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竜神探闘:エピローグ①

 竜神探闘(ザーズヴォル)が終了してから三ヶ月が既に過ぎた。


 この三ヶ月間はアリスは目も回る忙しさであった。レグノール選帝公に叙任されたアリスは即座にレグノール選帝公並びに分家の爵位、領地、特権の全てを皇帝に返上するために動き出した。


 当然ながらレグノール一族は猛反発したが、家名の無い政務官(ザールヴェンツ)ことエルザックが皇帝ラディムの代理として、アリスを補佐し、加えて前レグノール選帝公イルジードの遺児であるレナンジェス、ルーティアもアリスを支持した事で反発は一つ一つ潰されていった。


 アリスにして見ればレグノール一族は特権を持つに値しないという考えであったので、まったく容赦をすることはなかったのだ。


 アリスは大人しく爵位と領地、特権を返上したものについては財産を持つ事を許したが、反発し拒むものに対しては財産も取り上げ一文無しにして放逐するという容赦の無さであった。

 皇帝の代理として家名の無い政務官(ザールヴェンツ)がいる以上、堂々と兵を差し向けることは出来なかったために、レグノール一族はアリスに対して暗殺者を差し向けたのだが、それらすべてはアマテラスの手により撃破されてしまい。呪血命(まじないのちのみこと)により行動を縛られた暗殺者を依頼者へ向けて逆に送り込まれる事になったのである。


『処分する手間が省けるからどんどん暗殺者を送ってちょうだい』


 これが反発するレグノール一族の前で言い放ったアリスの言葉である。送り込まれた暗殺者に逆に襲われるという事が続き、一人また一人と命を落とすようになったことでレグノール一族は暗殺という方法を放棄したが、それで終わりではなかった。


 アリスは暗殺に加担したものの中で生き残ったものをレグノール選帝公暗殺未遂犯として容赦なく処罰した。

 レグノール一族の幕引きを図ろうとしているアリスといえども、現レグノール選帝公である以上、暗殺に関わったものは厳罰に処される。アリスの情けにより極刑だけは免れる事になったが、身分を奴隷に落とされてそのまま鉱山送りにされた。

 鉱山送りにされた者が家臣であった場合にはその家の当主も同様に鉱山送りになった。アリスとすればトカゲの尻尾切りなど認めるつもりは一切無かったのである。


 ちなみに竜神探闘(ザーズヴォル)前にアリスに会いに来たレグノール一族の長老的立場であったセルゲオムは鉱山送りとなってる。


 レグノール一族は完全に解体され、レグノール領は皇帝の直轄領となった。皇帝の直轄領となった旧レグノール領に皇帝の直属の行政官が派遣され統治が始まったが、ラディムは有能な行政官ばかり送り込み、旧レグノール領民達の反発もほとんどない。領民にとって支配者が変わろうがそれほど問題ではないのだろう。


 そしてレグノール一族を解体したアリスはレグノール選帝公の爵位を返上すると竜神帝国を後にしたのだ。


「う~ん……久しぶりのヴァトラス王国ね」


 ベアトリスが大きく伸びをしながら言うと全員も大きく伸びをした。


「さ、シュレイ様、私達の愛の巣を……あいたっ!!」

「何調子に乗ってるのよ!! なんで兄さんがあんたの愛の巣とやらにいかなくちゃ行かないのよ!!」

「何言ってるんです!? あなたは第二夫人なのですから私に敬語を使ってください!!」

「はぁ!? 何言ってるのよ!! 本当に頭が残念な子ね」

「残念なのはあなたです。私がせっかく第二夫人にしてやると言ってるのにどうして私の寛大な申し出を断るんですか!?」

「なんで私が第二夫人なのよ!!」

「シュレイ様が私を第一夫人に選ぶのは当然じゃ無いですか!!」

「何言ってるのよ。兄さんの妻は私よ!!」


 アンジェリナとルーティアがいつものごとく張り合っている。


 ルーティアの登場に危機感を持ったアンジェリナはシュレイに想いを告げるとルーティアもまた改めてシュレイに愛の告白を行ったのである。

 

『私を第一夫人にして、アンジェリナさんを第二夫人にすれば解決です♪』


 急展開に頭が止まっていたシュレイに対してルーティアが言った言葉がこれである。竜族にとって一夫多妻制というのは珍しい事ではないので、ルーティアにしてはそれほど奇異な提案ではないのだ。

 当然ながらアンジェリナとすれば納得いかないため、この二人はシュレイをとりあって事あるごとに喧嘩しているのである。ただ、憎み合っているというわけではなく最近では喧嘩友達というようになっているのである。


「あんた達も飽きないわね」


 ヴェルが二人に言うと二人ともヴェルに視線を向けるとほぼ同時に口を開く。


「お嬢様!! 私が兄さんの事で引くわけないでしょう!!」

「ヴェルさん!! 愛しい御方の心を射止めるための乙女の行動です!! 引くわけ無いじゃないですか!!」

「あ、そのごめんなさい……」


 凄まじいテンションにヴェルは即座に白旗を上げた。テンションが上がった二人の間に入ろうとすると即座に二人揃って反撃するのだから、実はこの二人は精神的には姉妹なのだろう。


「何というか、賑やかになったな」

「そうね」


 アディルの声にはどことなく楽しさが含まれている。返答したベアトリスもまたニッコリと笑った。


「今回の件は本当に楽しかったわ」

「でもお前、四ヶ月も国を空けて大丈夫だったのか?」

「うん♪ 一応特使という名目で竜神帝国に行ったからね。それにいくつか竜神帝国の制度も持ち帰ったし、四ヶ月という短期間を考えると問題無いわ」


 ベアトリスの言葉にアディルは頷いた。


「ねぇ、次はやっぱりヴェルの方?」


 そこにエリスが声をかけてきた。


「俺はその方が良いと思ってる。ヴェルとしてはこれ以上、簒奪者に好き勝手やられるのは我慢ならないだろうからな」

「そうね。私としても気になってたのよ。調子に乗ってることでしょうから、ここらで反撃するとしましょう」

「だな」


 アディルはそう言うとニヤリと笑った。 

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