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エピローグ

 王都ヴァドスに戻ったアディル達はその足でギルド本部へと向かい、ムルグ達に依頼の報告を指示すると受付に並んでいた。


 目的はエスティルとアリスのハンターの登録、そしてチームとしての登録である。


 エスティルとアリスはハンターとして活動をする事にしたため当然の措置である。もちろん、魔族、竜族である事は伏せている。

 エスティルとアリスが登録のために並んでいると何人もの視線が二人、いやヴェル達の女性陣に注がれた。


(まぁ、そうだよな……)


 アディルは心の中で女性陣に注がれる感歎混じりの視線についてある意味当然であると納得していた。女性陣の容姿は異性のみならず同性であっても無視する事など不可能な程華やかなものだ。

 ヴェル、エスティルの高貴な雰囲気が漂う美しさ、アリスの少しきつめの可愛らしさ、エリスの理知的な美しさ、アンジェリナの妹然とした可愛らしさとそれぞれタイプは異なるが、容姿の良さは共通していたのである。

 女性陣は自分達の容姿の美しさを自覚しているために、注がれる視線を受けても平然としている。この辺り女性陣の心臓は見かけに対して強靱すぎると言って良いだろう。


 少し待っているとエスティルとアリスの順番が回ってきたので、一緒に登録を行う。


(あいつらも報告を始めたな)


 アディルがチラリと視線を移すとムルグ達が職員に報告をしているのが目に入る。報告内容は「像の下に通路があり、その通路の先には悪食王(ガリオンド)がいたために退却した」という内容で報告することになっている。

 悪食王(ガリオンド)の討伐が行われるにしてもすでに悪食王(ガリオンド)は死んでいるし、呼び水(イクナム)、マルトスの死体も無い。一応念の為に呼び水(イクナム)を呼び出した魔法陣は破壊しており、討伐隊は空振りになってしまうが危険性は無いことに思われる。

 誰が悪食王(ガリオンド)を斃したのかという事が話題になるだろうが、アディル達に話が回ってくる可能性はほとんどない。まさか十代半ばの少年少女、しかもハンターになりたての者が悪食王(ガリオンド)を斃すことが出来るなど思われるとは思えない。

 

「アディル、終わったわよ」


 そこにアリスが声をかけてきた。何が終わったかと言えばもちろん登録の件である。


「私も終わったわ」


 次いでエスティルが言葉をかけてきた。それを見て、アディルが受付の職員に言う。


「すみません。今度チームを組む事になりましたので、登録をしたいのですけど」

「はい。チーム結成ですね。それではこちらの用紙にメンバーの名前を記入して下さい」


 職員はそう言って一枚の用紙を差し出した。差し出された用紙に全員が自分の名を記入していく。

 全員が記入した所で、職員が最後の記入欄に指を差し言う。


「チーム名の記入をよろしくお願いします」

「はい」


 アディルが代表してチーム名を記入する。


 記入されたチーム名は「アマテラス」であった。


「アマテラス? 変わった名前ですね。差し支え無ければ意味をお伺いしても?」


 職員の問いかけにアディルはニッコリと笑って質問に答える。


「俺のご先祖様の故郷の女神なんですよ」

「女神ですか……」

「なんでも太陽の女神だったとのことです」

「なるほどその子達も太陽の女神のように輝いているという事からつけたわけね♪ 了解です。新たなチーム「アマテラス」を受け付けました。これからがんばってください」


 職員の言葉に女性陣は分かりやすく顔を綻ばせた。女性陣の五人の美しさは事実であるのだが、アマテラスというチームしたのは、「アマテラスが現れるところ希望の光が注がれる」ようにという意味合いからであるのだが、職員の解釈を否定するのもおかしいと思い、アディルもシュレイも否定の言葉を口にするような事はしなかった。

 女性陣達もアディル、シュレイが否定しなかった事でご機嫌となっていたため当然、否定する事はなかったのである。


「ありがとうございます。がんばります!!」


 アディルが職員にそう返すと全員が職員に一礼するとギルドを後にするのであった。



  *  *  *


「それで……ヴェルティオーネは確かに死んだのだろうな?」

「はっ!! 馬車ごと崖に落ちていきましたのでまず助からないかと……」


 報告する騎士の声は少しずつ小さくなっていく。もちろん、嘘である事を自覚しており、死体がないことの辻褄を合わせるためにでっち上げた報告であった。


「そうか……下がって良い」


 騎士の様子に不自然な点が多々あるのだが、男はそれを信じた。表情は重々しくしているが口元が僅かに緩んでいるのを騎士は気づくがそれを素知らぬ風に装った。


「はっ!!」


 騎士は一礼すると踵を返し長居は無用とばかりに部屋から出て行った。一人部屋に残った男は無表情で騎士をみていたが扉が閉まって、しばらくすると少しずつ表情が歪み始めた。


「ふふふ……ふははははは……はぁはっははははは!!」


 男は少しずつあふれ出る嗤いを押さえきることは出来ずに大声で嗤い始めた。その嗤いは歪みきっており聞く者の不快感を大いに刺激するものである事は間違いない。


「これでレムリス家は名実共に私のものだ!!」


 男の名はエメトス=ジズバルト=レムリス。ヴェルの血縁上の父、いや遺伝子提供者と呼んだ方が良いかもしれない。元々秀麗な顔立ちをしているのだが、内面からにじみ出る心根の醜さが表面上にまで浮き出ているので人に不快感を与える事この上ない。


「これで私を侮った者達すべてに意趣返しすることが出来る!!」


 エメトスは中堅どころの伯爵家の次男坊であった。兄は非常に優秀で、人望もあり何をしてもエメトスは兄に及ばない。それが強烈な劣等感をエメトスにもたらしていた。

 レムリス家に婿入りすることが決まっても、当主として迎えられるのではなく、あくまで侯爵家を継ぐのは妻であり、エメトスはその配偶者でしかないという事も彼の劣等感を大いに増幅させる事になったのだ。

 これは別にレムリス家に限ったことではなく、入り婿が当主として迎えられるという例はヴァドス王国では少数派であったのである。

 ところが、レメトスにとってそれは不当に扱われていると捉え、義父と妻への憎悪を募らせることになったのである。


 義父と妻はエメトスを冷遇したことなどないのだが、エメトスにとって当主にしないという事が自分を冷遇していると捉えていたのである。

 妻との間に産まれたヴェルに対しても愛情を持つことは出来ず、少しずつ歪みは大きくなっていきどうにもならないところになったときに、エメトスの不貞が発覚したのだ。


 義父も妻もその事に対し、努めて冷静にエメトスの浮気相手、二人の隠し子をレムリス家の人間として扱うことは出来ない旨を告げた。エメトスは元々レムリス家の人間ではなく外部のものである。エメトスが余所に作ったもう一つの家族にはレムリス家の血など一滴も流れていないために当然の判断であった。

 かといって義父も妻も子どもには罪はないとして、贅沢は出来ないが普通に生活するには困らない程度の生活費を渡すという温情を与えた。

 ところがエメトスはこれすら納得せずに義父と妻をさらに憎むようになったのである。エメトスという人物はとにかく他者に感謝するという事が出来ない。常に不平不満を抱えている人物であった。

 その負の感情も、何かを成し遂げるエネルギーと変えるのなら良かったのだが、エメトスはそのエネルギーを“レムリス家を乗っ取る”という最悪の形で使ったのだ。


 義父と妻を盗賊の襲撃に見せかけて殺害し、そして娘であるヴェルティオーネも殺害することにしたのである。


 もちろん、ヴェルは存命だし、復讐の鉄槌を食らわすために用意をしている事をエメトスは知らないのであった。


これで第一章は終了です。

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