ウィルガルド②
アルトはゆっくりと歩き、ウィルガルドへの間合いを詰めていく。その様子は戦いに望む気負いはまったく感じられない。まるで散歩に出かけているという風に全くの自然体だ。
ウィルガルドもまた気負った風もなく腰に差した剣を掴んだ。その瞬間に両者が動いた。凡庸な実力の者にはまったく初動を読み取ることは出来なかっただろう。
バシィィィ!!
強烈な破裂音が発するとアルトとウィルガルドは一端、距離をとる。
「やるな」
「嫌味かな?」
「とんでもない、本心からの言葉さ」
アルトとウィルガルドは短く言葉を交わした。ウィルガルドの右頬が赤くなっている。
アルトとウィルガルドの短いが激しい交戦は、アルトの拳がウィルガルドの右頬に当たった事でアルトに軍配が上がったとみて良いだろう。
「いやいや、参ったね。ここまで強いなんて」
「降参するかい? 十分に今の攻防で義理は果たしたとみて良いんじゃないかな?」
「さっきもいったろ。まだ降参するわけにはいかないんだよな」
ウィルガルドは言い終わると同時に動いた。ほぼ一瞬でアルトの間合いに入り込むと横薙ぎの斬撃を放った。アルトはその斬撃をバックステップして躱すと剣が通り過ぎたと同時に今度はアルトがウィルガルドへの間合いを詰める。
バシィィ!!
アルトが間合いに入ってから放った正拳突きをウィルガルドは左手で受け止める。アルトの拳を受け止めた。ウィルガルドは今度は受け止めると同時に前蹴りを放った。
アルトは放たれた前蹴りの軌道から身を逸らして躱した。アルトは反撃をしようとした瞬間にウィルガルドが剣をとって返してアルトへ再び斬撃を放った。
「なっ!!」
次の瞬間、ウィルガルドの口から驚きの声が発せられた。アルトがウィルガルドの斬撃を剣の腹をしたからかち上げることで軌道を上に逸らしたのだ。
ウィルガルドの斬撃は決して遅いわけではない。それを狙い澄まして剣の腹を殴りつけるなど出来る者がどれほどいるというのか。
アルトはウィルガルドの剣を裁く事で生じた脇腹に掌打を放った。
ドゴォォ!!
「ぐっ……」
ウィルガルドはアルトの一撃に数メートルほど後ろにはじき飛ばされた。ウィルガルドは倒れ込むような事はしなかったが、それでも反撃を行う余裕はない。
「こうまで強いと俺も本気を出さないといけないな」
ウィルガルドの言葉にアルトはニヤリと嗤う。
「やはり、余裕があったのは切り札を持ってたからか……いいぜ」
「あまり、期待を持たれても困るな。まぁこれを使うだけなんだよ」
ウィルガルドは自分の手にあった剣を鞘に収めると空間に手を突っ込むと一本の剣を取り出した。
鞘に収まっていた剣をウィルガルドは抜き放つと、紅い刀身が姿を見せる。
「魔剣か……銘は何かな?」
アルトの問いかけにウィルガルドは答える。
「魔剣……炎狼だよ」




