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因果応報②

「私はこいつらを許さない……でも殺さないわ」

「了解」


 マリーの言葉にエリスは簡潔に返答する。エリスは元々、マリーがどのような決断をしようと受け入れるつもりだったのだ。


「お父さんの仇は取りたいけど、お父さんは私がこいつらを殺す事は喜ばないと思うわ。こいつらにはきちんと罪を償ってもらうわ」

「そう……」

「こいつらの裁きはギルドに一任しようと思うの」

「マリー……提案があるの」

「提案?」


 エリスの言葉にマリーは首を傾げつつ言う。


「こいつらは貴族と繋がっているのよ。ギルドに訴えても、なあなあで済ませてしまう可能性もあるわ」

「そんな……」


 エリスの言葉を聞き、マリーの顔が曇る。マリーは自分の手で殺す事はしないという決断をしたのだが、軽い罰則で済ませるつもりなど一切無いのだ。


「慌てないで、マリーが自分の手でこいつらに報いを加えない時は私達が報いをくれてやるつもりだったのよ」

「え?」

「こいつらが素直に犯罪の告白をした事に対して不思議に思わなかった?」

「そう言えば……確かに」

「こいつらは私の術で嘘をつけないようにしてるのよ」

「え?」

「こいつらは私達も襲って殺そうとしてたのよ。こいつらを私達は蹴散らしたわ。こいつらの生殺与奪の権利はまずはマリーが持ってたのよ。もしマリーが殺さないという決断をした場合は私達が報いをくれてやろうという話だったのよ」

「ちなみにどんな報いを?」


 マリーはゴクリと喉をならしながらエリスに尋ねた。


「こいつらには私達の駒として一生を終えてもらうわ」

「駒?」

「ええ、ヴェル、エスティル、アリスの三人はこれから大きな相手と戦う事になるわ。当然ながら私達も仲間として一緒に行動する以上、それらの相手と戦う事になる。戦力は多い方が良いわ。しかも、死んでもまったく心が痛むことのない連中よ。心置きなく使い潰せるわ」


 エリスの言葉にマリーは呆気にとられているようであった。さすがにこの提案は想定外のものであったのだ。


「えっと……それって戦奴というやつにするということ?」

「そうともいうわね」


 エリスの返答はあっけらかんとしており、まったく心を痛めている様子はない。エリスの思考もかなり一般常識とズレが感じられるのだが、エリスの態度により違和感をマリーは感じなかった。


(エリス……やるな。想定外の事を告げ思考が冷静さを取り戻す前にたたみかける。しかも、マリーの望む形の着地点を提示している)


 アディルはエリスの交渉に感歎していた。エリスの話の持って行き方は、無理なくしかもマリーの希望に添うものであるからだ。


(みんなはどうかな?)


 アディルはさりげなく仲間達に視線を向けると仲間達もアディルと同様の感想を持っているようであったのだ。


「マリーこいつらの一生は犯した罪を償うことにすべてを捧げさせるわ」

「そう……エリスありがとう」

「どうして礼を言うの?」

「エリスの提案は私の気持ちを汲んでの事でしょう? 元々あの報酬で依頼を引き受けたのは私の事を思っての事よね。その気になれば私の了解など取らずに自分達で処理することも出来た。それをしなかったのは私への配慮だと思うわ」

「さて、何の事かしらね? 良い方に考えすぎじゃない?」

「かもね。でもエリスのおかげで私はようやく父さんの死から前を向いて歩いて行ける……それだけは確かよ」


 マリーはそう言って微笑む。何かが吹っ切ったかのような笑顔であり、アディル達も顔を綻ばせた。


「そう、まぁ褒めてくれるのを否定するのもおかしな話だし、マリーの言葉通りと言う事にするわね」

「うん」


 エリスとマリーはそう言って笑い合った。


「それじゃあ、依頼はこれで終わりね」

「うん、ありがとう。エリスに依頼して良かったわ」

「ふふ、もっと褒めてくれて良いのよ♪」

「はいはい♪」

「それじゃあ、こいつらが近くにいたらマリーも不愉快でしょうから、出発するとしましょ」


 エリスがすぐに出発することを示唆するとマリーの顔が少しばかり曇った。もう少しエリスと話をしたいのであろう。


「え、もう行くの? 何なら泊まっていったらどう?」

「ありがと、でも今出発すればギリギリ日が暮れる前に王都に入れるわ」

「そう……」

「また、落ち着いたら遊びに来るわね」

「本当!! 絶対来てね!!」

「うん♪」


 マリーがエリスの手を取り、真剣な表情で言うとエリスはニッコリと笑ってマリーの気持ちに答えた。


「みなさん、エリスのことをよろしくお願いします。私の大事な友達なんです」


 マリーはそう言うとアディル達にペコリと頭を下げた。


「任せてくれ。エリスは俺達の大事な仲間だ。失いたくないというのはマリーと一緒だよ」


 アディルの返答にマリーがエリスを見てニンマリと笑った。その意味ありげな嗤いにエリスは明らかに動揺したようである。先程までのエリスの凜とした態度とは雲泥の差であった。


「へぇ~エリスって……へぇ?」

「ほぉ~そういう事? へぇ~」

「なるほど……なるほど……そういう事~?」

「う~ん、まさかと思ったけどそういう事なのね?」


 女性陣が意味ありげな表情と声の調子でエリスに言うとエリスは顔を真っ赤にした。


「にゃにゃに言ってるにょよ!!」


 エリスの分かりやすい動揺に女性陣は分かりやすい反応であると好意的な笑みを浮かべた。何人かは少しばかり複雑な表情を浮かべているのだが、それが誰かはここでは触れないでおく。


「もう、マリーも止めてよね!!」

「ふふふ、ごめんね♪」


 マリーは舌を出してエリスに謝罪するがそれが決して本心からのものでない事を全員が察していた。


(この会話に加わるのは止めておこう。なんかとんでもない事になりそうだ)


 アディルは確かめるのが何となく躊躇われたために女性陣の会話への深入りは避ける事にした。古来より女性陣のおしゃべりに男が無防備で入り込むとロクな事にならないのだ。


「……ふ~む、よくわからん。アディル分かるか?」


 シュレイがアディルに呑気な声で語りかけていた。



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