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受難というより報い②

結構、グロシーンがありますが御了承下さい

 アディルの“思い知らせる”という言葉に全員の目が変わる。灰色の猟犬(グレイハウンド)達への怒りはもはや限界点を突破しているため、容赦をするつもりはさらさらない。


「シュレイ、すまないが、あのクズ共(・・・)に、地下への入り口を見つけた事を伝えてくれないか?」

「わかった」


 シュレイが肉食獣めいた表情を浮かべるとアンジェリナが声をあげた。


「私も一緒に行くわ」


 アンジェリナはアディルをじっと見つめて言うとアディルも即座に頷いた。


「そうだな。シュレイとアンジェリナの二人で行ってもらうよ。全員揃ったら……ということだ」


 アディルはそう言うと全員のを見渡して言う。全員は迷う事なく頷き漏れ出そうになる殺気を押さえ込んだ。灰色の猟犬(グレイハウンド)達の人間性がクズであっても、実力もクズであるとは限らないからだ。


「ああ、行ってくる」

「兄さん、行きましょう」


 シュレイとアンジェリナが灰色の猟犬(グレイハウンド)達の方向へ向かって駆け足で向かう。


「ヴェルとエリスは俺の後ろに立っておいてくれ」

「わかったわ」

「うんと言いたいところだけど私は近接戦闘は得意中の得意よ」


 エリスがアディルの申し出を断るがアディルは別段、気を悪くした様子もなく頷いた。


「そっか、よく考えたら元々は一人でやるつもりだったな。頼りにさせてもらうぜ」

「まかせてちょうだい♪」


 アディルとエリスはそう言って笑う。妙に邪気のない笑顔であるがその奥底にはすでに戦闘態勢を整えているかのような強い意志が感じられる。


「俺達の支援を頼むぞ」


 次にアディルはヴェルに視線を向けて言う。


「任せて♪」


 ヴェルはアディルの言葉に一気に破顔する。エリスとのやり取りを見て自分が何もさせてもらえないのではないかという忸怩たる想いが心に産まれ、気が重くなろうとした所にアディルの言葉がかけられ救われた気分であった。


「ただし加減はしろよ。ヴェルが本気でやったらあいつらまとめて肉片だからな」

「……う、善処するわ」

「ヴェルなんで俺から目を逸らした?」

「さぁあいつらを待つとしましょう」

「おい、こっち向け」


 ヴェルが視線を逸らしながらいう事に不安を覚えたアディルがヴェルに問いかけるがヴェルは華麗にとはとても言えない躱し方でアディルの追求を躱した。


(ヴェル……本気でやったら肉片って……この人達って本当に何者なのかしら? それにアディルの剣は長さこそ違うけど……同じものよね)


 エリスは二人のやり取りを見つつアディルの刀に視線を向けた。


「お~い」


 アディル達にムルグが声をかけてきた。その声を聞いてアディル達は視線を向けると灰色の猟犬(グレイハウンド)だけでなくビスト達のチームもこっちに向かってきていた。その後ろにシュレイとアンジェリナが続いている。


(役者は揃ったな)


 アディルはそう心の中に呟くとにこやかな表情を浮かべてムルグに応対する。


「早かったですね。もう少し時間かかると思ってましたよ」


 アディルが言うとムルグは苦笑を浮かべつつ返答する。


「ああ、たまたま近くにいたんだよ。しかし、良く見つけてくれたな。お手柄だぞ」

「ありがとうございます。この像は幻術ですので実際は存在しません。この幻像の下に階段があって下に通路があります」

「アディル君は入ったの?」

「はい。といっても通路を確認してからすぐに戻ってきました」

「そうか。それじゃあ。行ってみるとするか」


 ムルグは灰色の猟犬(グレイハウンド)の連中に視線を向けるとメンバー達は静かに頷く。少しだけ口元が歪な形になったのをアディルは確認する。


「それじゃあ、アディル君()こうか!!」


 ムルグがそう言った瞬間にオグラスが腰に差した剣を抜き放ちつつアディルに斬撃を放ってきた。凄まじい速度で放たれたオグラスの斬撃は、不意を衝いた事もあり一流のハンターであっても躱すのは容易ではない。


(遅い……無駄な動きが多いな……)


 だがそれはあくまでも普通の一流(・・・・・)が相手である。アディルの腕前は当然ながら普通ではない。それにアディル達はすでに灰色の猟犬(グレイハウンド)が自分達を襲うつもりでいることを知っていたために不意を衝かれることも無かったのである。

 アディルはオグラスの腕をあっさりと掴み斬撃を止めた。アディルが腕を掴んだ事に対してオグラスは驚きの表情を浮かべるが、すぐにニヤリと嗤う。オグラスの中では現在もアディルは格下なのだろう。


「お、おい、オグラス!!」

「は、速い……」

「そ、そんな……バカな……」


 ところがオグラスの仲間達の反応は明らかに狼狽したものであった。その事がオグラスには不思議でならない。確かに自分の初手を防がれたのはアディルの実力が思ったより高かった事を意味するが、仲間達の狼狽え方がおかしいと思ったのだ。


「おいおい、お前鈍すぎるだろ……」

「なんだと?」

「腕切り落とされた事にまだ気づいてないのか?」

「は?」


 アディルの言葉にオグラスはアディルが掴んでいる腕を見ると二の腕の中間部から血がしたたり落ちている。オグラスは恐る恐る自分の右腕を見ると二の腕から先がなかったのだ。


「へぁ!! お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 オグラスは絶叫を放ち自分の身に何が起こったのか分からず錯乱状態に陥った。自分の腕が本人(・・)が気付く事なく斬り落とされれば錯乱状態になるのも仕方のない事であろう。

 オグラスは自分の腕が斬り落とされたことに気づいてから凄まじい痛みを感じるとその場に蹲ってしまったのだ。


「ああ、ゴメンあんまり遅かったからつい斬り落としちゃったよ」


 アディルは謝罪の言葉を発しながら斬り落とした腕をオグラスの顔面に容赦なく叩きつけた。

 オグラスはその場で一回転して頭から地面に落ちる。アディルは容赦なく倒れ込むオグラスの胸を踏み抜いた。


 ギョギィィィィ!!


 胸骨の砕ける音がムルグ達の耳に入るとムルグ達はゴクリと喉をならした。自分達が今追い詰められている事を察したのだ。


「さて、それじゃあ始めようか」


 アディルがムルグ達にそう言い放ったのと同時にアディル達はムルグ達に襲いかかった。

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