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受難というより報い⑦

 アディル達と灰色の猟犬(グレイハウンド)の戦いはアディル達の完勝で終わった。戦いが終わってからエリスがアグードの治癒を行うと次はアグードに仲間達の治癒を施させた。

 その際に当然ながらアディル達は殺気をムルグ達に放ち続けており、気絶から目覚めたムルグ達は例外なく顔を青くさせた。


「もう一回やって勝てるという自信があればいくらでもやればいいさ。まぁそこまで現状認識が出来ないのなら生かしておく価値は無いな」


 アディルの言葉がムルグ達の心胆を冷やしまくったのは間違いないだろう。完敗し、しかも殺気を放ち続けている相手に挑むほどムルグ達も無謀ではないのだ。


「さて、君達は俺達を殺そうとして返り討ちにあった……そうだな?」


 アディルはにこやかにムルグ達に問いかけた。アディルの問いにムルグ達は顔を歪めて沈黙する。アディルの言葉は“ムルグ達が先に手を出した”という状況を作りたいという意図そのものであり、とても納得出来るものではないのだ。


 バギィィィ!!


 そして次の瞬間、アディルの蹴りが炸裂するとネイスが宙を舞って頭から地面に落ちた。


「おい、治療しろ」


 アディルがジロリとアグードを睨みつけるとアグードは壊れた玩具のようにコクコクと何度も頷くと慌ててネイスに再び治癒魔術を施し始めた。


「誰がお前達の生殺与奪の権利を握ってるか想像力を十分に働かせることを進めておくぞ」


 アディルの言葉にムルグ達はコクコクと何度も頷いた。


「まずはお前達の今後の事を教えておいてやろう。ギルドへの告発は行わないつもりだ」

「え?」


 アディルの思いがけない言葉にムルグが呆けた声を出した。


「ああ、ちなみに別に証拠が無いからとかじゃないぞ。お前達が俺達を殺そうとした証拠は既に握ってるからな」


 アディルはそう言うと懐から一枚の符を取り出した。アディルの取り出した符から蒼い炎が発すると符はあっという間に燃え尽きた。そして燃えた後に気味の悪い黒い靄が形を変えながら現れる。


「こ、これは……?」


 ムルグがようやくこれだけ言葉を絞り出した。他のメンバー達はゴクリと喉をならしながら事の成り行きを見ている。迂闊な事を言って痛めつけられるのは勘弁して欲しいという心境であった。


「見てくれの良い女が三匹、冴えないガキが二匹……楽勝だな」

「あの今日ハンターに成り立てのガキ共の持っている武器はかなりの値打ちものだ。おそらく良いところのお坊ちゃん、嬢ちゃんなんだろうさ」

「そいつは世の中の厳しさを教えてやらねえとな」

「女達は俺達で楽しむとしてガキ二人はどうする?」

「まったく……あのガキ共の目の前で楽しむに決まってるじゃないですか。前回は順番が逆だったし、あれはあれで楽しかったですけど、今回は趣旨を変えましょうよ」

「そりゃいいな」

「俺達も忘れないで下さいよ」

「わかってるって」


 黒い靄の化け者からアディル達を害する目的であった言葉が紡ぎ出された。黒い靄の化け者から発せられる声はムルグ達のものである。


「な……なんで?」


 オグラスが呆然としながら声を発する。その言葉を無視して化け者はさらに言葉を続けている。


「おい、いつやるんだ?」

「何かしら見つかったときか、何も見つからなかったら今日の夜だな」

「三人で十人を相手か……くく、楽しみだな」

「すっかり嵌まって淫乱になったりしてな」

「用が済んだら娼館に売るのか?」

「俺達が飽きるまで使おうぜ。あんな上玉は滅多にいねぇしな」


 次いで発せられた言葉にムルグ達の顔色は悪くなる一方である。ここまで自分達の意図が筒抜けであった事に驚いたというのもあるのだが、アディル達が知っている素振りを一切見せずにムルグ達と普段通りに接していたことに戦慄せざるを得ない。


「いや~この言葉を聞いた時にはもうぶった斬ってやろうと思ったけど何とか我慢できたよ。俺達の忍耐力も相当なものだろう?」

「どうして……これは一体……」


 オグラスが疑問を呈する。言葉を記録する魔術などムルグ達の誰も知らなかったからだ。


「ああ、これはうちに伝わる術でな。言霊留置(コトダマトメオキ)と言うんだよ。この術なら音声を記録しておくことが可能だ」

「そんな魔術聞いた事も無いぞ」

「別に構わんよ。お前が無知なのはお前の責任であり俺の責任では無いからな」

「く……」

「お前達の体には粉々になった細かい符が着いてるのさ」

「え?」

「ギルドで初めて会ったときに食糧の準備といってお前達から離れたろう? その時に仕掛けておいた」


 アディルの語った言葉にムルグ達は顔を強張らせた。そのような段階から怪しまれていたとは思ってもみなかったのだ。


「俺達のようなハンターに登録したばかりの者にいきなり声をかけてくるなんてあり得ないだろ。俺達は最初から怪しいと思ってたというわけだ。俺達が外に出てしばらくしてエリスもお前達から離れたろ。あの時エリスは俺達に警告をしにきたんだよ。お前達と行動を共にしたハンターの多くが死んでいる。あなた達も殺される可能性もあるからこの依頼は見直した方が良いとな」


 アディルの言葉にムルグ達の視線がエリスに集まった。エリスは何でもないような表情を浮かべつつ言う。


「あんた達が殺したハンターの遺族に依頼されたのよ。あんた達の事を探って欲しいってね。結果はクロだったわけ」


 エリスの言葉にムルグ達は沈黙を保ったままである。それを見てエリスは言葉を続けた。


「最初はギルドに報告しようと思ってたんだけど、あんた達って貴族がバックに着いているという話じゃない。そうするとギルドに訴えてももみ消される可能性があるわ」


 ここでエリスは言葉を切る。ムルグ達は意識せずに全員が喉をならした。エリスが発しようとする言葉が凄まじく自分達にとって不幸を告げるような気がしてならなかったのだ。


「だから私達はあんた達をギルドに訴えるような事をするつもりはないのよ」

「こ、殺すのか?」


 ビストの恐れを過分に含んだ声にエリスは冷たい視線を向ける。


「いいえ、アディル達の話を聞いたらね。あんた達に使い途があるという結論になったのよ」

「使い途?」

「ええ、ヴェルはね。レムリス侯爵家の令嬢でね。ただ今レムリス家を乗っ取ろうとしている連中と一戦交えるつもりなのよ」


 エリスの告げる言葉にムルグ達の顔色はどんどん悪くなった。


「あんた達を駒として使う事にしたのよ」

「駒?」

「さっきも言ったでしょう……これから辛い人生が待ってるって」


 エリスの告げた内容はムルグ達にとって死刑宣告に等しいものであるのは間違いない。


「まぁそういう事だ。俺達もお前達の様に使い潰してもまったく心の痛まない駒を手に入れる事が出来て本当に良かったよ。お前達は被害者に謝罪する必要は無い。ただ惨めに死んでいけば良いんだよ。それが被害者の方々にとって何よりも慰めになると思ってる。まぁその前に遺族の方に引き渡すことにしてるけどな」


 アディルの言葉は心の底から思っているようである。ムルグ達を見る目に一切の慈悲というものが感じられない。いや、アディルだけでなく他のメンバーもそうである。


「自分達の立場を分かってくれたかしら? それじゃあ始めましょうか」


 エリスは懐から符を取り出すとアディル達に視線を移すと言う。


「みんな、悪いけどこの符に血を一滴ずつくれないかしら?」

「え?」

「血?」

「どういうことだ?」


 ヴェル達はエリスの言葉の意図が分からず聞き返すが、アディルだけは訝しげな表情を浮かべていた。


「エリス……ひょっとしてこの術は「呪血命(まじないのちのみこと)」か?」


 アディルの言葉にエリスは静かに頷く。エリスの表情はアディルの問いかが想定内である事を示している。


「やっぱりアディルは知ってるか。アディルの使う符術は私のとそっくりだものね」

「そうか……エリスの使う体術は俺のものと共通点が多いからな……まさかと思ったがな」

「ふふ、ここで同門に出会うなんて思ってもみなかったわ」


 アディルとエリスの会話に置いてきぼりを食った形のヴェル達は少しばかり不満げな表情を浮かべていた。アディルとエリスはそれに気づくとコホンと咳払いするとエリスが再び口を開く。


「この術はこいつらを縛るためのものよ。もし私達の目から逃れれば好き放題出来るなんて事になったら新たな犠牲者が出るわ」

「それは確かにそうね」

「そこで符に血を一滴たらしてもらう事によって私達の命令に絶対服従するようになるのよ」


 エリスの説明を受けてヴェル達は納得の表情を浮かべた。それを見てアディルがまず親指をナイフで少しだけ切ると符に一滴ずつ血を垂らしていく。アディルの次にヴェル、シュレイ、アンジェリナ、そして最後にエリスが血を一滴づつ垂らし終えるとムルグ達に視線を向けた。

 視線を向けられたムルグ達はビクリと身を震わせる。エリスの言葉を聞いて恐れを抱かないはずはなかった。


 エリスは符を一枚一枚、ムルグ達の額に貼り付けていく。ムルグ達は一切抵抗しない。抵抗すれば容赦なく折檻を受ける事を察しているからだ。

 エリスは符を全員に貼り付けると手を合わせると何やら言葉を呟いていた。すると貼り付けた符から黒い靄が発せられムカデのような虫の姿へと変化するとムルグ達の口の中に入っていった。

 あまりにもグロテスクな生物が自分の口に入っていくのにムルグ達は涙目になりながら抵抗するが虫たちは構うこと無く口の中に入っていった。


「さ、これで終わったわ。立ちなさい」


 エリスの言葉を受けてムルグ達が全員スクッと立ち上がった。何人かの表情が驚愕の表情を浮かべていることから自分の意思に反して体が動いた者がいるという事であった。


「これであんた達は私達の駒になったわけだけど、その前に遺族に会わせるという話をアディルがしたのを覚えてるかしら? もし遺族があんた達を殺そうとしたときには止めるつもりは無いわ。せいぜい遺族の方が寛大であることを祈っておくと良いわ」

「そういう事だ。もし生き残った者達がいれば今度は俺達の駒として使い潰してやるからな」


 アディルとエリスの言葉にムルグ達は絶望の表情を浮かべた。

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