弾劾②
「お前達のせいじゃないか!!」
「そうだ!!」
「エリックが殺されたのはお前達のせいだ!!」
一人のハンターの主張はあっという間にアディル達を弾劾するものへと変わっていき、それらが罵声へと変化していくのにそう時間はかからなかった。
(何言ってるんだ?)
アディルとすれば突如始まったアディル達への弾劾に戸惑いしかない。
(面倒だな……黙らせるか)
アディルは仲間達の表情を見てそう判断すると最初にアディル達の責任を問う主張をしたハンターに対して殺気を叩きつけた。
アディルの放った殺気はアディルの全力からすれば些細なものであったのだが、効果のほどは十分すぎるものであった。
殺気をまともに受けたハンターはアディルと同年代の少年でアディルを時折凄い表情で睨み付けてきたことが何度かあった。
アディルはアマテラスの女性メンバーの誰かに惚れているのだろうということで咎めるようなことはしなかったのだ。
「で、エキュオールの凶行を俺達が指示したというのか?」
アディルはハンター達を睨み付けながら言いはなった。もちろん弾劾していたハンター達はそのような事を思っていないのは承知の上である。
「おい、お前!!」
アディルは無作為に選んだハンターに指を突きつけつつ言いはなった。指摘を受けたハンターはまさか自分が指されるとは思っていなかったのだろう。目に見えて狼狽えた。
「俺がエキュオールと組んでいたという証拠は?」
「う……」
「エキュオールの犯罪行為に俺達がどのような点で関わっているのか具体的にいってみろ」
「う……」
突如指摘を受けたのと、アディルから放たれる威圧感からハンターはまともに受け答えることができないでいた。
「あ、そうそう。仲間のハンター達の仇が討ちたいのならエキュオールには仲間がいたぞ。そいつは不利と判断すると即座に撤退した。これがどういう意味かわかるだろう?」
アディルの言葉にハンター達はゴクリと喉をならした。アディルはエルゼスが態勢を整えて再び戻ってくると言っているのだ。ハンター達はエキュオールが片手でオグラスを軽々と持ち上げた状況を思いだし自分達では勝てない相手である事に思い至ったのだ。
「あれ? どうしたんだ? まさかあんたらエキュオールの仲間であるそいつには怒りを向ける事が出来なくて、直接関係のない俺達には怒りを向けるのはどういう理屈だ?」
アディルが一歩踏み出すとハンター達は何かに押されたかのように後ろに下がる。
「お、俺達はお前達が……その……」
「しっかりしゃべれよ。要するにお前らは俺達が謂われの無い非難を受けて泣き寝入りするような連中と思ったから責め立てたというわけか?」
「そ、そんな事はない!!」
アディルのあからさまな挑発にハンターの一人が叫ぶ。アディルは叫んだハンターに向けてギロリと睨みつけると叫んだハンターの気概が一瞬で消え失せるとヘナヘナと座りこんでしまった。
「じゃあどうしてエキュオールへ怒りを向けないんだ?」
アディルが周囲のハンターを見渡しながら言い放つと視線を浴びた者達からうつむき始めた。
「答えないか、ならはっきりと言ってやる。お前達は自分が傷付かないと思った相手にしか強く出ることの出来ない腰抜け共だからだよ。実際に俺達に非難の声を上げたのは雑魚ばかりじゃないか。一流どころは俺達へ非難の声を叩きつけるような事はしてないしな」
アディルの言葉はハンター全員を責めているわけではなく。あくまで自分達に喧嘩をふっかけてきた者に向けての発言である事を伝えるものであった。実際にアディルの言葉を聞いて内心ほっとした者もいたのは事実である。
「俺は、いや俺達は売られた喧嘩は買う主義だ。いくらでも相手にしてやるぞ」
「それ以上は見過ごせんな」
エストがため息交じりに言うとアディルはジロリとエストを睨みつけた。
「勘違いしないでほしいな。俺は売られた喧嘩を買ってやろうとしているだけだよ」
「君が買わなければそれで済むだろう」
「へぇ……それはつまり俺達が我慢しろということか?」
「そういうことじゃない」
「それ以外に捉えようがないと思うんだけどな。俺が気にいらんのは、喧嘩を売っておいて、相手が買ったら途端に“そんなつもりはなかった”とか言って被害者ぶるところだよ。土壇場でヘタレるぐらいなら最初から言うんじゃねぇよ」
「まぁもっともな言い分だな。だが揉め事は困るな」
エストの声にはアディルの言い分に思い切り納得してるような響きがあった。
「ギルド職員とすれば当然の事だな。だが、揉め事をおさめようとするのなら売ってる方を何とかした方が早いし確実だ。俺達は死体蹴りの趣味はないからな」
アディルが言うと、エストは苦笑を浮かべハンター達を見渡した。特にアディル達を罵った者達に時間をかけているのは、明らかに見逃すつもりはないという意思表示である。
「あ、申し訳ありませんでした」
「すみません」
「許してください」
エストの圧に押されたハンター達が次々と謝罪の言葉を発していく。一通り聞いた所でアディルは仲間達へ視線を移すとそれぞれの表情で頷いた。
「謝罪を受け入れるとします。そして俺達はこれからレムリス侯爵領へ任務で行く事になっているので、もしエキュオールの仲間が再び現れたらレムリス侯爵領にあるレムリス侯爵宅に向かったといってください」
「やけに具体的だね」
「レムリス侯爵領は広いですからね、アホだと探しきれなくてハンターのみなさんに八つ当たりするかも知れませんからね」
「そうか」
「話は以上ですよ。旅支度があるのでこれで失礼しても良いですかね?」
「ああ、問題無い」
エストの言葉を受けてアディル達はギルドを出て行った。
ギルドの扉が閉まり、何とも言えない空気がギルドに満ちる。アディルの言った言葉を否定するには自分達のとった行動が根拠を失わせていたのである。
(少しは性根が入れ替わればいいのだがな)
エストは心の中で呟いた。




