罠に掛かった者②
爆発が収まり視界が回復するとエキュオールが立っていることをアディルとエリスは確認した。
「う~ん、決まったと思ったんだがな」
「ほぼ無防備だったから防御陣を展開する事も出来ないんじゃないかと思ったけど、そうでもなかったわね」
アディルとエリスは特に高揚もない調子でエキュオールに言い放った。
「しかし、間抜けだな。ここに連れてこられたという事はそれなりにまずいと考えるべきなんだけどな」
「仕方ないわよ。マルトスとかいうアホも自尊心ばかり肥大化して全然大した事なかったじゃない」
「まぁ、あの間抜けの戦いぶりを思えば、この状況も既定路線と言うべきかな?」
「エスティルとアリスが強いのは事実だけど、全然良いところ無しで終わったのは拍子抜けだったわ」
「十二魔将なんて胸を張られても……もう噛ませ犬としか思えないんだよな」
アディルのため息交じりの言葉にエキュオールは自尊心を大いに傷付けられたのは間違いない。憤怒の表情を浮かべると一歩進み出ようとした所にエリスが礫を放つ。
放たれた礫は高速でエキュオールへと飛び、その出足を封じた。そこにエリスが静かに動く。いや、気配を極限まで消し、いきなりのトップスピードでエキュオールとの間合いを詰めたのだ。
間合いに入り込んだ瞬間にエリスの右拳が放たれエキュオールは咄嗟に身を捩って躱した。エリスは躱された右拳をそのままむちのようにしなせ追撃を放つ。
ドゴォ!!
とても女性が殴ったと思えないような激しい音が周囲に響いた。エキュオールはエリスの一撃にややよろめいたが倒れ込むようなことはなかった。
「くそが!!」
怒りを込めた口調でエキュオールはエリスへ斬撃を放つ。
キィィィィン!!
放たれた斬撃はエリスの胴を薙ぎ上半身を両断すると思われたが、エリスは腰に差した小太刀を抜き受け止めた。エリスは右拳に魔力を込めると虎爪と呼ばれる指を折り曲げて放つ掌打でエキュオールの左足を狙う。
エキュオールはエリスの虎爪を咄嗟に左足を引き躱す事に成功するがそれで終わりではなかった。エリスは左前蹴りをエキュオールの腹部にはなったのだ。
ドゴォ!!
エリスの左前蹴りをまともに食らったエキュオールに次なる災難が襲った。エリスはエキュオールのベルトに左足を引っかけるとそこを基点に飛び上がり、エキュオールの顎に右膝を叩き込んだのだ。
グシャ!!
顎の砕ける音が響き渡りエキュオールが吹き飛んだ。エリスはそのままふわりと着地する。その際に僅かながらスカートがヒラリと舞うことでエリスの下着が見えそうになったのだが、幸いアディル以外の者にはエキュオールが吹き飛んだインパクトが強すぎて意識に入らなかったのである。
「ぐ……ぐぁ……お、お……の…れ」
エキュオールの口から大量の血と砕けた歯がこぼれ落ちる姿は見るも無惨なものであった。
「さて、勝てないのは分かったでしょ? 降参しなさい。十二魔将とイグリアスとやらの情報を吐けば命だけは助けてあげるわよ」
エリスの言葉は決して油断ではない。エキュオールの今までの言動を考えると、アディル達を見下している価値観の者が、見下している相手に膝を屈するなど決してしない事はエリスも分かっているのである。にもかかわらず降伏を促したのはエキュオールの怒りを誘い、冷静さを失わせるためである。
エキュオールは左手で砕けた顎に触れると、左手から光が発せられエリスによって受けた傷があっという間に癒えた。
「あら? まだやるつもり?」
「当たり前だ!!」
エリスの呆れた声にエキュオールは毒々しい声で返答した。
「この姿では確かに勝てんだろうな!! だが!!」
エキュオールは怒りの声と共に力を込めると額から一本の角が突き出てきた。そしてそれだけでなく体も巨大化し、纏っていた鎧が内側から弾けとんだ。
「あらら、それがあんたの本当の姿と言う事?」
エリスの言葉にエキュオールはニヤリと嗤った。先程までの押されていた戦闘の事は完全になかったことになっているような嗤いである。エリスはその姿を見てもまったく恐れを表すことなくエキュオールへと言い放った。
「逆に言えば、あんたはもうカードを出し切ったと言う事よね」
「そういう事だろうな」
「それじゃあ、こっちもカードを切るとしましょ」
エリスはそう言うと懐から符を取り出した。その行動にエキュオールは訝しげな表情を浮かべた。
エリスが符を放り地面に落ちると符は黒い炎を上げすぐに燃え尽きた。
「何のつもりだ?」
エキュオールの忌々しげな声で言い終わると同時に、アディルの後ろに魔法陣が浮かび上がった。浮かび上がった魔法陣から六人の男女が姿を見せた。
「あれ? エキュオールって人間じゃなかったの?」
「そうみたいですね」
「あの角ってあの時のやつの仲間とみるべきかしら?」
「仲間の仇討ちに来たと言うわけ?」
「そんなとこでしょ」
「みなさん、こんなのと知り合いなんですか?」
その六人とはもちろんアマテラスの残りのメンバー達であった。




