開戦⑤
シュレイとローランの戦いはますます激しさを増していく。ローランの実力は部下の傭兵達よりも頭一つ分は間違いなく抜けていると言ってよいだろう。
シュレイの上段斬り、腹部への突き、逆袈裟斬り、首への横薙ぎへの一閃と四連撃をローランは体術と長剣を駆使して躱しきるとここで一端、シュレイから離れた。ローランは周囲の部下達に視線を向けるとアマテラスのメンバー達に斬り伏せられている部下達を見て唇をかみしめた。
「てめぇらは一体何者だ? 俺の部下達を無傷で斬り伏せる事が出来るとはただ者じゃないだろう」
「ああ、俺たちはアマテラスというハンターチームだ。ちなみにランクはスチールだ」
「なんだと!?」
シュレイの返答にローランは目をむいて驚きを示した。どう考えてもアマテラスの実力はスチールのものではない。もし一般的なスチールの実力しか有しないのならば自分の部下達がなぜこうもたやすく敗れているのか説明がつかないのだ。
「安心しろよ。お前の相手は俺だ。仲間達には手出しはさせないよ」
シュレイの言葉にローランは怒りの表情を浮かべた。シュレイの言葉の意味するところは“お前ごとき俺一人で十分だ”、“俺はお前よりも強い”という事に他ならないのだ。
「なめるなぁぁぁぁ!!」
ローランは激高するとシュレイに斬りかかってくる。ローランの怒りは自分の存在意義を侮辱された怒りである。傭兵として様々な戦場を生きてきた彼にとって力とは自分を支える全てあるといえるだろう。
シュレイは目を細めて斬りかかってくるローランの動きを見る。怒りのために勢いはすさまじいものであるが反比例して洗練さが失われているといえるだろう。
シュレイは振り下ろされた長剣の斬撃を最小の動きで躱しつつ、自らの剣で受け流すとそのまま剣を滑らせてローランの首を狙う。
シュレイの剣がローランの喉を切り裂く瞬間にローランはかろうじて身をよじりシュレイの剣は空を切った。
しかし、シュレイの本命は喉を狙った斬撃ではない。いや、正確に言えばこれも本命であった。シュレイは振り切った左腕を肩甲骨を操作することでほぼ勢いを止めることなくクルリと回すと速度を全く落とすことなくローランの頬に叩き込んだ。
ゴガァァァァ!!
「ぐぅ!!」
シュレイの肘により苦痛の声をあげたローランは体をよろめかせた。シュレイはその場で一回転すると今度は右肘をローランの顔面に叩き込んだ。
ゴギャァァァ!!
再び発した音のすさまじさはとても人体から発したものとは思えないレベルのものである。
肘による強烈な打撃を二発連続でまともに受けたローランの膝は折れるとそのまま崩れ落ちる。
「ふぅ……」
崩れ落ちたローランを見たシュレイは息を吐き出した。
「さすがです!! シュレイ様!!」
ルーティアがシュレイに駆け寄るとシュレイの強さを称賛した。シュレイ至上主義のルーティアがシュレイの勝ち星を称えないはずはないのである。
「ああ、ありがとう。何とか勝てたよ」
シュレイが苦笑を浮かべながら言うとルーティアのシュレイを見る目がキラキラと輝いた。
「何というか……俺達は何を見せつけられてるんだろうな」
アディルのあきれたような言葉にヴェル達は苦笑を浮かべた。それから誰もいない方向に向けてアディルは言う。
「そうは思いませんか?」
アディルの言葉に誰もいないはずの場所から人の気配が発せられると、一人の男が姿を見せた。
「そうだね。あんまりイチャイチャされると困るんだよね」
ウィルガルドが苦笑を浮かべながら言った。




