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出会い①

 旅立ったアディルはそのまま王都に向かって歩いていた。


 アディルが所属している国は“ヴァトラス王国”という名前である。現国王レグレスの元で順調に発展している国家である。


 レグレス王は王都と各地を結ぶ街道を整備し、街道沿いに宿泊施設を設置する。この事が物流をスムーズにし、人、モノ、金がヴァトラス王国を円滑に移動させる事になった。

 そのために商業が発達し、そこからの利益を税収として国王は吸い上げる機構を作り上げたことにより王権は一気に強化されたのである。


 今、アディルが王都に向かって歩いている街道もそんなレグレス王の政策によるものである事を考えるとアディルもまたその恩恵を受けていると言える。


「家を出て五日、平和なもんだな」


 アディルは呑気に鼻歌交じりに街道を歩いている。実際に他国で見られるような盗賊に一度も出会う事なくアディルはここまで来たのだ。街道沿いはヴァトラス王国軍が定期的に治安維持のための行動をとっており街道沿いは近隣諸国で最も治安の良い場所であると言えた。


「お、今日はあそこにするか」


 アディルは森の手前で野営の準備に入る事にする。アディルは森の中に少し入り、そこで薪を拾い始める。ある程度集まった所で森の入り口に戻るとちょっとしたスペースを見つけると火を起こし、自分の持っている携帯食料である固いパンと干し肉をかじり始める。寂しい食事ではあるがこの状況で贅沢を言っても仕方ないのだ。


 アディルは寂しい食事を終えるとマントに包まって横になるとゆっくりと目を閉じた。まだ日は落ちていないのだが、特段する事もないため体力温存のために横になったのだ。


(ん? 誰か来る……徒歩が三……誰かに追われているな……追っ手は十五といったところか……足並みが乱れていない。訓練された連中だ)


 アディルは目を開けると火を消し、息を潜めることにする。アディルの聴覚は家での修練の賜か常人よりも遥かに優れている。その鍛え抜かれた聴覚が森の中からこちらに向かってくる者達の足音を鋭敏に捉えたのである。


「さぁ~て、一体どちらに味方するかな」


 アディルはそう言うと茂みの中に入り息を潜める。隠れたのは追う者と追われる者のどちらに味方するのか見定めるためである。


(あと……一分ほどだな……)


 アディルがそう思い気配のする方へと注意を向けるとアディルの目論見通り声が聞こえてきた。


「……様!! こちらです!!」

「……つか……る!!」

「二人ともやるしかないわね!!」

「「はい!!」」


 追われる者達の声から二人の少女と少年であることをアディルは察した。


「待ちやがれ!!」

「逃げられると思ってんのか!!」

「ひゃははははは逃げれるわけないのに必死になってんじゃねぇよ!!」


 その背後から追っ手の声が聞こえてくる。言葉の内容も口調も嘲りに満ちており、三人をいたぶろうという卑しい心根が感じられる。


「あ~これは確かめるまでもないな……」


 アディルはそう言うと気配を完全に消し、腰に差している剣を抜き放った。アディルの抜いた剣は黒い刀身の片刃の剣であり反りが入っていた。アディルの剣はキノエ一族では“カタナ”と呼んでいる。アディルの持つカタナはキノエ一族のカタナの中でも特別なもので、“天尽(あまつき)という銘である。


(へぇ……あんな綺麗な子がいるんだな。それにもう一人の子も可愛いな。う~ん……ヤローも男前だ)


 アディルは気配を絶って追われている者達の姿を確認すると、美少年美少女達が逃げてくるのがわかった。


 一番最初に駆けてくる少女は金色の髪を靡かせている。美の概念が具現化した様な美少女であった。身につけている服装は青いドレスであり、本来運動に向かない服装なのは明らかであるのだが、少女の走る速度は相当なものであり、その身体能力の高さが窺えるというものである。

 その後ろに黒いメイド服を纏った赤髪の少女がかけてくる。目が少々つり目であるがまず美少女と称される資格を有することは間違いない。手には魔術師が使うような(ロッド)を持っている。

 最後の少年は騎士の鎧を身につけた少年だ。金髪碧眼を持つその容貌は貴公子と称されるのが当たり前というような容姿である。


「やるわよ!!」


 金髪の美少女がメイドと騎士の少年に命令すると森を出た所で立ち止まり男達へと向いた。


(ほぉ……迎え撃つつもりか……しかし相手は十五はいる……勝つ算段があるのかね)


 アディルは三人の判断に少しばかり興味が湧き起こった。確かに三人の身体能力は並ではない。だがそれは数を凌駕するものかどうかはアディルの見立ては首を傾げざるを得ない。


「へへへ……やっと観念しやがったか」

「はぁはぁ……手こずらせやがって」


 息を切らしつつ男達が姿を見せた。その姿は見事に山賊といった風貌であるがそれが擬態であるをアディルは見抜いていた。足音の規則性から追っ手の男達が何かしらの訓練を受けていることは察していたが直に見てアディルはそれが確信に変わった。

 すなわち追っ手の男達は山賊に擬態しているが、軍関係者である事は間違いない。


(あ~そういう事か)


 さらにアディルはこの状況を見て即座に両者の関係を把握した。追われている少女は高貴な身分でメイドと騎士の少年はその護衛、追っ手は敵対する貴族の部下達であろう。


「やはり……サンディグ殿……か」


 騎士の少年が追っ手の一人を睨みつけながら言うと追っ手の一人はニヤリと嗤いつつ口を開く。


「シュレイ、ヴェルティオーネ様をこちらに渡せ。そうすればお前とアンジェリナは助けてやる」


 騎士の言葉を受けてシュレイと呼ばれた騎士の少年は不快気な表情を浮かべた。アディルの位置からは騎士の表情は見えないのだが、声の調子からどのような表情をしているか想像するのは容易というものである。


(う~ん……何か気に入らん……やるか)


 アディルはそう決断すると茂みの中からさりげなく姿を現した。気配を完全に絶っているためか、それとも山賊に擬態している連中の技量が低いか判断はつかないがアディルが姿を現した事に気づいていないのは事実である。


「え?」

「誰?」

「ちょっと……あんた誰よ?」


 位置的に少女達の方からアディルの姿は丸見えのために、つい声が漏れたのは仕方のない事だろう。これで何食わぬ顔をする事が出来るのはアディルと少女達が予め組んでいる場合だけであろう。


「あん?」


 山賊の一人が後ろを振り返りアディルの姿を見て動きを止めた。驚きのために声が出せなかったのではない。アディルが一瞬で山賊の間合いに飛び込むと天尽(あまつき)で顔面を貫いたからである。

 顔面を貫かれた男はピクピクと痙攣をおこしていたがほんの数秒で動かなくなった。ダラリと力が抜けそのまま地面に倒れ込んだ。


 ドサ……


 倒れ込んだ音が山賊の耳に届くと数人の男が振り返った。


「間抜けが……」


 アディルは呆れた様に吐き捨てると剣を振るうと一つの首が飛んだ。



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