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出会い③

「ほぅ……親父さんに邪魔者扱いされ、しかも殺されそうになる……か。なんか根深いものを感じるな」


 ヴェルティオーネの言葉にアディルはそう返す。アディルの反応にヴェルティオーネも肩をすくめた。


「期待に応えられず申し訳ないけど、事は単純よ。あの男(・・・)は自分が侯爵になるために私が邪魔なのよ」

「どういうことだ?」

「エメトスは入り婿なのよ。侯爵家を継ぐ資格があるのは私のお母様、そしてお母様の産んだ私」

「なるほどな。あんたの父親はお前が侯爵を継ぐまでの代理というわけか」

「まぁそういう所よ」


 ヴェルティオーネの返答にアディルは首を傾げると尋ねる。


「しかし、あんたを殺しちゃ意味なくないか? あんたがいるからこそ父親は侯爵家に居場所があるんだろ?」

「普通に考えればそうね。でも現在侯爵家の継承権を持つ者は私一人しかいないのよ」

「なるほどな……あんたの母親はすでに亡くなっているという事か」


 アディルの言葉にヴェルティオーネは静かに頷く。ヴェルティオーネの反応から母親との仲は良好だったのだろう。


「ええ、お母様、お祖父様は領内の視察中に盗賊団に襲われて命を失ったわ」

「不審な点は?」

「もちろんあるわよ。あの男はなぜか盗賊の捜査に対して消極的なの。しかもお祖父様とお母様が亡くなってすぐにあいつは再婚したのよ。再婚相手には私と同年代の子どもがいたわ」

「なるほどな。あんたの父親は浮気をしていたというわけか」


 アディルの言葉にヴェルティオーネは力強く頷く。


「そしてその事がバレて侯爵家から追い出されようとしたために事に及んだ……か」

「ええ、それから古くからいた使用人達は次々と辞めさせられたし、異を唱える者は不審な死を遂げたわ」

「ほう……穏やかじゃないな」

「私も監禁されてたわけ。そして療養の名目で家を追い出されたのよ」


 ヴェルティオーネの声には険がこもりすぎている。父親への嫌悪感はすさまじいものがあるようである。


「ところが実は邪魔になったあんたを始末するという算段だったというわけか。そしてあんたが病死したとか理由をつけて侯爵家を乗っ取るというところか」

「そうね。すでに一族の何人かにその辺の根回しはしているみたいよ」

「おやおや……お前の父親はアホだな」

「そうね。キリの良いところでお祖父様、お母様、私を殺害した事を理由に断罪されて家族もろとも処刑台に登るんでしょうね」

「そして断罪した者が侯爵家の当主に就くというところか」


 アディルの言葉にヴェルティーネは頷く。事情をよく知らないアディルであっても父親のろくでもない未来が読めるというものである。

 そもそも、侯爵家の入り婿である以上、侯爵家を継ぐ資格は一切無い。強いて言えばヴェルティオーネの後見人という立場で侯爵家に影響力を持つというところがせいぜいであるのだが、その辺の事は気づかなかったのだろうかと不思議にアディルは思った。


「しかし、俺のような部外者に侯爵家の恥部を話して良いのか?」

「良くないわよ」


 アディルの問いかけにヴェルティオーネはあっさりと返答する。予想外の返答にアディルは流石に面食らってしまう。


「良くないって……お前……」

「あんたってレムリスの恥部の情報を手に入れたって悪用するようなことはしないでしょ?」

「まぁ、別にそれで小金稼いでも仕方ないしな」

「そういう事よ。それにあんたって何だかんだ言ってもお人好しっぽいから触れ回るような事はしないと思ったのよ」

「はぁ……」


 ヴェルティオーネの返答にアディルはため息をつく。ヴェルティオーネの言葉通りにアディルとすれば触れ回るつもりは皆無であったのだが、それでも初対面でここまで自分のことを見抜かれるというのは、自分が単純な人間であると思ってしまい複雑な気分である。


「それであんたらはこれからどうするつもりだ?」

「とりあえず正当な権利を行使するつもりよ」

「具体的には?」

「王都に行って現状を訴え出て侯爵家の実権を取り戻すつもりよ。もっと言えばあの男の家族、組みした一族の者は追放(・・)ね」


 ヴェルティオーネの言葉にアディルは少し考え込む。ヴェルティオーネは追放と言った所を見ると父親とその家族の命を奪うまでは考えていないようである。これは甘さから来るものなのか、それとも器の大きさから来るものなのか正直アディルには判断がつかない。


「甘い……といいたそうね」


 そこにアディルの表情から思うところを推測したヴェルティオーネが言う。その言葉はアディルの考えが想定内であったためであろう。特に気を悪うした様子はない。


「ああ、相手はあんた達を殺そうとしてきた。こう言っちゃ何だが、既に状況は殺るか殺られるかだ。足元を掬われる事になりかねないぞ」

「普通に考えればそうよね」


 ヴェルティオーネがあっさりと言うと意味ありげな視線をアディルに向ける。


「普通に考えればということは特殊な手段があると言うことか……」

「ええ、ここまでの話を聞いてあなたは私達に付くつもりはないかしら?」

「は?」


 ヴェルティオーネの提案にアディルはつい芸のない返答をしてしまう。その事にヴェルティオーネはニンマリと笑った。


「勝てる戦だけど、どうする?」


 ヴェルティオーネの自信たっぷりな言葉にアディルは少し考え込む。するとほんの一瞬であるがヴェルティオーネは緊張した表情を浮かべた。それは本当に一瞬であり、気づく事が出来る者はそうそういないだろう。

 だがアディルはヴェルティオーネの表情を見た時にその心情を看破する。アディルが断らないかどうかに対して緊張したのだ。アディルはヴェルティオーネに静かに言う。


「本音を言えよ。腹芸を使うのは無意味だぞ」

「っ……」


 アディルの言葉にヴェルティオーネは言葉を詰まらせる。それがアディルの推測を確信の行きにまで高めることになった。


「正直な所、あんたは追い詰められてる。王都で訴えるといったがそう簡単な話じゃないんだろ?」

「……」

「父親の破滅は決まってるが、だからといって侯爵家を取り戻せるわけじゃない」


 アディルの言葉にヴェルティオーネは言葉を発する事は出来ない。ヴェルティオーネ同様にシュレイとアンジェリナも厳しい表情を浮かべている。


「さて、その事を再確認した上でもう一度聞きたい……本当に勝てる戦なのか?」


 アディルはそう言うとじっとヴェルティオーネを見つめる。


「命を張らせようってんなら、それなりの礼儀ってやつがあるだろ?」


 アディルの声には嘘を許さない力が込められている。アディルの声を受けてヴェルティオーネは静かにため息をつくとしっかりとアディルの目を見つめ返すと口を開いた。


「そうね。確かにその通りだわ。あの男の破滅は間違いないけど、私が侯爵家を取り戻す事が出来るかどうかは勝算はまったくないわね。その上であらためてあなたを勧誘させてもらうわ。私達の味方になってちょうだい」

「ああ、いいぜ」

「確かに命をかけるには……え? 今なんて?」


 ヴェルティオーネはアディルに尋ねる。ヴェルティオーネは別にアディルの言葉を聞き逃したわけではない。きちんと耳でアディルがどのような返答をしたのか認識した上で聞き返したのだ。

 

「俺はあんた達の味方につくと言ったんだよ。ちゃんと聞いてろよ」


 アディルの呆れた様な声にヴェルティオーネは少しばかり心外という表情を浮かべた。


「あなた正気?」

「ああ、本気だ。俺はあんた達につく」

「いえ、正気かどうかを聞いたんだけど……」


 ヴェルティオーネは呆れた様に言うとアディルはニヤリと笑って言う。


「まともなやつがこの世にいるわけないだろ。人間はみんなどこかおかしい。そう考えれば正気と言う言葉に拘る必要はないさ」

「ふん」


 アディルの言い方に反論することが出来なかったヴェルティオーネは少しばかり拗ねた様にそっぽを向いてしまう。

 その様子を見てアディルはまたも笑う。そして今度はアディルだけでなくシュレイもアンジェリナも顔を綻ばせた。


「あ、そうそう。俺はアディル=キノエだ。アディルと呼んでくれ」


 アディルが名乗るとヴェルティオーネ達も頷いた。


「アディル……ね。私の事はヴェルでいいわ」

「シュレイだ。よろしくなアディル」

「アンジェリナよ。よろしくねアディル」


 四人は互いに頷きあう。


「さて、ところで三人がこちらを伺ってるんだがどう思う?」


 アディルがそう言いつつ自分の後ろを指差した。後ろで伺っている者からは見えないようにアディルは自分の体で隠した上での仕草である。アディルの行動にヴェル達は後ろで伺っている者達に気取られないようにしていた。


「間違いなく敵と思って良いわよ。私の味方はここにいる三人だけだもの」

「ヴェルって結構寂しい奴なんだな」

「うるさいわね!! 余計なお世話よ!!」


 ヴェルはアディルの言葉に頬を膨らませて言う。そのような子どもっぽい仕草であるがヴェルのような美少女が行うと魅力的に見えてしまうので容姿の優れた者は得だと言わざるを得ない。


「とりあえず先手を打たせてもらうわね」


 アンジェリナは魔力の塊を掌に集めると即座にアディルの後ろの茂みに魔力の塊を放った。



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