罠を張る者達①
翌日になって灰色の猟犬とアマテラスのメンバー達はハンターギルドへと向かう事になった。
ギィ……
ハンターギルドの扉を開けるとハンター達の喧噪が灰色の猟犬達の耳に入る。どことなく暗い感じがするのはハンターの殺害の犯人が未だに捕まっていないことがその原因であろう。
「よぉハンナ、この間聞いたエキュオールという騎士は来てるか?」
オグラスが軽い調子で職員のハンナに親しげに話しかける。ハンナはオグラスに向けてにこやかに笑いかけながら返答する。
「お早うございます。そうですね……今朝はまだ見えてないみたいです」
「そうか、それなら少し待つことにしよう。もしその騎士が見えたら教えてくれるかい?」
「はい、わかりました」
ハンナはそう言うとアディル達に視線を向けた。
「みなさんもお久しぶりです」
「はい、お久しぶりですね。ハンナさん」
「ええ、紅風の方々があんなことになって……」
「はい……残念でした」
アディルの悲痛な表情とともにハンナに言うとハンナも神妙な表情を浮かべた。
「でも、みなさんが無事でよかったですよ」
「ええ、まさか死の騎士から襲われるとは思ってもみませんでした。灰色の猟犬のみなさんがいなければ俺達も危ないところでしたよ」
アディルはさらりとウソをついた。もちろんこれはハンナを馬鹿にしているわけではなく、あくまでも灰色の猟犬が三つのチームの中の中心であると言う事を印象づける必要があったからである。
「灰色の猟犬のみなさんのおかげというわけですね」
「はい!! 本当に助かりました」
アディルが視線を灰色の猟犬に向けて言うとムルグ達は乾いた笑いを浮かべた。アディルが自分達を持ち上げれば上げるほどムルグ達からすれば気が重くなるのである。
「それじゃあ、俺達は仕事を探しに行くとしようか」
「そうね」
アディルが仲間にそう言うとエリスがニッコリと笑って返答した。その笑顔ははっきり言って輝いているというに相応しいものであり、同性のハンナも見とれるほどであった。
アディル達は掲示板に貼られている依頼を見に受付と灰色の猟犬から離れていく。それを灰色の猟犬達は黙って見送った。下手なことを言って怒りを買ったら洒落にならないというものである。
「それじゃあ、ハンナ、俺達はあっちで騎士を待つことにするよ」
「わかりました」
ムルグがハンナにそう言うと灰色の猟犬の面々は窓際へと移動しそこで飲み物を注文し騎士を待つことにした。
「さて、これでよし。後はエキュオールという騎士が現れるのを待つだけだ」
「そうね。私達も依頼を受けたらあいつらの元へと行きましょう」
「ああ、とりあえず……これでいいか?」
アディルがとったのは王都の近くにゴブリンの集団が現れ駆除してくれというありふれたものである。通常ゴブリンは王都の近くには現れないのであるがどこからか流れてきたという事が依頼書に書いてあった。
「そうね。これなら私達が式神を放てば十分に対処可能よね」
「ああ」
「それにしましょ」
アディルとエリスがゴブリン駆除の依頼を受けることに決まり、ハンナの元へと依頼書をもっていくことになった。
「これを受けます」
エリスがハンナに依頼文書をもってくるとハンナは文書を確認するとエリスに向かって言う。
「これはアマテラス単独で受けますか? それとも灰色の猟犬と?」
「一応、私達アマテラスだけで依頼を受けるつもりです。いつまでも灰色の猟犬のみなさんにおんぶにだっこというわけにはいきませんからね」
「そうですか。十分に注意してください。ゴブリンといえどもそれなりの規模ですので油断されると危険です」
ハンナの言葉にアディルとエリスは静かに頷いた。ハンナの立場からすればゴブリンという事で舐めて掛かり不覚をとって命を失ったハンターはそれこそ枚挙に暇がないというものだ。
「わかりました。十分な準備を整えてから戦いに臨みたいと思います」
「はい♪」
エリスの言葉にハンナは嬉しそうに微笑みつつ言う。ハンナとすれば自分の意見をきちんと受け止めてもらったというだけで嬉しいというものである。
「それじゃあ、みんな行こうか」
「うん」
アディルがそう言うとエリスが返答するとアディル達は歩き出した。
「あ、ムルグさん、その騎士様です!!」
アディル達が歩き出して三歩目にハンナがムルグに声をかけた。その声を後ろに受けてアディルとエリスの視線の先に一人の騎士がギルドの扉を開けて入ってくるのが見えた。
(あいつか……)
その騎士を見た瞬間にアディルの本能が警戒心を顕にした。




