変わる時
今回の話は自分でもどうしてこうなったのか良くわかってません。登場人物が勝手に動いたとしか言えません(汗)
治安部隊の面々は、治癒術を使える者から、簡単な治癒を受けると、そのまま慌ただしく装備を調えてハンター達の逮捕へと向かって行った。
腕を吹き飛ばされた兵士は顔を青くしてそのまま蹲っている。欠損は治癒していないが術による止血は成功したようで、とりあえず命の心配はないだろう。
「ヴェル、お疲れ様」
「うん」
治安部隊の面々が出かけていった後にアディルがヴェルへと話しかけるとヴェルは疲れたように返答した。
「これで私……地獄行きかな」
「かもな」
ヴェルの言葉にアディルは即答する。アディルの返答にヴェルは少しばかり苦笑するがすぐにむくれてアディルに非難の目を向けた。
「普通は“そんなことない”と慰めるものなんだけどね」
「普通はな。でもこの場合ヴェルは普通の言葉じゃ慰められないだろ」
「そうかしら? こうみえても私は結構な乙女なのよ」
「乙女という言葉の定義をきちんと把握しろよ」
「うるさいわね」
「ま、俺も地獄行きだろうから別に寂しくないだろ?」
「え?」
アディルの言葉にヴェルは瞬間的に顔を赤くしてうつむいた。
(そ、それってつまり私とずっと一緒にいるって言う事よね)
ヴェルにとってアディルの言葉は添い遂げようと言われたのに等しいものである。
「ちょっと待った!!」
そこにアリスが割って入った。続いてエリス、エスティル、ベアトリスも同様の表情を浮かべていた。
「ど、どうした?」
四人の割り込みにアディルはやや引いた表情を浮かべつつ尋ねる。
「今のアディルの言葉ってヴェルと結婚するという意思表示じゃないわよね!?」
「はぁ?」
「そうよ。そんな簡単に第一夫人の座を得られるなんて思わないでよね」
「エ、エスティル?」
「そうなんだ――でもそう簡単に第一夫人の座を決めるのは早くない?」
「ベ、ベアトリス? お前何言ってるんだ?」
「落ち着いてみんな。まずはアディルがヴェルにプロポーズしたかが重要じゃないのかしら?」
「エリスまで何言ってるんだ?」
四人の言葉にアディルはこれ以上ない動揺を示していた。万の敵を前にしたからと言ってこれほど動揺する事はアディルはないだろう。
「ふふん、みんなには悪いけどどうやら第一夫人は……あいた!!」
ヴェルが勝ち誇ったように四人に勝利宣言を行おうとしたところをアディルがヴェルの頭をはたくことで制止する。
「痛いじゃない!!」
「うるせ!! お前も何言ってんだ!!」
「何言ってるのはアディルの方じゃない!! 愛の告白をしておいて」
「ちょっと待て!! いつ俺がヴェルに愛の告白をした!?」
「テレなくて良いのよ。さっき一緒に地獄に行こうって言ってくれたじゃない!! それって私と添い遂げようって事じゃない」
「確かに言ったがそれが愛の告白にどうしてなるんだ!?」
アディルの言葉にヴェルはふふんと余裕の表情を浮かべた。
「いい? 地獄にまで付き合うってことはそれまでもずっと一緒って事じゃない。言い換えれば一生一緒にいるという宣言よ。これはもう私と夫婦になると言う事じゃないの!!」
「お前、何言ってんの? バカなの?」
アディルが頭を抱えながらヴェルに正直すぎる感想を叩きつける。しかしヴェルは余裕の表情を崩す事はない。実際の所、ヴェルはアディルが結婚の申し込みをしたわけでないことは十分に理解しているのだが、状況が動いたためにこの機会を利用する事を選んだのである。
「待ちなさいよ。ヴェルの言い分は少しばかり早計よ」
「そうよ」
「アディルがプロポーズした訳じゃないのは確実よ!! 第一夫人の座いおさまるのはまだ早いわ」
「ええ、エリスの言う通りよ。悪いけど第一夫人となるのは私なんだから、みんなは第二夫人以降を決めてちょうだい!!」
「ベアトリス、あんた何ちゃっかり第一夫人を手に入れたつもりになってるのよ!!」
五人を含めた言い争いが始まり、アディルは困惑しながらアルト達を見るとアルト達は苦笑を浮かべるだけで五人の言い争いを止めるつもりはないようである。特にシュレイは俺の苦労が少しはわかったかという顔をしている。
女性達も突如始まった女性陣達のアディルの争奪戦に呆気にとられていたが、しばらくして笑みを浮かべ始めた。先程までの状況の落差に何かしら吹っ切れた感じがする。
「やっぱり旦那様となる人に決めてもらうしかないんじゃない?」
ベアトリスが言うと他の四人も頷くとアディルを見る。
「ねぇアディル、もう隠しても仕方ないから言うけど私達五人はアディルの事が好きなのよ」
「お、おう」
アリスの宣言にアディルは完全に押されている。
「ちょっとアリス!! なんで私の分まで言っちゃうのよ!! こういうのは自分の口から言うべきじゃない!!」
「うるさいわね。もうとっくに私達の気持ちなんかバレてるんだから、覚悟を決めなさいよ!!」
エスティルの抗議に対してアリスはやけになったように言い放った。完全に開き直りの心境である。
「いい、私達五人はアディルの妻となるのは決定なの!! あとは第一夫人は誰かという事が問題となっているのよ。さぁ、誰を第一夫人とするの!!」
「あのさ、俺の意思はどうなるの?」
「何言ってるのよ。誰を第一夫人にするかという選択は与えてるじゃない」
「俺がそもそもみんなと結婚しないという選択は?」
「あれ? 結婚しないという選択肢なんてそもそもあるの?」
アリスは自信満々にアディルに尋ねるとアディルはうっとつまる。アディルから見て五人は魅力に溢れた少女であり、断るという選択肢を持つ事自体があり得ないという結論に至ってしまった。
「し、しかし、俺はあまりハーレムというのは……」
「甘い!! 甘い!! 女がここまで愛の告白をしているというのに恥をかかせるのがアディルの男気なの?」
アリスの言葉は限りなく力強いものがある。他の四人も同様であり目には力が漲っている。
(しかし――ん?)
アディルは自信満々なアリスの表情ばかり気にしていたが、アリスの指先が僅かに震えている事に気づいた。その事に気づいて他の四人も勝ち気な表情を浮かべているが、それぞれ指先が震えていることに気づいた。
(俺に断られるのが怖いのか――そうか、そうだよな)
アディルは自信たっぷりな五人の表情に目を奪われて、本心を見誤っていたことに気づいた。
(考えて見ればどんなに強くても人に好意を受け入れてもらえるかはわからない。怖いのは当然だな)
アディルはそう思うと世間一般の考えにとらわれて、この五人を悲しませるという選択自体があり得ないことであると思ってしまう。
「わかった。俺はお前達五人と結婚する」
「「「「「え!!」」」」」
アディルの言葉に五人は意味が分からず芸のない返答を揃って返してしまう。そしてアディルの発した言葉の意味がわかってくると安堵の表情を浮かべ、それから嬉しさの極致という表情が浮かんでいく。
「ヴェル」
「は、はい!!」
「俺と結婚してくれ!!」
「はい♪」
アディルがまずヴェルへ結婚を申し込むとヴェルは幸せそうに返答する。
「エリス」
「はい」
「俺と一緒になってくれ!!」
「もちろんよ♪」
次いでエリスに結婚を申し込むとエリスも快諾する。
「アリス」
「うん♪」
「俺の妻となってくれ!!」
「はい♪」
アリスも即答する。
「エスティル」
「はい」
「苦労をかけるかもしれないが俺と共に生きてくれ」
「ふつつか者だけどよろしくお願いするわね」
エスティルは微笑みながら返した。
「ベアトリス」
「うん」
「幸せにする」
「はい♪」
最後にベアトリスが幸せそうに微笑みつつ返答した。
その様子を見ていたアルトがシュレイに囁いた。
「しかし、全然進展なかったのにここにきてこの急展開はすごいな」
「男女の仲なんてそんなもんさ」
「ほう、シュレイもすぐに二人嫁が出来そうだな」
「俺が申し込むのはまだ先だよ」
シュレイの返答にアルトはニヤリとアンジェリナとルーティアはニッコリと笑った。
本当はこのエピソードは章の最後に入れようと思っていたのですが、勝手に盛り上がった登場人物に作者が引き摺られてしまいました。
賛否両論あるとは思いますが何とか呑み込んでください。




