ウィルガルド④
(これは勝てんな……)
ウィルガルドは心の中で小さく呟く。自分の相手のアルトの実力が自分を凌駕しているのは理解している。それに加えアディル達がいるのだ。勝率は限りなくゼロに近いのは誰よりもウィルガルド自身がわかっている。
(だが……あきらめるわけにはいかんよな)
ウィルガルドは決意を込めた目でアルトを見ると構えをとった。その様子を見てアルトはニヤリと笑った。
「ほう……この状況で心が折れないとはな」
「ここに来て褒めてくれるとはな」
「ああ、すでに勝負は決しているというのはあんたも理解しているだろう?」
「かもな……でも最後まで足掻かせてもらうぞ」
「ふ~む、惜しいな」
「惜しい?」
アルトの言葉にウィルガルドはつい聞き返してしまう。ウィルガルドは自分の芸のない返答に心の中で苦笑した。
「エメトスのような外道につくにしてはまともな感性をしてるからさ。殺すのが惜しいと言ったんだよ」
アルトは言い終わると同時に動く。
「くっ!!」
ウィルガルドの口から驚愕の言葉が発せられた。アルトの動きは先ほどよりも遙かに速く、そして静かであったのだ。ウィルガルドが気づいたときには既にアルトが懐に飛び込まれていたのである。
懐に飛び込んだアルトはそのまま右拳でウィルがルドの腹部を狙う。
「うぉ!!」
ウィルガルドは間一髪でアルトの右拳を躱すことに成功するが、アルトの攻撃は当然終わりではない。放った右拳をそのまま肘を折り曲げることでウィルガルドの顔面を狙ったのだ。
ビシィィィ!!
「く……」
思わぬ角度からの攻撃にウィルガルドはのけぞった。
「せい!!」
アルトはそのまま間断なく横蹴りをウィルガルドの腹部へと放った。
ゴゴォ!!
ウィルガルドはアルトの横蹴りを左腕でかろうじてガードすることに成功した。このガードは狙ったというよりも偶然の産物に近いかもしれない。しかし、アルトの横蹴りの威力はすさまじくウィルガルドはその場にとどまることはできずに数メートルの距離を跳び地面に着地する。
追撃を行おうとしたところに炎狼達がアルトへ向かって殺到する。
ドゴォォォォォォォ!!
アルトに触れる直前に炎狼達は爆発を起こした。
(この程度じゃ効かないんだろうな……)
ウィルガルドはまったく安堵の気持ちを持つことは出来ずに炎狼を再び振るって、炎狼達を形成する。
「やはり……」
爆発が収まったところでアルトがほぼ無傷のまま立っていたことにウィルガルドは想定内とばかりに先ほど形成した炎狼達を再びアルトへ向けて放った。アルトは両掌を炎狼達に向けると魔方陣が浮かび上がった。
アルトの前面に光の壁が浮かび上がる。
「さて……」
アルトはニヤリと笑うと光の壁を押した。押された光の壁は高速でウィルガルドへ向かう。その延長線上にいる炎狼達をはじき飛ばしていった。
「よし!!」
アルトは壁が作った空間をそのまま走る。高速で放たれた光の壁に尋常でない速度で追いついた。
「くっ……」
ウィルガルドは光の壁を避けるのではなく炎狼を構えると一直線に突いた。
ガギィィィ……ガシャァァァァン!!
ウィルガルドの炎狼は光の壁を貫くとそのまま砕け散った。炎狼は、そのままアルトの顔面に突きつけられた。
「な……」
ウィルガルドの口から驚きの声が発せられた。ウィルガルドの突きをアルトは苦もなく躱したのだ。アルトの前面に展開された光の壁をウィルガルドが貫けるという事を想定してなければ不可能だ。
「そう卑下するな」
アルトの言葉をウィルガルドが聞いた瞬間に顔面に衝撃が走る。アルトの右上段蹴りがウィルガルドの顔面に入ったのだ。
(ち……やっぱりダメかよ……サ……シャ……)
ウィルガルドの膝から力が抜けていく。ウィルガルドの脳裏に大切な者の姿が浮かぶがすぐにそれも闇に沈んでいった。
アルトがウィルガルドに勝利を収めたのとほぼ同じ時間にアディルもまた月の牙をのしていた。
「さて、残りの邪魔者は領軍の阿呆共だな」
アディルの言葉にアマテラスの面々は頷いた。




