表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/202

魔姫と竜姫⑧

 エスティルは魔剣ヴォルディスをヒュンと振るうとニコリと笑う。妖艶な笑顔はエスティルの容姿の美しさ妖しく飾り立てた。


「さて、いくわよ」


 エスティルはそう宣言するとマルトスに向かって走り出した。まるで翔るように軽やかな足取りで一瞬でマルトスとの間合いを詰めるとヴォルディスを横薙ぎに振るう。


 エスティルの横薙ぎの一閃をマルトスは戦槌の柄で受ける。


 そしてここでエスティル以外誰もが予想しない事が起こったのである。エスティルの魔力によって形成された刃がマルトスの戦槌の柄で触れた箇所からぐにゃりと曲がるとその勢いのままマルトスを襲ったのだ。


「な!!」


 マルトスは虚を突かれたが致命傷を避けるために首を横に捻ったおかげでエスティルの刃が頭部を切断するという事にはならなかった。だが、完全に躱しきる事は出来ずにマルトスの頬はザックリと斬り裂かれることになったのである。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 マルトスは咆哮すると戦槌を振り回し始めた。その咆哮は頬を斬り裂かれた怒りというよりも完全に失った戦いの流れを取り戻すための咆哮であった。

 だが、エスティルはまったく動じることなく振り回される戦槌を躱しつつヴォルディスを振るう。

 振るわれたヴォルディスはグニャリと形を変えつつまるで鞭のように振るうごとに軌道を変えマルトスを襲った。


(く……速い……いや、軌道が読めない)


 マルトスはエスティルの剣筋を読み切ることは出来ない。エスティルの刃が少しずつマルトスを斬り刻み始める。

 そこにマルトスとしては最悪のことにアリスも間合いに入ると変幻自在の双剣の舞いを展開する。エスティルの件だけでも苦労しているのに、アリスの双剣がそこに加われば結果はどうなるか分かりきっていた。

 アリスの右剣がマルトスの左腕を斬り飛ばした。マルトスに呆然とした表情が浮かび、斬り飛ばされた左腕が地面に落ちると自分が致命的な負傷をした事に気づくと大きく顔を歪めた。

 それは明らかな隙であった。その隙を見逃さなかったエスティルが鞭のようにヴォルディスをしならせた斬撃を放ったのである。

 エスティルの斬撃はマルトスの鎧を紙のように斬り裂き、マルトスの体を斬り裂いた。


「が……」


 マルトスの斬り裂かれた鎧の隙間から鮮血が舞った。


「エスティル!!」

「アリス!!」


 二人は同時に叫ぶと動きの止まったマルトスにそれぞれとどめの一撃を放つ。


 ドスゥゥゥ!!

 ズ……


 アリスの右剣がマルトスの喉を貫き、エスティルの突きがマルトスの心臓を貫いた。


「こ、この俺が……貴様らのような……」


 マルトスは膝から崩れ落ちるとアリスとエスティルは貫いた剣をマルトスから引き抜いた。剣が引き抜かれるとマルトスはそのまま崩れ落ちる。何の抵抗もなく兄頭部がぶつかった事からすでにマルトスの生は終わっていたのだろう。


 完全に動かなくなったマルトスをしばらく全員が見つめているとマルトスの体がボロボロと崩れ始めた。


「え?」

「何これ?」


 アリスとエスティルが驚きの声を上げる。無論アディル達も驚いているのだが、アリスとエスティルは目と鼻の先での出来事なので驚きも大きかったのである。

 全員の驚きを無視してマルトスの体はさらに崩れていき、やがて塵となって消滅した。まるでマルトスという存在が始めから存在していなかったかのような出来事であったが、マルトスが身につけていた武具がその場に残っており、マルトスが存在した証拠となっていた。


「すごいな……あそこまで圧倒するなんて思わなかったぞ」


 戦い終わってから、アディルがアリスとエスティルへと向かって歩きながら声をかけた。


「ありがと、流石に二人だと余裕だったわ」

「そうね。アリスがあんまり強いから楽できたわ」

「それはこっちのセリフよ」


 アリスとエスティルは互いの力量に賛辞を送る。実際にマルトスをここまで圧倒できたのは二人の力量がずば抜けていたからなのは間違いない。だがそれでも一対一ならここまで圧倒できないだろう。


「それでみんな私達と組んでくれる?」


 アリスがアディル達全員に視線を移して言う。エスティルも同様にアディル達に視線を移した。


「ああ、もちろんだ。こちらこそよろしく頼む」


 アリスの問いかけにアディルが返答する。アディルの言葉にアリスとエスティルは嬉しそうな表情を浮かべた。


「これからよろしくね」


 エスティルが嬉しそうに言うと全員が顔を綻ばせて頷いた。いやエリス以外と言った方が正確である。エリスは少しだけ不安気な表情を浮かべており、アディル達はそれに気づくと全員が首を傾げる。エリスが不安気な表情を浮かべる理由に誰一人として思い浮かばなかったのである。


「どうした?」


 アディルがエリスに尋ねるとエリスは意を決したように言う。


「みんな、私もみんなの仲間に加えてちょうだい!!」


 エリスの言葉にアディル達の間に「はっ?」という空気が流れた。アディル達は互いに視線を交わす。


「ダメ……?」


 エリスの不安気な言葉にアディル達全員は慌てて首を横に振った。その様子を見てエリスはほっとした表情を浮かべる。


「あのさ……俺はとっくにエリスは仲間と思ってたんだけど……言ってなかったか?」

「え? ……うん」


 アディルの問いかけにエリスは戸惑いつつ返答する。


「だっけ?」


 アディルがヴェル達に視線を向けるとヴェル達も首を傾げる。エリスとはこの数日寝食を共にしたことですっかり同じチームという感じになっていたのである。


「あ、確かに言ってないかも知れない」

「あまりにも自然に馴染んでたから……すでにチームを組んでいたつもりだったわ」

「私もです……」


 シュレイ、ヴェル、アンジェリナが迂闊だったという声で言う。


「そうだったの? アリスやエスティルには仲間になる事をあそこまで勧誘してたのに私には全然言ってくれないからすごく不安だったのよ」


 エリスはため息をつきつつ言う。自分一人誘われなかった事で少しばかり不安だったのである。この仕事が終わったら“はいさよなら”というのはエリスにとって寂しすぎるものだったのだ。


「「「「エリス、俺(私)達と組んでくれ(ちょうだい)!!」」」」


 アディル達四人がエリスに向かって言うとエリスはニッコリと笑って頷いた。それを見て全員の表情が綻んだ。


 のちに最強のハンターチームと呼ばれる「アマテラス」の結成であった。

 ボトムズで言えば「いよいよキャスティング終了」と言ったところです。古いというツッコミはお控え下さい(^∇^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ