断罪③
「き、貴様……何を言っているのかわかっているのか!!」
アルテガイルがレズルクに信じられないという目で睨みつけつつ言う。
「兄上、何を言っているのです!!」
「レストワル伯!! 正気か!!」
「静粛に!!」
ドンドン!!
アルテガイル達の言葉をレグレス王が一言で切って捨てる。
(ヴェルが手を回していたというわけか……)
アディルはヴェルが伯父であるレズルクに裏取引を持ちかけた事を即座に察していた。ちらりと視線をアルトとベアトリスに向けると二人もそのことを察したようでヴェルにチラチラと視線を向けていた。
「そういうことよ……断罪は私の主導でやらせてもらうわ」
ヴェルの声は小さくアディル達にしか聞こえない大きさであったのだが、その声には妙に力がこもっており、ヴェルの決意のほどを容易に察することが出来るというものである。
* * * * *
「伯父様お久しぶりですね」
「ヴェル……」
ヴェルがレズルクの元を訪れたのは、裁判の三日前である。侯爵殺害の容疑者であるが、貴人としての扱いをレズルク達は受けており、個室が用意されていたのである。もちろん、厳しい監視の下におかれている。
「ヴェル……今回のことはもはや謝罪のしようもない……」
「ええ、レストワル伯爵家がエメトスを使っての簒奪を試みたというのは確実です」
「……」
ヴェルの言葉にレズルクは苦しげな表情を浮かべた。前レストワル伯アルテガイルと実弟のエメトスが自分の妻であり前レムリス侯と先々代を暗殺したのはレズルクも承知している。
自身は関わっていないが、それでもレストワル伯爵家がレムリス侯爵家の簒奪に無関係というわけにはいかない事を理解しているのだ。
「それでここにきたのは私に何をさせたいのだ?」
レズルクはため息交じりに言う。レズルクにしてもヴェルが何の理由もなく自分にあいにくるなどと考えているわけではない。
「さすが伯父様、話が早いです。結論から言えばこちらにつきませんかとお誘いに来たのです」
「誘い?」
「ええ、エメトス達を断罪するために私についてください」
「見返りは?」
レズルクの言葉にヴェルはニヤリと嗤った。
「レストワル家の存続と伯父様の家族の命です」
ヴェルの言葉にレズルクは沈黙しつつヴェルを見る。ヴェルの提示した見返りはレズルクが何よりも欲していたものである。そして、その中にエメトス一家、アルテガイル、そして自分の命が含まれていないことをレズルクは即座に察した。
「ヴェル、私の家族を助命するのか?」
「ええ、伯父様の家族は私の敵対者ではありませんので」
「そうか……」
「父と実弟の命も助けてほしいですか?」
「いや、それは出来ないし、認められないだろう」
レズルクの返答にヴェルは即座に頷く。
「はっきり言いましょう。王家は完全にエメトス、アルテガイルがレムリス家を簒奪しようとした証拠を掴んでおります。どう抗おうとエメトス達の処刑は免れません。もちろん伯父様の家族も同様に処刑されることは間違いないでしょう」
ヴェルはここで一端言葉をきった。沈黙が部屋に満ち、それが再びヴェルによって破られる。
「どうします? あちらについて家族もろとも死刑台に上りますか? それなら止めはしませんよ」
「聞くまでもないだろう。完全に私の家族はレムリス家の簒奪に無関係だ。しかも責任もない。責任をとるべきは私達だ。他に回すつもりはない」
「その志は立派ですが、私は伯父様も無関係であることは承知しています」
「……」
「当然レストワル家の当主として無実というわけにはいきませんが、死刑台にのぼることはないでしょう」
「どうすれば良い?」
レズルクの言葉にヴェルは静かに頷く。
「簡単です。自分は無関係であるが、あの三人が関わっていると発言してほしいのですよ」
「わかった」
「それでは伯父様……失礼いたします」
ヴェルは一礼するとレズルクは静かに頷いた。背を向けて部屋を出て行くヴェルを無言のまま見送った。
(感謝するぞ……ヴェル)
レズルクはどうしてヴェルが自分を訪ね自分につくように言ったのかその意図を理解していた。
ヴェルは自分を助けようとしている。そして自分の家族もである。王家主導で裁判が行われ、検事側に王太子がいるというのはそれほど自信があることの裏返しである。このまま裁判に臨めば間違いなく処刑されるのは間違いない。しかも家族もその咎を逃れることは出来ないだろう。
そのために、ヴェルにつき、真実を明らかにすることで功績とし罪を減じようとしているのだ。
「ヴェル……これが私の贖罪の方法だ……」
レズルクの瞳に決意の火がともった。




