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魔姫と竜姫②

(強い……)


 それがアディルが二人の戦いを見ての正直な感想である。


 黒い全身鎧(フルプレート)に身を包んだ剣士も銀髪の双剣を操る少女も凄まじいまでの速度で剣を振るい、打ち合わせた両者の剣が火花と澄んだ響きを発しっており、それが不思議な美しさを演出していた。


 剣士は少女へと上段斬りを放つ。少女は左手の剣で受けるが、剣士の斬撃は少女の想定よりも重いようであった。少女の表情に驚きの表情が浮かんだのはその現れであろう。


「く……やるわね」

『そちらもね』


 少女と剣士は短い言葉で互いの力量を褒め称えると、一旦二人は距離をとった。


「どっちもすごいわね」

「ああ、エリス油断するなよ。俺達に好意的とは限らないからな」

「分かってるわ」


 アディルとエリスは短く会話を交わすと剣士と少女にさりげなく備える。これほどの使い手を見るのはアディルとしてもほとんどないレベルであり警戒するのは当然と言えるだろう。

 ヴェル達も剣士と少女の並々ならぬ力量を見抜き、備えているのは流石であると言うべきであろう。


「さて、それであいつらはあんたの仲間?」


 少女が剣士に向かってチラリとアディル達に視線を向けて尋ねる。


『いいえ、私の仲間じゃないわ』

「そう……それじゃあ、あんた達に聞きたいんだけど私と敵対する意思はある?」


 少女はアディル達に向け言い放った。言葉の端々にアディル達を警戒しているのがわかる。


「いや、俺達はハンターギルドに所属しているハンターだ。仕事でこの遺跡の調査に来ただけだ。あんた達に敵対意思はないよ」

「そう……」

「ただし、そちらが仕掛けるなら話は別だ」

「へぇ……」


 アディルの言葉に少女は声を低める。少女の容姿は美の概念を存分に盛り込んだような素晴らしいものだ。それは少女が険しい表情を浮かべているとしてもまったく損なわれるものではない。


「さてと……どんな展開になるかは鍵を握っているのはそちらだ。友好を選ぶか敵対を選ぶかはそちら次第だ」

「……出来るのは五人か。こっちの剣士もいるし……結構辛いわね」


 少女がブツブツと何事か呟いている。その間にアディルは剣士の方に声をかけることにした。


「そっちはどうだ? 俺達と敵対意思はあるか?」

『いいえ、私としてもあなた達と事を構えるつもりはないわ』

「そうか。判断が的確で助かったよ」


 アディルはそう言うと警戒を解いた。その事に気づいた剣士と少女もまた警戒を解き、張り詰めていた空気が本来の落ち着きを取り戻していく。


「それで聞きたいんだが、あんたらどうして斬り合ってたんだ? 何か怨みでもあるのか?」


 アディルの言葉に少女は首を横に振る。剣士も同様だ。


「ううん、別にこの剣士には怨みなんかないわ。ただ目的のために戦わざるを得なかったというわけよ」

『私も別に彼女に怨みなんかないわ。私もこの先にあるものに用があるのよ』

「この先に何があるんだ?」


 アディルは扉を見ながら少女と剣士に尋ねると二人は言い淀んだ。二人の反応は当然と言えば当然である。ここで目的を話して横から掻っ攫われることになれば目も当てられないからだ。


「心配するな。別にあんた達から横取りするつもりはない」

「それを信じるとでも?」

「まぁ……そうだよな。でもこちらとすれば本心である事は証明しようがないんだよ」

「信用して欲しいならこのまま回れ右して帰ってくれれば良いのよ」


 少女の言葉はとりつく島もないというものであるが、アディルとすればそれだけは避けたいというものであった。


「う~ん、それは困るな。横取りするつもりはないと言ったけど興味がないわけじゃないんだよ」

『じゃあ、信用することは出来ないわね』


 そこに剣士も口をはさんできた。この二人、実の所気が合うのかも知れない。


「そう言うな。俺が興味あるのはお前達二人だ」

「どういうことよ?」

『そっちの彼女は見目麗しいからね。劣情を催しても仕方ないんじゃないの?』

「お前は俺をどんな風にみてんだよ」

『女たらしかな?』

「あんたも言うわね。まぁ私も同意見だけどね」


 少女剣士はそう言ってヴェル、エリス、アンジェリナへと視線を動かして最後にアディルに視線を向ける。剣士の方は兜によって表情はわからないが視線は感じるのだ。


(少しばかり警戒が緩んだか?)


 アディルは二人の声の調子から警戒感が少し和らいだのを感じている。


「はぁ……まあいいよ。このままじゃ埒があかないな。そこでどうだろう。俺達と組まないか?」

「は?」

『え?』


 アディルの提案に二人だけでなく、ヴェル達からも驚きの気配が上がった。アディルはそれを感じたが構わずに続ける。


「俺の提案の意味を理解できないほどのお前らは流れが読めないわけじゃないだろ?」

「く……」

『確かにそうね……』


 二人はアディルの提案の意図を察したのだろう。仕方がないという気配を発生させる。この段階で組む事を提案するという事は、逆に言えば手を組まないものは敗北が確定してしまうのだ。

 もし、少女と剣士が組んでもアディル達が数の面で優位である事は間違いない。いや、拙い連携では逆に互いの持ち味すら殺す可能性がある以上、アディル達が敗北する可能性は著しく低いのだ。


「察しがよくて助かるな。それで手を組むか?」

「仕方ないわね」

『そうね。ここで手を組まないという選択肢をとるのは危険すぎるわ』

「そりゃ良かった。俺はアディルだ。右からエリス、ヴェル、シュレイ、アンジェリナだ」「雑な紹介するなよ……」


 アディルの行った紹介にシュレイが心外だという表情で言う。


「そっちの男達は?」

「ただの駒だ。気にしなくて良い」


 少女が灰色の猟犬(グレイハウンド)達に視線を移してアディルに尋ねる。少女の問いかけは当然というものであるが、アディルの返答は冷淡すぎるというものである。


「それでそっちは?」


 アディルが尋ねると少女が答える。


「私はアリスティアよ。アリスでいいわ」

「アリスか、よろしくな。そっちは?」


 アディルは次いで剣士に尋ねると剣士は兜を外した。兜を外すとファサと青みがかかった黒い髪が現れる。

 剣士の美貌を見て全員の口から感歎の声が発せられた。


「私はエスティルよ」


 エスティルはそう言うとニッコリと笑った。


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