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魔姫と竜姫①

ヒロイン二人追加ですが……絡みはありません

「こっちだな……」


 アディルは残された足跡を辿っていく。この部屋の壁の周囲には扉はなく行き止まりとなっているが、そんな見かけのことに惑わされるものなど誰もいない。実際に、この場で戦闘が行われ悪食王(ガリオンド)が肉片とした強者は元の道を戻るのではなく、そのまま進んでいる。

 何かがこの部屋に仕掛けられているのは確実であり、迷いなく進んでいる事から強者がその仕掛けについて知識があるのも確実とみる事が出来る。


「この壁か……」


 アディルは小さく呟いた所でアンジェリナが一歩進み出る。


「ちょっと任せてちょうだい」


 アンジェリナはそう言うと掌から魔力の泡を数十個浮かべた。浮かんだ魔力の泡はフワフワと飛び周囲に放たれた。

 フワリフワリと飛ぶ魔力の泡がある地点に来るとまるで風に流されるかのような動きを見せた。


「ここが怪しいわね」


 アンジェリナがそう言うとシュレイが迷いなく魔力の泡が妙な動きをした箇所を調べ始めた。


「アンジェリナ、これは?」


 アディルがアンジェリナに尋ねるとアンジェリナはニンマリと笑い返答する。ややドヤ顔っぽくなっているのはご愛敬ということにしておきたい。


「魔力の泡は周囲の状況によって動きを変えるわ。特にこの泡は魔力に反応するのよ。風に流されたような感じだったけど実際は魔力の流れに動かされたのよ」

「つまり、魔力が不自然な流れを作っているのだから魔術が仕掛けられている可能性が高いという事だな」

「そういう事♪」

 

 アンジェリナが片眼をつぶってアディルへ返答する。アンジェリナもまた十分に美少女に分類される容姿をしているのだが、シュレイに対する執着を知るアディルとすれば見とれるという事はないのだ。触らぬ神のたたり無しというやつである。


「あったぞ。ここに何か術式が施されている」


 シュレイが声を発するとアンジェリナが嬉しそうな表情を浮かべてシュレイの元に駆け寄った。


「流石です!! 兄さん!!」


 アンジェリナはそう言ってシュレイに抱きついた。アンジェリナのスキンシップにシュレイは優しく微笑むとアンジェリナの頭を優しく撫でて言う。


「お前がポイントを搾ってくれたからだよ」

「兄さん……好き」

「ん? 何か言ったか?」

「な、なんでもありません!!」


 局地的な難聴となったシュレイにアンジェリナが真っ赤になって言う。シュレイとアンジェリナのやり取りを見ながらアディル達がため息をついた。

 アンジェリナは積極的にいくのだが、最後の最後で引いてしまうし、シュレイはアンジェリナを大切に思っているが、それが妹に対するものなのか、異性に対するものなのかは本人自体もよくわかってないのだろう。


「ねぇ私は一体何を見せられてるの?」

「独り者への怒りを刺激してくれるな」


 エリスのため息交じりの言葉にアディルが面白くなさそうに言う。別にアディルとエリスはシュレイ、アンジェリナに恋心を抱いているわけではない。それどころか両者が上手くいって欲しいと心から思っているのだがそれとこれとは話が別である。


「二人の気持ちもわかるわ……一応主人である私の前でも変わんないんだもの」

「老後寂しいお前とは雲泥……うぉ!!」


 アディルが飛び退いたのはヴェルが魔力の塊を放ったからである。放たれた魔力の塊は壁を穿っており直撃すれば只では済まないのは確実だ。しかもヴェルは何の気配も発せずに放ったためにアディルでさえ躱すのに苦労したというものである。


「ゴメンね、手が滑っちゃったわ♪」

「お前、可愛く言えば許されると思うなよ。俺じゃなきゃ死んでたぞ」

「アディルじゃなきゃ撃たないわよ♪」

「だから可愛く言えば許されるわけじゃねぇよ」


 アディルとヴェルのやりとりにエリスは小さくため息をつく。エリスにしてみれば五十歩百歩というものだ。


「まったくあんた達も変わんないわよ」


 エリスはそう言うとパンパンと手を叩いた。その様子は教師が騒ぐ生徒を鎮めるための方法そっくりである。


「はい、注目!! シュレイ、施されている術式は何?」

「転移のものだな」

「アンジェリナ、起動できる?」

「う、うん」

「ならやってみて」


 エリスは手早く指示を出すとアディルとヴェルに向け言う。


「二人もじゃれ合うのは後にしなさい。アディルは周囲を警戒した上でやってるのはわかるけどもう少し緊張感を持ってね」

「わ、わかった」

「ヴェルもアディルが相手だからってあんな避けづらい攻撃しないの。アディルだって人間なんだから時と場合によっては避けきれない事があるわよ」

「う、うん。反省する」

「次からはもう少し分かりやすい攻撃にしなさいね」

「え?そこはいいの?」


 エリスの言葉にヴェルが驚きの声と表情を浮かべた。そのヴェルの反応にエリスは頷くとさらに言う。


「アディルが失礼な事を言ったんだもの。それに対して怒る権利がヴェルにはあるわ」

「いや、流石に軽口一つで頭吹き飛ばされたんじゃ割に合わないんだが……」


 エリスの提案にアディルが反論するがエリスはあっさりと流してしまう。


「あんた達は転移陣が起動したらまず転移するから心構えしておきなさい」


 エリスは灰色の猟犬(グレイハウンド)に冷たく言い放つと灰色の猟犬(グレイハウンド)達は顔を青くしつつも素直に頷いた。


「よし、起動できたわ」


 アンジェリナの言葉に全員の視線がそちらに向くと壁に魔法陣が浮かび上がっていた。


「それじゃあ、行きなさい」


 エリスの言葉に灰色の猟犬(グレイハウンド)達はゆっくりと歩き出した。転移した先に何があるのか不安で仕方ないのだが、エリスの命令に従わないという選択肢はないのだ。

 灰色の猟犬(グレイハウンド)達は魔法陣に手を触れるとその場から煙の様に消える。消えた度に魔法陣の光が一瞬強くなるので転移したという事が十分にわかるというものだ。


「死んでないわね……移動してるから大丈夫そうね」


 エリスは静かに言うとアディル達に視線を移した。エリスの施した呪血命(まじないのちのみこと)は術者に被術者が生きてるか、どこにいるかぐらいは察知出来るようになっているのだ。


「次はお前らだ。俺達がいくまで転移先で安全を確保しておけ」


 アディルは次いでビスト達に言う。先程のやり取りなどなかったかのような物言いである。アディルはこの辺の切り替えが早いのだ。引き摺るタイプの人には時として奇異に映るかも知れないが、この辺りは修練によって培われたものであると考えてよい。

 戦いは自分のとった手段が最良かどうか結果がでるまでわからない事がほとんどだ。一見悪手であっても相手によっては上手くいくと言う事が往々にしてある。

 そのため上手くいかなくてもまず試すという事が求められるのだ。そのような思考をキノエ流では重視するのでアディルアディルとすれば自然と切り替えが早くなるというものである。


 ビスト達は灰色の猟犬(グレイハウンド)同様に魔法陣に手を触れると次々と転移していった。


「うん、場所の確保は終わったみたい」

「それじゃあ行くとしようか」


 アディルがいうと全員が頷き魔法陣に触れ次々と転移していく。ぐにゃりとした視界が元に戻ると先程とは別の場所に出たのがわかる。五メートル前後の長さの正方形の部屋の中心にアディル達が現れたのである。


「そこの扉の先には何がある?」

「この先には通路がありますがまだ先に何があるか確認しておりません」


 アディルがムルグに尋ねるとムルグは即座に返答する。その様子は一兵卒が上官の質問に返答するかのように見える。


「よし、それじゃあ行くとしようか」


 アディルの言葉にヴェル達は即座に頷く。対して灰色の猟犬(グレイハウンド)、ビスト達の反応は芳しいものではない。

 この先には悪食王(ガリオンド)を単独で肉片に変える事の出来る戦闘力を有する者がいるのだから恐ろしいという感想しか持てないというものである。正直進みたくないのだが、それは許可されることは決してないという思いから返答がやや重いものになるのは当然であると言える。

 アディル達が歩き出すとその後ろを灰色の猟犬(グレイハウンド)、ビスト達が足取り重くしながら着いていく。


 コツコツ……


 足音を通路に反響させながらアディル達は歩く。通路の距離は大体五十メートル程であり、その先には扉が開け放たれている。


「こりゃ……すげえな」

「うん」

「これほどの強者か……」


 アディル達が緊張の度合いを高めたのは扉の先の空間から凄まじいまでの威圧感が放たれていたからである。アディル達は緊張の度合いを高めたのだが、灰色の猟犬(グレイハウンド)やビスト達はカタカタと恐怖のために体が震えているのである。


 キィィィィン!!


 そしてそのまま進むと剣同士を打ち合わせる澄んだ音が聞こえてきた。その音を聞くと同時にアディルが駆け出す。ヴェル達も即座にそれに対応し駆けだすと部屋に入る。


『はぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「てぇぇぇい!!」


 そこでは黒い全身鎧(フルプレート)に身を包んだ剣士と双剣を持った銀髪の少女が斬り結んでいた。


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