魔姫と竜姫③
「アリスにエスティルか。よろしくな」
アディルは気負うことなく答えると二人はうんと頷く。
「ところでさ。二人とも幻術で隠してるけど、別に隠さなくて良いぞ」
アディルの言葉に二人は一瞬だがアリスとエスティルは驚きの表情を浮かべる。それを見てアディルは小さく笑うとさらに続ける。
「俺達は別に種族を理由に迫害するほど自分の実力に自信がないわけじゃないぜ。な?」
「まぁ、はっきり言ってそんな事でしか自尊心が保てないと思われるのは心外ね」
アディルの意見にヴェルが賛同するとシュレイ、エリス、アンジェリナも同意とばかりに頷いた。
アディル達五人は本心からの言葉である。それゆえにアリスもエスティルも迷った。二人は鋭敏な察知能力により、相手が本音で話しているかどうかを即座に推察してしまうのである。アディル達は少なくとも胸襟を開いて話している。それに応えないのは自分達が不誠実に思われたのである。
「わかったわよ」
「あなた達に不誠実なのは何か嫌ね」
アリスとエスティルはそう言うと二人の頭部に角が現れる。エスティルは側頭部に羊のような湾曲した角であり魔族である事を示し、アリスは竜の角である事から竜族である事が窺えた。
「エスティルは魔族、アリスは竜族か」
「まぁね、アディルの言う通り、私は竜族よ。竜神帝国出身なの」
「私は魔族の国であるガーレイン帝国出身よ」
「へぇ~」
「何よその気のない返事は」
アディルの反応にアリスは気分を害したように言う。
「いや、正直な話だけど竜神帝国もガーレイン帝国も初耳だからな」
「まったく、それでも気を使って驚いてみせるというのも気遣いだと思わない?」
「うわぁ~ナント アリスサマ ハ リュウジンテイコク ノ シュッシンナンデスカ!?」
「よし、アディル決着をつけるとしましょう」
アディルの棒読み発言にアリスはにっこりと嗤い言う。怒気を発しながら笑うと言う中々の高等技術の披露にアディルは苦笑を浮かべつつ言う。
「悪かったよ。しかし、アリスもヴェルと似てるな。反応がそっくりだったぞ」
「え?」
「仲良くなれるかも知れんな」
アディルがそう言うとヴェルも嬉しそうに嗤いながら頷いた。ヴェルの反応にアリスも少しばかり嬉しそうであるが口に出した言葉は少しばかり素直ではない。
「べ、別にそんな事で私は取り乱したりしないからね」
アリスの頬に少しだけ赤みが差しているのを見て全員がアリスの素直じゃない態度を好意的に見ている。何となく小動物が精一杯威嚇しているようなそんな可愛らしさを感じてしまっているのだ。
「アリスって呼んで良い!?」
「私も!!」
「私もよろしいですか?」
ヴェル達はアリスに一気に近付くと目をキラキラさせて言う。
「う、うん」
アリスはさらに顔を赤くしながら頷いた。
「私の事もヴェルって呼んでね♪」
「私はエリス」
「アンジェリナです」
三人はアリスに嬉しそうに言うとエスティルにも視線を移す。
「ねぇエスティルって呼んでも良い?」
ヴェルがエスティルに尋ねるとエスティルもまた戸惑いの表情を浮かべたがすぐに笑顔を浮かべて言う。
「もちろんよ。私もみんなの事をそんな風に呼ぶけど良い?」
エスティルの嬉しそうな返答にヴェル達も見とれてしまう。エスティルは笑みはまるで聖女のように清らかなものであり、容姿のすばらしさと相まって神々しさすら感じるほどである。
「もちろん!!」
「エリスって呼んでね!!」
「アンジェリナです!!」
「いいわ。と、特別にあんた達には許してあげるわ」
ヴェル達の反応も上々であり、これをきっかけにして女性陣はワイワイと親交を深め始めた。
「何か蚊帳の外だな」
「そういうな。女性が仲間になるのに必要な通過儀礼というものだ」
「そんなもんか?」
「ああ、シュレイはヴェルとアンジェリナ以外に女友達はいないのか?」
「ああ、事務的な会話しかしたことないな。何か俺が話しかけるとみんな顔を引きつらせて離れていくんだ」
シュレイがそう言いつつため息をつく。哀愁を誘うような言葉なのにどことなく悲壮感が感じられないのは容姿が整ったも者の余裕かも知れない。
(多分、それアンジェリナが手を回してたんだろうな)
シュレイは容姿、性格は優れているのは間違いない。だが、アンジェリナのガードが堅すぎてシュレイにまで女性陣の好意が届かないために自分は女性に縁が無いと勘違いしているのだ。
(ま、下手につつくとアンジェリナからどんな怨みを買うか分からんから言わないがな)
アディルはアンジェリナの負のオーラを発したときの背筋を走る悪寒を思い出すと身をぶるりと震わせる。単純な戦闘に置いてアディルの方がアンジェリナよりも圧倒的に上であることは理解している。アンジェリナの魔術のほとんどをアディルは相殺することが可能であるからだ。
しかし、それとは別の所で踏み込んではいけない領域があることをアディルは知っており、アンジェリナはシュレイに関わる事に領域がものすごく広いのだ。
「ま、気を落とすな」
アディルの努めて明るい返答にやや納得しづらい表情を浮かべつつシュレイも頷く。
それからアディルとシュレイは女性陣が楽しそうに話しているのをしばらく眺めることになるのである。
ある程度の会話のやり取りは女性陣が仲良くなるためには必要な措置であると認識しているアディルは静観を選んだのである。
ところが十分程経ったが女性陣のおしゃべりの勢いは一向に衰える気配を見せないために、アディルが声をかけることにする。このまま放っておけばどこまでも話が続くのではという考えが浮かんだのだ。
「ちょっと良いか。そろそろ話を進めるぞ」
アディルの言葉は少々強引だが多少の強引さを示さない事には女性陣の流れに押し流されるのはあきらかであるのだ。
「あ、ごめんね。つい話し込んじゃった」
アディルの言葉にヴェルが謝罪する。楽しくおしゃべりしている状況でないことを思いだしたのだろう。
「後で話せば良いさ。それでアリスとエスティルに聞きたいんだが、この先に何があるんだ?」
アディルの言葉にアリスとエスティルは互いに視線を移すと静かに頷いた。
「この先には神の戦士がいるのよ」
アリスの言葉には並々ならぬ気迫が込められていた。




