魔姫と竜姫④
「なにそれ?」
アリスの神の戦士という言葉を聞いたアディルの第一声がそれであった。一応確認のためにアディルはヴェル達を見るがヴェル達も同じような表情を浮かべているため、特段アディルが無知というわけではなさそうである。
「神の戦士というのは神々が作ったという生体兵器よ」
「はぁ……」
「もう少し驚きなさいよ」
「といわれてもな……」
アディルは首を傾げながらアリスに返答する。神の作った生体兵器と言われてもピンとこないのだから仕方がない。
「エスティルもそうなのか?」
「うん。私は魔神の下僕というやつだけど呼び名が違うだけでアリスのと一緒だと思うわ」
「なるほどな。それで二人はその生体兵器を取りに来て鉢合わせたというわけか」
「そういう事、私はどうしても神の戦士を手に入れないといけないのよ」
「悪いけど私も譲るつもりはないわ。私も魔神の下僕がどうしても必要なのよ」
アリスとエスティルは互いに決意を込めた表情を浮かべて言う。互いに譲るつもりは全くないようである。
「なぁ提案なんだけど……」
「何?」
「ここは引けないわ」
アディルの言葉に即座にアリスとエスティルは返答する。先程までの緩んだ空気が再び張り詰めていく。ただしそこに一切殺気はないことから少しはアディル達の事を信じても良いと考えているようである。
「二人が生体兵器を手に入れようとするのはそれを使うだけの何かが必要だという事だろ? これから強大な連中と一戦交えるとか。国が侵略を受けているとか」
「「……」」
アディルの問いにアリスもエスティルも沈黙を守る。どうやらそこの事情を話すつもりは現段階ではないらしい。
アディルはそれを察しているが素知らぬ風にさらに続ける。
「そこでだ。俺達が二人に助太刀しようじゃないか」
「は?」
「え?」
「組もうと言ったろう? 俺達なら戦力として大いに期待できる」
「確かにあんた達の実力は確かでしょうけど無理よ」
「アリスは保留か……エスティルはどうだ?」
「え?」
「私は保留じゃなく否定したじゃない」
アリスは口を尖らせて言う。アディルが自分の意見を完全に無視しているようで正直、不愉快なのだ。エスティルもまたアリスと同意見のようでアリスの意見を無視するアディルに対して訝しむような視線を向けた。
「その様子じゃエスティルもアリスと同意見で保留というわけだな。言葉で言い聞かせるよりも実際に見せた方が早いだろうな」
「何を見せるって言うのよ?」
「そりゃ俺達と組むメリットさ」
アディルが事も無げに言うとエスティルは目を細めつつ言う。
「つまり私達と戦うと言うこと?」
「いや……戦う相手はその生体兵器だ」
「「は?」」
「ちょっとアディル……正気?」
アディルの提案した意見に全員が呆気にとられたかのように言う。ヴェルはアディルの正気を疑ったほどである。
「当然だ。それぐらいやらないとこの二人は俺達を信頼してくれないだろ」
「かも知れないけど……」
「あ、ちなみに俺一人でやるからみんなは見ていてくれるか?」
アディルのさらなる提案に全員の目が点になる。いや、アリスとエスティルに至ってはアディルの無知を嘆くかのような反応を示していた。
「あんたねぇ、神の戦士を舐めないでくれない? 一人で戦うなんて無茶も良いところよ」
「いや、正直それぐらいのことをしないとお前ら二人の心は手に入らないと思ってさ」
「へ……え、心?」
「それって……」
「ちょっと何いきなり口説いてるのよ!!」
「アディル……いきなりあったばかりの女性を口説くというのは感心しないわよ」
アリスとエスティルは少しだけ頬を染めながら呟き、ヴェルとエリスは不機嫌オーラを放ちながらジト目を注ぎながら言う。
「誤解すんなって俺は二人を口説いてるわけじゃないよ。勧誘してるんだよ」
「「「「勧誘?」」」」
ヴェル達四人の声が見事なまでに揃った。シュレイとアンジェリナは首を傾げている。
「ああ、二人が組んでいるのは暫定的って言う感じだろ。そこでちゃんと俺達が頼りになるところを見せる事でちゃんと仲間になろうと思ってる。俺達の当面の目的は侯爵家との喧嘩だ。アリスとエスティルの実力は悪食王を斃した一件ですでに証明されてる。こんな人材を見す見す見逃すなんて阿呆のすることだろ」
アディルの返答にヴェルとエリスは納得の表情を浮かべ、アリスとエスティルは少しばかり残念そうな表情を浮かべるが、アディルが二人を口説こうとしているわけではないことだけは理解したようであった。
「どうやら納得してくれたみたいだな」
「呆れてるだけよ。まぁお手並み拝見といかせてもらうわね」
「私もよ。アディルが私達と組むに値するかどうかを確かめさせてもらうわね。あ、助けが欲しいときは声かけてね。いつでも助太刀してやるわよ」
アリスもエスティルもアディルに憎まれ口を叩くがそれはアディルを見くびっているというわけではない。アディルの実力は確かに高いが一対一なら自分達に及ばないと見ているのだ。
「決まりだな。俺が生体兵器に勝ったら、俺達と組んでもらう。異存はないな?」
「ええ、神の戦士を一人で斃せるような実力者ならこっちから頼むところよ」
「私もエリスと同意見よ」
「よし、それじゃあ行くとしようか」
アディルはそう言うとアリスとエスティルに視線を向け先を促した。アリスとエスティルはアディルの視線を受けると先頭に立ち歩き始める。
扉を開けると真っ暗な通路が見える。アリスとエスティルが一歩踏み出すと通路の灯りが灯っていく。
アリスとエスティルの先導の元、アディル達は通路を歩き、扉の前に到着するとアリスが振り返りアディルを見る。
「この先に神の戦士がいるはずよ」
「了解だ」
アディルはニヤリと笑うと扉を開けた。
次回はバトルです(^∇^)




