魔姫と竜姫の事情②
「竜神探闘?」
アリスの言った竜神探闘の意味を知らない面々は鸚鵡返しで返答する。アリスとしてもその反応は予想の範囲内であるため落胆する事はない。
「竜神探闘というのは、竜神帝国における決闘方法よ」
「決闘?」
アディルの声は疑問の感情に満ちていた。アディルの中で決闘とはあくまで個人レベルのものである。ところがアリスは戦力確保のために行動しているというのだから矛盾点を感じてしまったのだ。
「そう、竜神探闘の特徴は、個人レベルだけでなく複数で戦う事になっているのよ」
「それってもう戦争じゃないのか?」
「そうとも言えるわね。竜神帝国は“武を貴ぶ”という風潮が強くてね。戦によって雌雄を決するのよ」
「なるほどな。でもそれなら金持っている方が遥かに有利だろ。それって公平性に欠けるんじゃないのか?」
アディルの言葉に全員が頷く。この竜神探闘というのは結局の所強いものが全てであり弱い者は泣き寝入りするしかないような制度としか思えなかったのだ。
「ううん、例えば平民が貴族を訴えた場合には、皇帝陛下が資金を拠出して数を集めることになるわ」
「ほう」
「この竜神探闘の上限は各陣営で百なのよ。そしてどのような高い地位のものであっても竜神探闘に訴えられれば辞退することは出来ないのよ」
「つまり竜神探闘というのは支配者階級にとって一種の戒めというわけか」
「そういうこと、支配者達にとって被支配者階級を虐げれば竜神探闘で訴えられる可能性がある以上、被支配者階級を無下に扱うわけにはいかないというわけ」
「納得したよ。アリスの言った理由で考えれば竜神探闘は、統治に対して有効な手段と言えるな」
アディルがそう言うとアリスはニッコリと笑う。アリスは表面上、ツンツンとした態度を取ることがあるためきつい印象を与える事があるのだが、笑うと普段とのギャップからとてつもなく可愛くなってしまうのである。
「それでアリスの竜神探闘の相手は誰だ?」
アディルの問いかけにアリスは先程までのにこやかな雰囲気から瞬間的に怒りの表情を浮かべる。その急激な変化にアディル達は密かに驚く。
「私の竜神探闘の相手は、イルジード……私の叔父よ」
「叔父が相手か」
「私の両親の仇……絶対に許すつもりはないわ」
アリスの目に憎悪の炎が燃えさかるのをアディル達は察した。
「復讐か」
「何よ悪い?」
アディルの呟いた言葉にアリスは瞬間的にキッとした視線をアディルに向け言い放った。刺々しさは過剰なものであるがそれによってアディルが怯むことはない。
「いや、全然。むしろそれぐらいシンプルな理由の方が俺としてもやりやすい」
「シンプルって……そんな」
アディルの言葉に抵抗を持ったアリスが反論しようとしたが、アディルがそれを手で制した。
「お前は大事な両親を殺された。その復讐を行おうとするのは至極当然だ」
「あ、ありがと……」
「ひょっとして復讐なんかするもんじゃないとか言うアホの言葉を気にしてたとか?」
アディルの言葉はある意味、配慮に欠けるというものであったろう。だがアディルとすれば復讐を行うも止めるもそれを決定するのは本人であり、他者がとやかく言うものではないのである。
「そう言うアホに限って自分が同じ立場になったら怒り狂うんだよな。結局の所、他人事だから復讐なんか止めろとかいう無責任な事が言えるのさ。そんな覚悟が不徹底なやつのいう事なんざ無視だ無視!!」
アディルの身も蓋もない言い方にアリスは少しばかり溜飲が下がったのだろう。わずかながら表情が明るくなった。
「も、もちろんよ!! アディルに言われるまでもないわ!! 私からお父様とお母様を奪ったイルジードに鉄槌を食らわせてやるわ!!」
アリスが握り拳を天に掲げて宣言するのを全員が黙って見ている。声にこそ出さないがアリスに対してできる限りの支援をしようという視線が注がれていた。
「アリス、私も手を貸すわ!! たった七人だけどやるわよ!!」
「ヴェルありがとう!!」
ヴェルがアリスに言うとアリスは喜色を浮かべてヴェルの手をとった。確かな友情の芽生えを感じさせるワンシーンであるが、その背景には中々血生臭いものがある。
「とりあえず私の事情はこんなところよ。ところでさっき言ってたヴェルの事情ってのも聞かせてくれない?」
アリスの言葉にエスティルも同意とばかり頷いた。
「うん、私はこうみえてもレムリス侯爵家の人間なのよ。入り婿の父が邪魔な私を殺そうとしているから反撃のために力を蓄えているのよ」
「入り婿……って随分と舐めた事をしてくれてるのね。身の程を知らしめてやるわ」
「種馬の分際で舐めた事をしてくれるわね」
エスティルとアリスがヴェルの説明に明らかに不快感を感じたのだろう。殺意というものがその声に含まれはじめた。
「ま、落ち着けって。すぐに報いを食らわせてやるが準備が必要だ。それは二人もわかるだろう?」
「まぁね」
「確かにそうね」
アリスとエスティルがそう言って頷くと今度は灰色の猟犬、ビスト達に視線を向けた。その視線には好意のかけらも含まれていないために、駒の面々は身を震わせた。
「ところでこいつらは駒と言ったけど、何したの? みんなが何の理由も無く人を駒扱いするなんて考えづらいから何か理由があるんでしょ?」
アリスの質問に答えたのはエリスである。
「こいつらは即席で組んだチームメンバーを襲ってたのよ。女の人は輪姦し、男は殺して物品を奪う。しかも陵辱した後は殺すという外道共よ」
「……クズね」
「同情の余地無しね……というよりも始末しないの? 被害者の方々のためにも斬り刻んでやるべきじゃないかしら」
「エスティルったら何言ってるのよ。焼き殺した方が良いと思うわ」
エリスの説明を聞いた二人は絶対零度を遙かに下回る冷たい視線でムルグ達を見るとムルグ達の何人かは顔を青くした。注がれる視線の冷たさもさることながら、二人の殺気が突き刺さりとても平静さを保つことは出来ないのである。
「こいつらを捌くのは私達じゃないわ。被害者の遺族の方々よ」
エリスの言葉にアリスとエスティルは何かを考え込み顔を上げると静かに頷いた。
「そうね。確かに裁くのは私達じゃないわね……」
アリスの静かな言葉は、自分と遺族の境遇を考えたからであろう。自分の知らないところで勝手に終わっていたというのは遺族としては納得出来ないだろう。
「よし、それじゃあ帰るとしようか」
アディルの言葉に全員が頷くと元来た道を戻っていった。




