侯爵凱旋⑨
「ただいま~」
「お帰りなさい♪」
レムリス邸に戻ってきたアリス達をヴェル達残留組が出迎えた。アマテラスが一堂に会するのは実に三週間ぶりなのだ。
「お姉様、お帰りなさい」
「さすがに疲れたわ」
「でも、お姉様しか出来ないことですから」
「それはわかってるわ。でも婚前旅行と思えば全然問題なかったわ」
ルーティアのねぎらいの言葉にアリスはにっこりと笑った。
「うらやましい……」
「ええ、本当ね……」
アリスの言葉を聞いたヴェルとベアトリスがねたましそうな視線をアリスに向けるとアリスはニンマリと笑った。
「ふふふ~書類仕事の能力を有しているのが徒になったわね」
「それなら、アリスだってエスティルだって出来るじゃない」
「残念だけどこの国の制度を熟知していないから手助けは出来ないのよ。それに私が行かないと出来ないからね」
「なんでアディルまで連れて行くのよ」
「そりゃ、少しでも一緒にいたいという乙女の心意気に応えてくれたのよ」
「何よ……乙女の心意気って……」
アリスの返答にヴェルはため息をもらす。乙女の心意気というのはありそうでなかなか無い表現である。
「それにしてもアディルってやっぱり逞しいわね」
「「え!!」」
アリスの言葉にヴェルとベアトリスは即座に反応した。
「あれあれ~二人ともどうしたの?」
「ア、アリス……あんたひょっとして……」
「エリスもエスティルも……先を越された? く……」
「ふふふ~将来を誓い合った若い男女が何日も一緒にいて……あいたっ!!」
アリスが腰に手をやり、ヴェルとベアトリスに得意気に言ったところで、アディルに頭をはたかれたのだ。
「アリス、お前はどうしてそんな言い方するんだよ。結婚まではみんなに手を出さないって言ったろうが」
「う~痛いじゃない」
アリスは頭をさすりながらアディルに抗議の声をあげた。
「デマの源は早めに修正しとかなきゃな」
「もう」
アリスが口をとがらせてアディルに言う。その様子は甘い雰囲気を十分に醸し出していた。結婚の約束を交わしたことで、アディル達の関係も一歩前進したといえるものとなっていた。
「お帰りなさい。旦那様」
「あなたお帰りなさい」
アディルに向かって、ヴェルとベアトリスが声をかけると、アディルは瞬間的に頬が赤く染まった。さすがにこの呼び方にはアディルは慣れていないのだ。ヴェルとベアトリスはいたずらが成功したかのような表情を浮かべた。
「二人ともからかうなよ」
アディルの困ったような声に二人はにっこりと笑った。
「私達もいるんだけどね」
「うん。切ないわよね」
エリスとエスティルの拗ねたような声に場の雰囲気はさらに和やかなものになった。
「みんなお帰りなさい。お疲れ様、それで首尾の方は?」
「大丈夫よ。きちんと仕上げてきたから」
「そう……本当にありがとう」
「いいって私達はこれから家族なるんだから、遠慮は無用よ」
「うん」
エリスとヴェルの会話に全員が頷いた。
「それでそっちはどう?」
エスティルがヴェル達に訪ねたのは、当然、領内の統治の目処がたったかということである。
「目処は立ったわ。今年は運良く豊作だから、多少税率を下げても問題ないわ」
「良かったわね」
「うん、治水工事を母がきちんと行っていたのが功を奏したわ」
「ヴェルのお母様は出来る人だったのね」
「そうね。お母様はがんばって結果も出してたわ」
「負けられないわね」
「うん」
エスティルの言葉にヴェルは頷いた。それから全員を見渡すとはっきりとした口調で全員に告げる。
「みんな、ありがとう。みんなのおかげで準備が整ったわ」
ヴェルの言葉に全員が頷いた。




