レムリス侯爵凱旋篇:プロローグ②
レムリス侯爵領へと向かう事を決めたアディル達は、翌朝から二手に分かれて旅の準備に入る。
アディル、ヴェル、シュレイ、アンジェリナの四人は王城へ王族に協力の要請を、エリス、エスティル、アリス、ルーティアの四人は街に出かけ旅の準備である。
毒竜、灰色の猟犬は家で待機させることになった。ビオルを探している騎士の話は聞いているのだが、優先すべきは王族への協力要請である以上、ビオルの情報は後回しになるのは仕方のない事であった。
一応の指示として、灰色の猟犬(ビオル含む)は家から出ないことを申しつけている。
「とりあえずこれを見せろと言われてたな」
アディルは王城の正門前で指輪を取り出した。ベアトリスから受け取った指輪であり、王族であるヴァイトス家の紋章がモチーフになった一目で高価なものとわかるものだ。
アディルは取り出した指輪を衛兵に見せると衛兵の顔が見る見る変わり直立不動になった。
「しょ、少々お待ちください!!」
衛兵の一人が慌てて中に入っていくと残った衛兵達は直立不動のままである。
(ねぇ、なんでこの人達直立不動になってんのよ)
(俺が知るか!! ベアトリスが渡した指輪を見せただけだぞ。ヴェルだって見てたろうが)
(普通に通行許可書代わりと思ってたけどそんなレベルじゃ無いじゃない)
アディルとヴェルがヒソヒソと言葉を交わしているとシュレイが少し考えると衛兵に尋ねる。
「あの、王城に来たらこの指輪を見せるように言われただけなんですが、なぜみなさんはそこまで緊張してるんですか?」
「はっ!! この指輪を持つのは王族に準ずる方なのです!!
シュレイの問いかけに衛兵の一人が直立不動のまま返答する。衛兵の言葉にアディルの顔が引きつった。
「あんのアホ……なんてものを……」
アディルはベアトリスがとんでもないものを自分に渡したことを今更ながら気づくと悪態をつく。基本アディルは物事に動じる方ではないのだが、これはアディルの想定を越えていたのは間違いない。
(ベアトリス……動き出したという訳ね)
アディルはベアトリスの悪ふざけととらえていたようだが、ヴェルとすればベアトリスの本音、ヴァイトス家の本気を見た気がしたのである。
(しかし、アディルと王家にはどんな関係があるのかしら……? 普通に考えて王族と平民が結ばれるわけないけど、アディルは普通じゃないわよね)
ヴェルは考えれば考えるほど関係性が気になるのというものだ。
すると先程の衛兵が戻ってきた。一人で戻ってきたのではなく、文官と騎士が数人歩いてきた。




