ウィルガルド①
ウィルガルドはポリポリと頬を掻きながらバツの悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「しかし、君たちは強いな。正直な話、ローラン達がここまで相手にならないとは思わなかったよ」
「まぁ、弱いわけではないですけどね。こちらの方が遙かに強かっただけですよ」
「確かにね。ローラン達は決して弱いわけではない。君たちが強いだけだよ」
「褒めてくれて嬉しいですが、さて、ウィルガルドさん……これからどうします?」
「そうだねぇ……こちらとしては平和的にいきたいのだけどね」
「それはこちらもです」
アディルとウィルガルドはそう言葉を交わすと互いに苦笑を浮かべている。
「とりあえず言っておくけど、君たちがやっていることは反乱だよ」
ウィルガルドの言葉にアディルは苦笑を浮かべつつ返答する。アディルが苦笑したのは単にウィルガルドの論法をせせら笑ったわけではなく、ウィルガルドの表情と声の調子から自分が詭弁を述べている事を理解している事を察したからである。
「残念ですけどエメトスはすぐに失脚しますよ。ウィルガルドさん、こちらにつきませんか?」
「お誘いいただいてありがたいけどそれは出来ないんだよね」
「でしょうね」
ウィルガルドの返答にアディルは即座に答える。ウィルガルドは現在、エメトスに雇われている身である。旗色が悪いからと言って即座に裏切るような事をすればハンターとしてウィルガルドが終わってしまうのは間違いないのだ。
「一つ聞いて良いですか?」
「なんだい?」
「ウィルガルドさんは、特権を与えられてもそれを振りかざして他の人の尊厳を踏みにじる事を良しとしない人のように思えますけど、どうしてエメトスなんかについたんですか?」
「ああ、単に金だよ。名代は俺を莫大な金で雇ったんだよ」
「なろほどね」
「がっかりしたかい?」
「いえ、金のために仕事を受けるのも、やりがいのために仕事を受けるのも人それぞれですよ。何も恥じる必要はないですよ」
「はは、ありがとね。君みたいな若い子は妙に潔白なところがあるから責め立てると思ったのだけどね」
ウィルガルドはニヤリと笑いつつアディルへと言う。ウィルガルドの言うとおり、妙に金に対して潔癖さを求める者はいるのは事実である。だが、アディルは金というものの持つ力を過小評価していない。金で命を奪う事があるという事実がある以上、金の持つ力を過小評価するのは愚かといえるだろう。
「さて、金が必要なウィルガルドさんは引く気がない。こちらも当然ですけど引くわけにはいかないですよね」
「ああ、やり合うしかないんだよね」
ウィルガルドの言葉にアディルは頷くと一歩進み出ようとした時に制止の声がかかる。
「待て、アディル。俺がやる」
アディルを制止したのはアルトである。戦力過剰な王太子はウィルガルドとの戦いを蒸し出たのである。
「おいおい、良いのか?」
「ああ、個人的には俺の目的にかなう相手だ」
「そっか、まぁこちらとしては断る理由はないな」
「助かるぜ」
アルトはアディルの言葉を受けてニヤリと笑うと進み出た。
「君が俺の相手をすると言うことで良いのかな?」
「ああ、こう見えてもそれなりにやれると思ってるよ」
「だろうね」
ウィルガルドは目を細めて戦闘態勢に入る。アルトの歩きからただ者でないことが十分に察しているのである。
「ほう」
ウィルガルドが即座に戦闘態勢に入ったのを見て、アルトが感嘆の声を上げると同時に動き出した。




