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遺跡への侵入①

「さてとそれじゃあ行こうか」


 アディルの言葉にヴェル達は頷く。シュレイがムルグ達を見ると冷たく言う。


「何をぼさっとしてるんだ。お前達もだ」


 シュレイの冷たい声にビクリとムルグ達は体を震わせると慌てて起立する。まだ、体の至る所が痛むのだろう何人かが顔を苦痛の為に歪ませた。


「おい、お前らまず中に入って俺達の安全を確認してこい」


 アディルがビスト達に言うとビスト達は顔を引きつらせつつも素直に頷いた。もはやアディル達に反抗しようという気概はビスト達にはない。惨めで哀れであるが今までの自分達のやって来た事を考えれば同情の余地など一切無い。

 ビスト達は緊張の面持ちで像に触れ幻である事を確認すると地下へと降りていく。


「ねぇ、どうしてあいつらを先に行かせるの?」


 ヴェルがアディルに尋ねてくる。ヴェルとすればリスクを減らすために先に行かせるのはわかるのだが、問題はなぜアディルが慎重になったのか理由を知りたいと思ったのだ。


「実は階段にごく最近にこの通路に誰かが入った形跡があったんだ。それが誰だかわかんないが警戒はしておくべきと思ってな」

「なるほどね。納得だわ。あ、そうそうもう一つ知りたいことあったわ」


 ヴェルがそう言ってアディルとエリスを見る。


「アディルとエリスが同門ってどういうこと?」


 ヴェルとすればアディルとエリスの関係性が気になると言うところである。ヴェル達にとってアディルの術は自分達とはかなり異質なものだ。その異質な術の同系統のものをエリスも使ったというのだからヴェルが不思議に思うのも当然であった。


「多分だけど。俺の爺様が男の子を弟子に取ったという話があったんだ。エリスはその系統だと思う。ルヴェンという名に心当たりはないか?」


 アディルはエリスに尋ねる。その名を聞いたときにエリスは嬉しそうに頷いた。


「ルヴェンは私の祖父の名前よ。私の術は祖父に習ったのよ」

「やっぱりそうか。爺様はルヴェンという弟子の事を最後まで気にかけてたって話だ」

「嬉しい事言ってくれるわね。祖父は偉大な師に追いつくために今も(・・)努力を欠かしてないわ」

「ひょっとして……エリスのお爺さんは……存命か?」

「うん、目茶苦茶元気よ。下手したら私よりも長生きするんじゃないかしら」


 エリスの苦笑混じりの返答にヴェル達もくすりと笑う。言葉の端々からエリスの祖父への愛情と敬意が伝わってくる。


「私の両親は流行病で私が小さいときに死んじゃったの。それから祖父と暮らすようになってから私に自分の術を教えてくれたのよ。なんにせよ生き残るためには“強さ”が必要だと言ってね」

「そっか、立派な爺様だな」

「私にとって最高の祖父よ」


 エリスは少しもテレも無く言い放った。本心からの言葉でありエリスとすれば照れる必要などどこにもないのだ。


「祖父は私にしかキノエ流を伝えてないという話よ。だからほとんど他の人は知らないのは当然ね」

「う~ん……エリスの使う技はキノエ流が源流かも知れないけど、すでにカスタマイズされてるからリート流というのが正しい気がするよ」

「まぁ、祖父は研鑽を積んで色々とカスタマイズしていたのは事実ね」


 エリスが納得の声を出すつつ、うんうんと頷いた。それからエリスはヴェルに視線を移すと口を開いた。


「そうそう、ヴェルのあの魔力の連弾を放つ術って凄いわね。あれってどうやってるの?」


 エリスが首を傾げながら言う。


「形成した魔術を貯め、小出しにして放つという基本はわかるんだけど、それにしては連射の継続時間が長すぎるわ」

「ああ、簡単よ。エリスが今言ったように、まず魔力を形成する術式を構成して、放つ術式を構成する」

「だからそこは理解してるのよ。それにしては連射時間の長さが不可解なのよ。ヴェルが形成した魔力の量と放つ魔力の量がアンバランスなの」

「それは放ちながらも魔力を形成してるからよ」

「え?」

「魔力を私は補給しつつ連射してるのよ」


 ヴェルの回答にエリスは凍り付く。いや、灰色の猟犬(グレイハウンド)のアグードも顔を凍り付かせていた。


「ちょっと待って、ヴェルは魔力の補充と放出を同時にやってるの?」

「うん。二つとも魔術の基本じゃ無い」

「何言ってるのよ超高等技術じゃない!!」


 ヴェルの返答にエリスが大声で言う。アグードは呆然としつつもエリスの言葉にウンウンと頷いていた。


「あれ……ちょっと待ってひょっとしてヴェルって両指から魔力を放出してたわよね?」「うん」

「もしかして……指一本一本に放出の魔術を構成してるの?」

「うん。最初は難しかったけど今では十本の指に同時に展開出来るわよ」

「じゃあ……ヴェルは同時に十二の魔術を展開してるの?」


 エリスは顔を引きつらせながらヴェルに言うとヴェルは少しばかり考えて頷いた。


「そ、そんなバカな……そんな事が出来る人間が……」


 アグードが呻くように呟いた。相当のショックを受けているようであり膝から崩れ落ちる姿が見える。


「ヴェル、あなたは本物の天才よ。アディルはどうやら魔術が専門じゃないから気づかなかったみたいだけどそれだけは断言できるわ」


 エリスはアンジェリナに視線を移して口を開いた。


「アンジェリナ、あなたは気づいてたでしょう?」

「もちろんよ。同時に十二もの魔術を展開出来るなんてお嬢様しか出来ないわ。私も六つまでしか出来ないわよ」

「あんたも大概よ……」


 アンジェリナのサラリと言った六つという言葉にエリスはため息をつきつつ言う。アグードもまたアンジェリナに視線を移すとさらに項垂れている。小さくブツブツと“こんな化け者に俺なんかが勝てるわけ無いじゃないか……”と呟いている姿が哀愁を誘う。


「でも、私複雑な術式は出来ないわよ」


 ヴェルが首を傾げつつエリスに言う。ヴェルは首を傾げながら言う。エリスの自分への評価が過大すぎると思っている様子だ。


「いや、もはやそこは問題じゃ無いのよ……」


 エリスのため息は止まることなく発せられた。同時に十二もの魔術を展開出来る異常さを当の本人がまったく認識していない事にため息をつきたくなるのも仕方のない事だろう。


「あなた達が敵で無く本当に良かったわ」


 エリスの言葉にアディル達全員が苦笑を浮かべた。


 “そりゃこっちのセリフだ”これがアディル達の正直な感想であった。エリスの有している技術もまた異質なものでありヴェル達にとって敵で無くて良かったと思うには十分すぎるというものであったのだ。


「あ、あの……」


 そこにビスト達のチームの弓術士(アーチャー)が像から顔を出してアディル達に声をかける。


「安全の確認がすみました……」

「そうか、行くとしよう」


 アディルがそう言うとヴェル達は力強く頷いた。

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