襲撃②
「俺が察した気配は雑魚ばかりだが、みんなはどうだ?」
アルトの言葉に全員が頷いた。それを見たアルトはニヤリと嗤うとさらに口を開く。
「もちろん、お前らなら俺達が察知しきることのできないほどの手練れがいることを想定してるよな?」
「当たり前だろ」
「そうこなくちゃな」
アルトは全員の反応を見て頼もしげに言う。
「さて、どうする?」
「取敢えずは事情を聞くとしようじゃないか」
アディルはそう言うと部屋の窓へテクテクと歩いていくと窓を開けてそのまま飛び降りた。アディル達の部屋は二階なのだが、アディルはまるで一階と変わらない様子で飛び出していった。
「あらら、せっかちね」
「いくとしましょ」
続いてエリス、エスティルが続いた。
「兄さんはどうします?」
「そうだな、こっちの方向はあの三人に任せるとしよう。俺はこっちだな」
「それなら私もこっちにいきます!!」
「もちろん私もです!!」
シュレイが指差した方向は扉の方向であった。これは廊下からでて一階に降りることを示しているのである。
「それじゃあ、俺たちもシュレイ達と一緒に動くとするか」
アルトが残りのメンバーに視線を移すと全員が頷いた。アディル達三人が別行動をとっている以上、これ以上の分散は避けるべきと言う考えからである。
「それじゃあいくとしましょ」
「あ、そうでしたお嬢様」
ヴェルが歩きだそうとしたときにアンジェリナの声がかけられた。
「どうしたの?」
「お嬢様は戦わないでくださいね」
「どうしてよ?」
「襲撃者を肉片にするつもりですか?」
アンジェリナの言葉にヴェルは不本意だという表情を浮かべた。その表情を見て、アンジェリナはため息混じりに言葉を続けた。
「普段のお嬢様ならば力の加減を誤ったりしませんのでこのような事は言いませんけどね。今のお嬢様は相当怒ってますからね。力加減を誤る可能性が高いです」
「そ、そんな事ないわよ」
「どうして私の目を見ないで否定するんです?」
アンジェリナの指摘通り、ヴェルの視線はアンジェリナから逸らされており、アンジェリナに軍配が上がったのは明らかである。
「でも、考えようによっては一人肉片に変えるだけで戦いを掌握する事ができるんじゃないかしら?」
ヴェルの言葉に全員がやや引いてしまう。
「なんでよ!! みんなだって必要とあればやるじゃない!! ねぇアリスならわかってくれるでしょ!?」
「う」
ヴェルの言葉にアリスは言い淀んだ。アリスも竜神探闘の時に同じような心境であったのだ。
「さ、アリスの承諾を得たということであまりにも態度の悪いやつなら肉片に変えても良いと言うことで」
「ダメに決まってるでしょう。私がこんなことをいう理由がお嬢様がわからないわけないでしょう」
「う、うん」
アンジェリナは襲撃者を肉片にしてしまうような事をしてしまえば、今後の統治に差し支えがでると考えているのだ。場合によっては力を行使するのは間違いではない。だが、今回の相手は気配を察知しているものであればはっきりいって雑魚である以上、ことさら力を振りかざさなくとも十分に制圧は可能なのだ。
必要以上の武威は恐怖に繋がるため、アンジェリナとすればそれは避けたいというものであった。アンジェリナのこの意図をわかっているためにヴェルとすれば降りきることは難しいのだ。
「どのみち、お嬢様の出番はここではありませんよ。怒りはためておいてくださいね」
「わかったわよ」
ヴェルが承諾するとアンジェリナはにっこりと微笑んだ。実に美しい主従愛といいたいところであるがその前の会話の血生臭さがそのような気持ちを周囲の仲間には与えなかったのは残念である。
「あ、そういえば」
そこにアリスが思い出したように言うと全員の視線が今度はアリスへと集中する。
「どうしたの?」
「この機会に駒の補充をしたらどうかなと思ったのよ」
「「「「あ!!」」」」
アリスの言葉にアルトとルーティア以外の仲間の声が見事に揃った。事情がいまいちのみこめてない二人とすれば賛同する事はできなかったのである。
「あ、そうだった。アディルとエリスが一緒ってことは私たちだけじゃ、駒にできないわね」
「となると俺達がいくのはこっちだな」
シュレイが窓を指差すと全員が頷くとアリスが駆け出してそのまま窓から飛び出した。
続いてヴェル、ベアトリス、アンジェリナ、シュレイがそれに続いた。一拍遅れてルーティアも飛び出していったのは、単にシュレイについていっただけであろう。
「なんだかな~。ま、事情はおいおい聞くとしよう」
アルトも一度ぼやくと窓から飛び出した。




