襲撃①
ハンターギルドでのひと悶着を終えたアディル達は、宿泊先の宿屋で夕食をとるとそのまま部屋へと移動した。
部屋割りは、アディル、シュレイ組、ヴェル、アンジェリナ、エリスの三人とアリス、ルーティア、エスティルの三人、アルトとベアトリスの兄妹となった。
アンジェリナとルーティアは当然のごとくシュレイと同じ部屋になりたがったのだが、それはさすがに不味いということで落ち着いたのである。
毒竜と灰色の猟犬は別の宿屋に泊めている。これは襲撃を受けた際に拠点を確保するためである。
「ハンターギルドでの話や街の人々から聞いた話をまとめると、エメトスという男は色々とやらかしているようだな」
「そうね。正直な話ここまでアホとは思わなかったわ」
ヴェルの容赦のない評価に全員が苦笑を漏らす。
「ああ、領民にとって統治者が誰であれ、自分達の暮らしが悪くなければそれで問題ない。だが、エメトスは正当性がないことの不満の噴出を恐れ、最悪の手段をとった」
「ええ、善政を敷き領民の支持を得ることをすれば良かったのにね」
「そういうことだ。実はエメトスはヴェルの最大の味方じゃないかと思うほどだよな」
アディルの言葉には限りない嫌味が含まれている。ヴェルが母親の後を継いでもその領地経営は困難が大いに予想される。ところがヴェルの母と祖父が殺され、自身も命を狙われたという苦境を脱して侯爵家を取り戻すというのは民衆の喜ぶ英雄そのものである。しかもヴェルは美の結晶とも言うべき美貌の持ち主だ。この後、侯爵家を継いだ場合は、民衆は熱狂的な支持をヴェルに贈ることであろう。
「いつ頃来るかな?」
アルトの問いはエメトスの手の者がアディル達を捕らえようとしてやって来ることである。エメトスは民衆の不安を力で押さえつけようとしているのは間違いない。そんな状況で月の牙が虚仮にされた事を見逃すことは決してしないだろう。もし、見逃せばその綻びから一気に不満が噴出することになるだろう。
力で不満を押さえつけようとするものは押さえつける期間が長ければ長いほど民衆の不満が溜まりその爆発力の巨大さは正比例することになる。
「近いうちなのは間違いないと思うわ。なんだったらこっちからいってもいいんじゃない?」
ベアトリスの提案は単純きわまりないものであるが、決して的はずれではない。すでに決定的な証拠を握っている以上、それが一番手っ取り早いのだ。
「う~ん、私は反対かな」
そこにエリスが反対意見をのべた。全員の視線がエリスに向かうとエリスは了解とばかりに話を続けた。
「理由はあのウィルガルドって人かな。あの人ってオリハルコンクラスのハンターよね。他にオリハルコンクラスのハンターが雇われている可能性はゼロじゃないでしょ。きちんとその辺の情報を確かめてじゃないと思わぬ不覚をとりかねないわ」
「たしかにそうね。勝てるとわかってる勝負だからこそ完全勝利じゃないといけないわよね」
エリスの意見にヴェルが賛同する。
「確かにエリスの意見が正しいわね。少し油断があったみたい、気をつけなくちゃいけないわね」
ベアトリスが納得したようにうんうんと頷いた。
「ん?」
アリスが何者かの気配を察知すると同時に全員が緊張の表情を浮かべた。
「取り囲まれてるな」
アディルがそう言うと全員が頷いた。




