の男が激高する男達に向けて言う。男の声は静かではあるが、侵しがたい迫力があり、激高した男達の怒りはひとまず収まった。まぁそれにより報告の男の緊張感がほぐれたというわけではなかった。
「本当にムルグ達か? あいつらとは良い関係を築いてきたと思ってたんだがな?」
男の声は相変わらず静かではあるが、その声に不快感が含まれているのは間違いない。
「は、はい。率いているハンターチームの一つはビスト達のチームである。紅風です」
「ほう……あいつらまでか……舐めた真似をしてくれるな」
「ああ、あいつら俺達と同格とでも思ってるのか? おいしい話をいくつか持ってきたから相手してあげただけなんだがな……」
「どうすんだ? このまま舐められたまんまでいるのか?」
報告の男を無視して男達の視線が一人の男に向けて向かう。男達の視線の向かった男は先程激高した男達の怒りをひとまず収めた男である。
「冗談言うな……俺達の稼業は舐められたら終わりだろうが……しかも、あんな半端なクズ共に舐められて我慢出来るほど俺達は人間出来てるか?」
男がニヤリと嗤うと男達も同様に嗤う。その表情は肉食獣が捕らえた獲物を食い殺す前の表情を思わせるものだ。
「いや、出来てねぇな……」
「俺達に逆らったらどうなるか教えてやらにゃいかんよな?」
「くくく……アホな奴等だ。殺してくれと言わせるのが今から楽しみだぜ」
男達は含み笑いをしつつ返答する。
「決まりだな。エインとジャルムを呼び戻して全員であのアホウ共に報いをくれてやることにしようじゃないか」
男の言葉に男達は不敵な笑顔で返した。只一人報告に来ていた男のみがゴクリと喉をならしていた。
* * *
「さて、今回俺達は毒竜に喧嘩を売った事になるんだが、期待外れだったときの対処を考えておこうと思う」
アディルが全員に向けて言うとアマテラスのメンバー達は静かに頷いた。アディル達の後ろにいるムルグ達は青い顔をしているのは、やはり自分達が喧嘩を売った相手がいかに危険な相手か理解しているからであろう。
「やっぱり、官憲に突き出すで良いんじゃないの?」
ヴェルが至極真っ当な提案を行う。アディル達の目下の目的は戦力の確保である。先日捕らえた黒喰という闇ギルドの連中はまったくもって期待外れであったのだ。
そのため、駒にする理由も無いとして全員が官憲に引き渡されたのである。恐らく裁判を受けて、死刑となり処理されるか、どこかの鉱山に送り込まれて一年ほどで力尽きる事になるかのどちらかである。
「ヴェルの意見ももっともだと思うんだけど、私としたら裏社会の伝手を見す見す捨てるのは惜しいと思うわ。いくら戦闘力が低くても駒とするべきと思うわ」
エリスの提案に全員が沈黙する。エリスの提案は一理あるどころか、十分な説得力があるように思われたのである。
「ヴェルの意見、エリスの意見……どちらも十分に納得出来るわね」
「エスティルは敢えて言うならどっちの意見を?」
「そうね……私はヴェルかな。雑魚を駒にしたところで意味がないと思うわ。アリスは?」
「私は取りあえず駒にしとくのが良いと思うわ。だって一応最凶の闇ギルドなんでしょ?それなりに呼ばれる根拠があると思うのよ。それに官憲に引き渡したら何らかの取引によって減刑される可能性もあるわ。そうしたらもう一回戦う事になるじゃない。それは面倒よ」
アマテラスの面々から様々な意見が出されるが誰一人として敗れたらどうするかという意見が出ないのは別に毒竜を侮っているのではなく、すでに様々な準備を行い、勝利の可能性を確実に上げていっているからである。
「別に駒にしたからといって面倒を見ると言うわけじゃないんだし、全員駒にするという事で良いんじゃないか」
シュレイの言葉も大胆である。シュレイの言葉は自分達の勝利を確信している事を意味し、なおかつ駒となった者達への配慮をしない事を宣言したに等しいのだ。
「アンジェリナはどうだ?」
「私は邪魔にならないレベルの実力があれば駒にして問題無いと思うわ。みんなの話を聞いてると毒竜に期待しすぎだと思うのよ。このクズたちがビビってるのは事実なんだからそれなりの実力は有してるんでしょう。なら駒にするだけの実力を有していると仮定しておいた方が面倒が無いと思うの。“役に立つ”で考えるんじゃなく“邪魔にならない”という観点で考えるべきよね」
アンジェリナの返答も中々に酷いものである。毒竜という最凶の闇ギルドに対する評価があり得ないぐらい低いのである。
「とりあえず、駒にはするという事で良いか……噂通りの実力である事を祈ろうじゃないか」
アディルが言うと取りあえずアマテラスは毒竜を駒にするという基本方針が決まったのである。
「さて、それじゃあ、長い時間をかけても仕方ないから一月ほどで決着をつけたいな」
アディルの言葉に全員が頷く。
「さて、それじゃあ毒竜を狩るとしよう」
アディルはそう言ってニヤリと笑った。




