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受難というより報い①

 翌朝、朝食をとり遺跡の中に入る準備を終えた一行は遺跡の前に立っていた。


 遺跡は植物に覆われ、所々に建物の跡が見られる完全なる廃墟である。広さは中規模の村ぐらいであり、中央に一本の道路があり、区画整理が行われていたようである。

 そのため自然発生的に誕生した村ではなく、誰かが計画に基づいて作成した都市の可能性が出てきたのである。


「こんな所にこれだけの規模の遺跡があるなんてな」


 ムルグがポツリと漏らす。


「珍しいんですか?」

「そうだな、例えばこの規模の遺跡なら何らかの伝承がこの周辺に残っていても不思議じゃないんだが、今回はそんなことは一切聞かなかった」

「そうそう、ギルドでもその辺の情報は手に入らなかったな」


 シュレイの問いかけにムルグとオグラスが返答する。


 アディルはエリスに視線を向けるとエリスはその視線に気づくと小さく頷いた。


(エリスも聞いてない。ということはここは嘘を言っていないと言う事か)


 アディルは灰色の猟犬(グレイハウンド)達からもたらされる情報の全てを嘘の可能性があると思っているため、エリスに確認をとったのである。これは別にアディルの猜疑心が強いのではなく、メンバー達全員で既に確認した事である。

 ()からもたらされる情報を頭から信じるなど阿呆のすることであり、都合の良い獲物でしかない。そのような甘さとはアディル達は無縁であった。


「まずは分かれて遺跡の周辺から調査しよう。俺達はこのまま中央道路を行くからビスト達は左側、アディル君達は右側の方から調査しつつ反対側で合流しよう。もし何か見つけたら知らせてくれ。絶対に自分達だけで対処しないようにしてくれ」

「わかりました。みんな行こう」


 ムルグの言葉を聞いたアディルは仲間達に声をかけると道路から右側の区画へ向かって歩き出す。エリスも当然の如くアディル達についていく、もはやエリスもアディル達の准メンバー的なポジションになっているのだが、アディル達の誰も疑問に思わなくなっている。


「おい、いつやるんだ?」

「何かしら見つかったときか、何も見つからなかったら今日の夜だな」


 ムルグの答えに灰色の猟犬(グレイハウンド)達は嫌らしい嗤みを浮かべた。


「三人で十人を相手か……くく、楽しみだな」

「すっかり嵌まって淫乱になったりしてな」

「用が済んだら娼館に売るのか?」

「俺達が飽きるまで使おうぜ。あんな上玉は滅多にいねぇしな」


 ムルグ達は下品な会話を展開した後、合流地点である反対側に向かって歩き出したのであった。


「何とまぁ……ゲスな連中なんだろうな」


 アディルの心の底から蔑みの声ににヴェル達も頷いた。


「なんで私達が淫乱になるのよ」

「もう先手打って蹴散らします?」


 ヴェルの言葉にアンジェリナが怒りの声を上げる。


「ヴェルもアンジェリナも我慢よ」

「そういうエリスだって震えてるじゃない」

「そうそう、顔も引きつってるわ」


 エリスが怒りを収めるようにヴェルとアンジェリナに言うがエリスも怒りに震えている。


「とりあえず、怒りは貯めておこうぜ」


 アディルはそう言うとニヤリと嗤う。アディルの嗤顔(えがお)は肉食獣の舌なめずりにしか見えないほど凶悪なものだ。灰色の猟犬(グレイハウンド)達の会話は忍耐の限度を超えようとしている。


「さ、この怒りをぶつけるにはまずは合流しないとな」

「そうだな」


 アディルとシュレイが先に立つと遺跡の反対側へ向かって歩き出した。やや、歩みが早いのはアディルとシュレイの灰色の猟犬(グレイハウンド)を少しでも早くぶちのめしたいという想いから来るものなのかもしれない。


「ん?」


 するとアディルが何かに気づいたような声を出した。


「どうしたの?」

「あれ……何だろうな?」

「え?」


 アディルが指差した先に全員が視線を向けるとそこには一体の像があった。その像は植物に覆われた遺跡の中にあって、まったく(・・・・)植物が覆っていないのだ。


「確かに妙ね……植物がこの像だけ覆ってない」

「この遺跡には確実に何かがあるというわけね」

「よし、調べてみるか」


 シュレイが一歩踏み出した時にアディルの腕がシュレイを堰きとめた。アディルの行為にシュレイが訝しげな視線をアディルに向けた。


「シュレイ、一応念の為だ」


 アディルはそう言うとベルトにつけているポーチから数枚の()を取り出すと地面に放った。地面に落ちた符から黒い靄が発生すると人型へと変化していく。

 人型へと姿を変えた黒い靄は腰に刀を差しており、服装もアディルのものに近いものであった。


「いけ」


 アディルの言葉に黒い靄で形成された兵士は何の躊躇いもなく像に向かって歩き出した。


「これって……」


 エリスがアディルに尋ねるとアディルはエリスの質問に答える。


「ああ、俺の使い魔のようなものだ。()に擬似的な命を吹き込んで意のままに操る事が出来る」

「……変わってるわね」

「そうか? そんなに珍しいものでもないと思うぞ」

「術自体はそんなに珍しいものじゃないかも知れないわよね。私が言っているのは兵士達の姿よ。鎧、武器……この国のものとは随分違うわよね」

「まぁな。俺の一族に伝わる術でな。この形に形成されるようになってるんだよ」


 アディルの返答にエリスは小さく頷いた。


「単なる偶然かしら……」


 エリスの言葉は小さくアディル達の耳には良く聞こえなかった。アディル達がエリスが何を言ったか気になったのだが、アディルが作り出した兵士達が像に触れると姿を消したためにそちらの方に意識が向かってしまう。


「消えた?」


 アンジェリナの疑問の声にアディルが即座に答える。


「いや、消滅していない。どうやら像の下には階段があるみたいだ」

「階段? あったとしても像があるのに……」

「幻術……か」


 シュレイの言葉にアディル以外のメンバーが“あっ!!”という表情を浮かべた。


「そういう事だ。だからこそ俺の式神は像をすり抜けたし、植物が覆ってないのも幻術なんだから当然だな」

「式神?」

「ああ、俺の生み出した兵士達の事だ。式神という名前なんだ」


 アディルはそう言うと像に近付いていき、像に触れるとアディルの腕が像をすり抜けた。


「みんな、ちょっと見てみるから少し待ってってくれ」


 アディルはそのまま像に向かって進む。するとアディルの姿が像の中に消えていった。いつものアディルならばそのまま突っ込むような事はしないのだが、今回は式神を先に放っておいたため、危険性が低いと判断していたのである。


「大丈夫かしら?」

「多分、大丈夫だと思います」


 アンジェリナの言葉を裏付けるようにアディルはすぐに戻ってきた。といっても像から顔だけ出すという中々シュールな絵面であったのだが。


「この像の下には階段があって下に続いている」


 アディルの言葉に全員が頷いた。


「とりあえず……あいつらに思い知らせるとしようか」


 アディルの言葉に全員が頷いた。

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