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レムリス侯爵領②

「ぶっ殺せ!!」

「クソアマァァァ!!」


 男達がエリスに襲いかかるが、その気迫に反して戦闘能力の稚拙さは目を覆うばかりである。

 エリスの頭上に剣が振り下ろされるが、頭部に剣が触れるよりも早くエリスが相手の懐へ踏み込むと、そのまま右拳を斬りかかってきた男の顔面に叩きつけた。エリスの細腕からは考えられないような凄まじい一撃に右拳をまともに受けた男は三メートル程の距離を吹っ飛ぶとそのままテーブルをなぎ倒し地面に転がった。


「ふん!!」


 アディルは斬りかかるハンターの間合いに踏み込むと同時に柄頭で男の鳩尾を容赦なく衝いた。柄頭の三分の一が鳩尾にめり込むと男はそのまま崩れ落ちた。


 最後の一人を蹴散らしたのはアルトである。この戦力過剰な王太子はアディルが鳩尾を衝き崩れ落ちた男の顔面をさりげなく蹴り飛ばしつつ、男の脇腹を容赦なく蹴りつけた。


 まるで馬車に跳ねられたかのように男は吹っ飛ぶとそのまま壁にぶち当たり、そのまま崩れ落ちた。見物人のハンター達は哀れな男を受け止めるような事はせず自身の身を最優先した結果である。


 この間、わずか三十秒ほどのことである。アディル達が武威をやや過剰に披露したところで周囲のハンター達からは“やっちまった”という空気が流れた。


(どうやらこいつらのバックにはそれなりの奴がいるというわけだな)


 アディルは男達の傍若無人な振る舞いと他のハンター達の反応からそう判断した。その後ろ盾である人物はかなりの人物であることが窺える。

 このレムリス領で現在そのような権力を持つ者と言えば非常に限られているだろう。アディルはヴェルに視線を向けるとヴェルは深くため息をついた。


「あの男……本当にどうしようも無いクズね」


 ヴェルの低い声がアディルの耳に入る。どうやらヴェルの達した推察とアディルの推察した人物は見事に重なったようであった。


「まぁ、何というかお前も災難だな。クズの血を引いてるなんて耐えがたいよな」


 アディルがしみじみとヴェルの肩に手を置き、うんうんと頷いた。ヴェルにとってかなり屈辱的な態度であったのだが、ヴェルは不思議と不愉快な感情が起きない。だが、とりあえず一発だけ警告無しに魔鏃破弾(ミズリアム)を放った。


「うぉ!!」


 アディルはやや大げさに放たれた魔力の鏃を躱し、鏃はそのまま壁を貫いた。


「おまっ!! 危ないだろ!!」

「蚊がいたのよ」

「ウソつけ!! 当たったら死んでたぞ!!」

「避けたから良いじゃない」

「んなわけあるか!!」


 アディルとヴェルが痴話げんかに等しいやりとりを始めると周囲の視線が二人に集中する。


「もう二人とも止めなさいよ」


 アリスが呆れた様な表情を浮かべつつ二人を窘めた。しかい、ややアリスの口元に苦笑が浮かんでいる事から、このやりとりがヴェルの事を思ってのことである事を察しているようであった。

 アディルがヴェルに揶揄するように言ったのは、敢えて挑発することでヴェルに攻撃のきっかけを与えて気を紛らわせようとしたのである。やや屈折した表現であったがアディルなりにヴェルに気を使ったのである。


「ま、そこで伸びてる連中はほっといてさっさと報酬をもらうとしましょ」


 エスティルがそう言うとそのまま受付へと向かっていく。


「アディル、依頼文書をちょうだい」

「ああ」


 エスティルがそのまま受付の女性の前に立つとアディルを呼んだ。アディルは受付まで歩くとベルトポーチの中から依頼文書を取りだし受付の女性に手渡した。


「王都でのゴブリン駆除の依頼文書です。討伐を完了しましたので報告に来ました」

「あ、はい」

「こちらが討伐の証拠です」


 アディルが空間に手を突っ込むと一つの袋を取り出した。


「はい、わかりました。お預かりいたします。確認いたしますので少々お待ちください」


 受付の女性は袋と依頼文書を受け取るとそのまま奥へと引っ込んでいく。


「おい、あんたら、すぐにこの都市(まち)から出た方がいいぜ」


 アディル達が確認のために少し待っているところに二十代後半のハンターが声をかけてきた。


「どうしてです? ひょっとしてこの伸びてる連中と何か関係があるんですか?」

「ああ、こいつらは月の牙(エルムンク)のメンバーだ」

月の牙(エルムンク)?」

「知らないのか? オリハルコンクラスのハンターであるウィルガルドが所属するハンターチームだ」

「はぁ……」


 アディルの反応はハンターにとって想定外のものであったようである。アディルの針ないのない返答に不満そうな表情を浮かべつつ言う。


「ちゃんと聞けって、なにしろオリハルコンのチームというわけだけじゃねぇ。やつらの背後にレムリス侯爵家がいるんだよ」

「領主が?」

「なんだ知らないのか? 女侯爵様とその令嬢が死んだ事で形式的にその旦那が名代として今現在レムリス家を取り仕切ってるんだ」

「その領主代行がどうしてこいつらを放置してるんです? そんな事をすれば評判はがた落ちでしょ? 聞いた話だと領主代行は名代に過ぎない。不満があれば一気に引き摺り下ろされちゃいますよ」

「まさにそれさ」


 ハンターがアディルの意見に合格点を出す。どことなく試験を担当する教師のような態度であるがアディルはそこには触れずに話の続きを目で促した。


「不満を抑えるために領軍だけじゃなく、高ランクのハンターも雇ったんだよ。心ある領軍の士官達は辞めさせられ、残ったのは腰抜けばかり、補充のためにゴロツキを兵士として雇って領軍の質はただ下がりだよ」

「そりゃ酷いな」

「ああ、先代侯爵が統治していた頃はそりゃよかったよ。領軍の勇猛さと高潔さはレムリス領民の誇りだったけど、今じゃ領軍の兵士が姿を見せると絡まれないようにコソコソしてるぜ」

「なるほどね。忠告ありがとう、でも俺達はこのレムリス領でやることがあるからさ」


 アディルの返答にそのハンターはため息を一つつくと言う。


「そうか、忠告はしたぜ」

「ええ、貴重なアドバイスありがとうございました」


 アディルが去って行くハンターに向け言う。嫌味ではなく本心からの言葉である。どこで誰が聞いてるか分からないのにアディル達に忠告してくれたのだからアディルとすれば感謝の気持ちしかないというものである。


 ギィ……


 そこに扉が開き誰かがギルドに入ってきた。するとギルド内が水を打ったように静かになっていく。


「お前達かそいつらを伸したってのは?」


 入ってきた男達は五人のハンター達である。


月の牙(エルムンク)だ」


 ハンター達の中から入ってきた五人に対しての恐れの声があがった。

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