ウィルガルド③
「魔剣炎狼か……なるほど、それがあんたの切り札ということだな」
「ああ、悪く思わないでくれよ」
「何がだ?」
「いや、人によってはそれはお前の力じゃないとか言うやつがいるからさ」
「そんな阿呆がいるのか?」
アルトの心からの言葉にウィルガルドは苦笑する。実際にアルトとすれば金の力で力を得ようが、権力で力を得ようが大した問題ではない。アルトは生き残るのに必要な力に貴賤などないという人生哲学を持っている以上、今現在必要な力を有している事が大切なのだ。
「結構な」
「信じられない無能者だな」
「そう言ってやるなよ」
ウィルガルドはそう言って苦笑すると魔剣炎狼を一振りすると、刀身から発した炎がウィルガルドの前に落ちる。落ちた炎は消えることなく少しずつ形を整えていく。炎から四本の足、尻尾、そして獣の頭部が形成されていき、炎で形成された狼へと形を変えたのである。
「なるほど……炎狼とはよくいったものだな」
アルトの声には感嘆の感情が含まれているのは明らかであった。
「ああ、褒めていただいて嬉しいよ。どうやら失望されずに済みそうだ」
ウィルガルドがそう言って笑った瞬間にウィルガルドが形成された炎狼がアルトへ向かって走り出した。
アルトは両腕に魔力を集中すると襲いかかってくる炎狼達を迎え撃つ。すさまじい速度で放たれたアルトの右拳が襲いかかってきた炎狼の一匹の顔面を打ち砕いた。
顔面を打ち砕かれた炎狼は砕け散ると地面に降り注いだ。降り注いだ火は消えることなかった。
「そういうことか……」
アルトの言葉にウィルガルドはニヤリと笑った。地面に降り注いだ火は再び勢いを増すと再び炎狼へと姿を変えたのである。
「そういうことさ」
数を増した炎狼達は再びアルトへと襲いかかる。数十匹に数を増した炎狼はアルトの周囲を固めると一斉に襲いかかったのである。
「ち……」
アルトは舌打ちをしつつ炎狼達を避ける。避けつつ一匹の炎狼の首根っこを掴むとその場で一回転するとそのまま投げる。
アルトに投げられた炎狼はくるくると回転しながらアディル達の方向へと飛んでいく。アディル達は全く動くことをしない。それはアルトの技量への信頼故であるのは間違いない。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
アディル達の脇を炎狼が通り過ぎてすぐに絶叫が発せられた。この絶叫はもちろんアディル達が発したものではない。
「あらら、かわいそうな事をしたな」
アルトの声にはまったく誠意というものがかけているのは間違いない。
「嘘はいけないな」
「嘘つけ!!」
ウィルガルドとアディルが声をそろえてアルトへ言い放った。両陣営からの言葉にアルトは炎狼達を躱しながら肩をすくめた。
「わざわざこっちに投げやがって、わかっててやったろうが!!」
「失敬な。たまたまに決まってるだろ」
「ほう、たまたまこちらに投げ、俺たちを襲おうとしたこいつに直撃……?」
「不幸な事故だな」
「そんな偶然があるか!!」
アルトのいけしゃあしゃあとした言葉にアディルが怒鳴る。
「といっても良いのか? 他の連中はお前らで始末しろよ」
アルトは全く悪びれずに言うとアディルは気分を害したように見えない場所へ裏拳を放つとゴンという音が発生した。
「おい、もうバレてんだから姿を見せろ。五秒内に姿を見せれば命だけは助けてやる」
アディルはそう言うと人差し指と中指を炎に包まれる男へ向けると静かに言い放った。
「水剋火」
バシュン……
アディルが水気を放ち、男を灼く炎を相殺するとブスブスという音が周囲に響いた。
「さ、早くしろ」
アディルの言葉に姿を消していた男達が姿を見せた。もちろん月の牙の面々が姿を見せた。その表情には明らかに警戒を超えて恐れの表情が浮かんでいる。
「やっぱりさっきのクズ共か」
「どうしてわかった?」
「この状況で理解できないのなら説明してもわからんだろ。俺はお前らのようなアホのために時間を費やすのがもったいないから、後は自分で適当な理由付けでもしてろ」
アディルの言葉はとりつく島もないという表現そのものである。
(わが義弟は容赦ないわ)
アルトは炎狼を躱しながらアディルが月の牙へ言い放っているのを見て心の中で呟いていた。




