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遺跡への侵入③

 アディル達は絶叫の放たれた場所に向かって一直線に向かって行く。当然ながら焦るような事はしない。この絶叫がアディル達をおびき寄せる罠であった時に思わぬ損害を被る事になるので慌てないようにしてるのだ。

 まぁ絶叫を放っているのがアディル達の中の誰かであれば焦りもすると言うものであるが、絶叫を放っているのはビスト達であるのでそこまで焦らなかったとも言える。


「うぉぉぉぉぉ!!」

「くそぉぉぉぉ!!」

「ちきしょう!! なんだこいつは魔術が効かねぇ!!」

「腕がぁぁぁぁ俺の腕がぁぁぁぁ!!」


 通路の先に扉があり、その扉の向こうから絶叫が響いている。


「戦闘中か」


 アディルはそう言うと扉から中をうかがうとビスト達と奇妙な怪物が戦いを展開していた。

 怪物は二足で立っているが下半身は肉食獣の後ろ足のような形状、腕は長くそのまま立てば地面につくほどである。

 だがそのような腕のバランスなど気にならないほど奇妙なのはその怪物には頭部と呼べるものはなく、腹部に顔があった。腹部に浮かび上がったグロテスクな顔は見る者に嫌悪感を持たせるには十分すぎるものである。


 ビスト達は怪物と激戦を繰り広げている。右腕を失った剣士が蹲り、治癒術士に治癒を施されている。


悪食王(ガリオンド)ね」


 エリスが怪物を見るなり嫌悪感を込めた声を発した。


「初めて見たな。あれが悪食王(ガリオンド)か」


 エリスの言葉にシュレイが小さく呟いた。シュレイの声には警戒感が色濃く含まれている。


 悪食王(ガリオンド)は少し身を屈め蓄えた力を爆発させた。その速度はビスト達の反射神経を遙かに上回る速度であったのだろう。剣士は何の反応も出来ずに悪食王(ガリオンド)に両腕を捕まえられるとそのまま掲げられた。


「離せぇぇぇぇ!!」


 剣士の叫び声には悲痛な響きがあった。自分がどのような目に遭うかその運命を察したのだろう。


「ぎゃああああああああ!!」


 剣士の絶叫が響くとそのまま剣士は地面に落ちる。剣士の両手首は何かに食いちぎられたかのようであり、あまりの苦痛に剣士は地面を転がっている。


「ひぃぃぃぃぃ!! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!」


 剣士は悲痛な顔を浮かべて力一杯叫ぶ。両肩を無造作に悪食王(ガリオンド)に掴まれた剣士は再び掲げられると腹部の口元へを運ばれていく。


「やめてくれぇぇぇぇぇえ!! 食わないでくれぇぇぇぇぇ!!」


 剣士は自分がどのような目に遭うかを理解し必死に暴れるがすでに両手首から先は欠損しており、まともな反撃は出来ない。暴れる剣士の口が悪食王(ガリオンド)の腹部の口の中に入るとそのままガブリと剣士の右足を咬み千切った。


「がぁぁぁぁぁっぁぁぁああ!!」


 剣士の絶叫が響いた所でアディルが動く。


(両手……いや掌には何かあるな……そして腹部の口は飾りじゃないというわけか)


 アディルがこの段階で動いたのは、情報収集が終わったからであり、ビスト達を助けるためではない。本当に助けるつもりならば最初から飛び込むというものだ。

 アディルが動いたのを見たヴェル達も戦闘態勢をとる。ヴェルは魔力を形成し魔力の鏃をいつでも放てるように準備を即座に行う。アンジェリナも魔術の形成に入りいつでも放てるようにしていた。

 二人が放たなかったのはアディルへあたる懸念があったのと、ビストのチームの魔術師の“魔術が通じない”という言葉からである。


 アディルはほぼ一瞬で悪食王(ガリオンド)の間合いに飛び込むと抜刀しすれ違い様に悪食王(ガリオンド)への斬撃を放った。狙った箇所は悪食王(ガリオンド)の足だ。

 アディルの斬撃は悪食王(ガリオンド)の左太股を切断する。


『ギシャアァァッァァァァッァァァァアッァ!!』


 悪食王(ガリオンド)の口から絶叫が放たれる。突然自分の左足が切断されれば苦痛を放つのは別に人間に限ったことではない。生物の共通点と言えるだろう。


『グォォォォォォォ!!』


 悪食王(ガリオンド)は左手の掌をアディルに向けた。悪食王(ガリオンド)の掌から炎が放たれる。


水剋火(すいこくか)!!」


 アディルは放たれた炎を避ける事なくそのまま突進する。アディルは炎に触れる瞬間に左手の掌を掲げると掌に触れた炎が消滅していく。

 悪食王(ガリオンド)は即座に炎がアディルに対して無意味である事を察したのだろう。地面に転がっていた剣士の頭を鷲づかみにした。

 剣士は少しでも離れようと地面を匍匐前進の要領で動いていたがその努力が報われることはなかったのだ。


「た、たひゅけ……」


 剣士は失った手をビスト達に向けて助けを乞うがビスト達が動く事はなかった。いや、正確に言えば動く事が出来なかったのだ。あまりにも強大な力を持つ悪食王(ガリオンド)に完全に呑まれていたのだ。


「が……」


 剣士は突如白眼を向いてダラリと力を失った。悪食王(ガリオンド)は力を失った剣士を振りかぶるとそのまま投げつけた。投げつけた先はヴェル達のいる方向であり、アディルは一瞬そちらの方に意識を向けてしまった。


「避けろ!!」


 アディルがヴェル達に叫んだのは当然の事であろう。剣士の体重は軽く見積もっても九十㎏はあるだろう。それを凄まじい速度で投げられ直撃すれば只では済まないのは明白だ。


 投げつけられた剣士の体の前にエリスが立ちふさがると飛んでくる剣士の体を左腕で添えるとそこを基点に回転すると右掌で剣士の脇腹を押して剣士の起動をずらした。逸らされた剣士はそのまま壁に直撃しそのまま床に落ちる。


「ハルク!!」

「大丈夫か!!」


 ビスト達がハルクと呼ばれた剣士の元へと駆け寄るが、すでにハルクは絶命しているのは明らかであった。壁に頭部から激突したために頭部が体にめり込んでいたのだ。ただ、ハルクの延髄の箇所が食いちぎられており、こちらの方が直接の死因であるようにも思われた。頭部を鷲づかみにされたときに食われたのだろう。


「ハルク……どうして」

「こんな……こんな事って」


 ビスト達の声には悲壮感が満ちている。いかに外道とは言え仲間意識があったのは事実なのだ。ただし、アディル達にとっては何ら感銘を受けることはない。アディル達にとってビスト達は同情に値する相手ではない。アディル達を獲物と定め、殺そうとして返り討ちにあった間抜けという認識なのだ。


「エリスよくやってくれた」

「まぁね。これぐらいなら余裕よ」


 エリスが余裕をアピールするとアディルは少しだけ笑い悪食王(ガリオンド)に視線を移した。悪食王(ガリオンド)は斬り落とされた左足を傷口にくっつけると両掌を傷口に押しつけている。


『グゥゥゥゥ……』


 両掌を離した悪食王(ガリオンド)がアディルに威嚇の声を向ける。


「食ったやつの肉で斬り飛ばされた足をくっつけたのか」


 アディルは呆れた様な声を上げた。流石に食ったものを使って自分の体をくっつけるというのはアディルとしても呆れるしかないというものである。


「ま……だからといって恐れるような相手じゃないけどな」


 アディルはそう呟くと天尽(あまつき)に気を通すと悪食王(ガリオンド)に再び斬りかかった。悪食王(ガリオンド)も身を屈め力を込めると床を蹴り爆発的な速度でアディルに突っ込んでいく。

 悪食王(ガリオンド)はアディルに掴みかかってきた。その際にアディルは悪食王(ガリオンド)の掌にも口があるのを確認した。


(やっぱそうだよな……)


 ハルクが握られた箇所が食いちぎられたような跡があった事から掌にも口があるのだろうという事を察していたのだ。

 逆に言えば両掌以外ならそれほど警戒する必要はないと言うことである。アディルは自分を掴もうと、いや食いちぎろうとした両手を剣を振るって斬り飛ばした。

 アディルの斬撃は、流麗に一切の淀みを感じさせることなく悪食王(ガリオンド)の両手を斬り飛ばしたのだ。命を奪うという本来忌避感を覚えるような技術であるが磨き上げた技は一種の芸術品のようである。

 アディルの剣はそれで止まることなく、そのまま右肩口から左脇腹へと袈裟斬りにした。


 悪食王(ガリオンド)はそのままアディルの横を通り過ぎて三歩ほど歩いたところでズルリと斬り離された上半身が滑り落ちた。残された下半身は上半身が落ちてからさらに四歩歩いて自分がすでに死んだ事に気づいたかのように崩れ落ちた。


「よしっと……」


 アディルは天尽を一振りして血を払うと鞘に納めた。

書くのが楽しくなってきました。やはり戦闘シーンは書いてて楽しいです(^∇^)

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