レムリス侯爵領①
「なんというか寂れた感じよね」
ヴェルの口から忌ま忌ましさが吐き出された。レムリス領に入ったアディル達はどことなく暗い感じの印象をレムリス領から感じていた。
「ええ、こんな感じじゃなかったのに半年でこうもなるものなのですね」
シュレイも同意とばかりに言う。シュレイの言葉にも苦々しさが滲んでいた。
現在アディル達はレムリス領の領都である「エカレス」という都市にいた。レムリス領最大の都市であり、整備された都市の景観は賛辞の対象であったのだが、アディル達が見たエカレスはどことなく寂れた感じなのだ。
表通りはそれなりに景観を保っているようであるのだが、ところどころにゴミが片付けられないままに放置されているのである。
そして何より住民達の表情、雰囲気がどことなく暗いのが寂れた印象に拍車をかけている。
「まずは現状を把握しないとね」
ヴェルはそう言うとエカレスのハンターギルドへと向かう。すでに情報収集のためにハンターギルドへ向かうのは確認済みだ。
「お前達は酒場などに行って情報を確保してこい」
シュレイが駒達に言うと毒竜、灰色の猟犬はコクコクと頷くと足早に情報収集へと向かった。足早に向かったのは少しでもアディル達から早く離れたかった意思の表れかも知れない。
駒達とわかれアディル達はハンターギルドへと向かった。
ギィ……
ハンターギルドの扉を開けると中には、かなりの数のハンター達が掲示板に掲げられていた依頼文書に目を通していた光景が目に入った。
「依頼が増えてますね」
「そうだな」
アンジェリナの言葉にシュレイが即座に返答するとシュレイがアディルに言う。
「どんな依頼があるか見てくることにする」
「兄さん、私もいきます!!」
「私もです!!」
シュレイの言葉にすかさずアンジェリナとルーティアが言うとシュレイについて掲示板の方へと向かって行った。
「なんかガラが悪いわね」
アリスがアディルに囁くとアディルもアリスの意見に賛同とばかりに頷いた。ハンターギルド内部にいるハンター達の質が比率的にあまりよろしくないようにアディル達には映ったのである。
「アリスの言う通りね。なんか不愉快な視線が向けられている気がするんだけど」
エリスの言葉にこれまたアディルは頷かざるを得ない。時々、不愉快になる視線を感じていたのである。灰色の猟犬が駒となる前にアディル達に向けていた視線と同種のものであり不愉快になるのも当然というものである。
(何というか好き勝手出来る根拠があるというような表情を浮かべてるな)
「おい、姉ちゃん達こっちにこいよ」
突然ハンターの一団がアディル達、いやヴェル達に声をかける。その表情は下衆と称するのがもっとも正しいものである。
当然ながらヴェル達はハンターの意見を完全に無視して、そのまま受付へと歩をすすめていった。
王都で受けたゴブリンの一団の駆除の報酬を受け取るのもハンターギルドに来た目的の一つなのだ。
ヴェル達にあからさまに無視されたハンターの一団が、不快気に立ち上がるのをアディルは視界の端に捉えるが、この段階でもアディル達は無視している。
本来のアディルならば立ち上がろうとした瞬間に襲いかかり男達をしばき倒すところなのだが、声をかけられた状況でしばき倒すような事をするわけにはいかない。
「てめぇ!! 無視してんじゃねぇよ!!」
一人の男が乱暴にエリスの肩を掴んだ。そのまま力任せに振り向かせようとしたのだがエリスはまったく動じることなくそのまま歩を進めた。すると男は引き摺られる形となり逆に転んでしまう。
「てめぇ!!」
転んだ事に対して周囲のハンターから嘲笑が発せられると怒りに満ちた声で男は立ち上がった。
「あれ? どうしたんですか?」
エリスはいけしゃあしゃあという表現そのものに立ち上がった男に言い放った。今の男にとってエリスの整った顔は怒りの対象でしかない。
「てめぇ!! こんなことしてどうなるか分かってんのか!!」
「分からないわね。キーキー騒ぐのは控えたらどうなの? うっとうしいわよ」
「このクソアマァァァ!!」
男はエリスに向かって殴りかかってくるが、エリスは慌てることなく半垂れた拳を腕で掴み上げるとそのまま男を背負ってそのまま投げる。本来のエリスの業ならば頭から地面に叩きつけるのであるが、後の事を考慮して背中から落としてあげた。
「な」
「やりやがったな!!」
「ただで済むと思うなよ!!」
投げ飛ばされたハンターの仲間達が武器を抜き放った。




