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竜神探闘㉓

 キキキキキキィン!!


 アリスとイルジードの苛烈な斬撃の応酬が始まる。並の剣士であれば一合も斬り結ぶことは不可能な程の斬撃であってもこの二人の表情には驚きはない。二人にとってのこの斬撃の応酬は小手調べ程度でしかないのだ。


 キィン!!


 数十合の斬撃の応酬を行った両者はどちらかともなく一旦距離をとった。互いに間合いのギリギリの所に立ち様子を伺っていた。


「ふ~ん、叔父様も少しはやるわね。てっきり人質をとるという選択した真性のクズだからもう少し弱いと思ってたわ」

「つくづく無礼な姪だな」

「さっきも言ったでしょ。あんたへの礼儀を守る意義がどうしても見つからないの。だってあんた、あの二人(・・・・)にもまったく信用されてないんだものね」

「あの二人?」

「あら? あの二人が誰を指しているかわからない?」


 アリスの嘲るような声にイルジードは不快気な表情を浮かべた。アリスの言うあの二人が誰の事か思い至ったのだ。


「思えば昔からあんたはレナンジェスにもルーティアの事も自分の都合の良い道具としかみていなかったものね」

「……」

「当然だけどレナンジェスもルーティアも物凄く人の心情には敏感だから、あんたが二人に注いでいるのは愛情でないことを察してるわ。じゃないと私達を逃がしてあんたを殺すという決断をしないわよ」

「なんだと……私を殺すだと?」


 アリスの伝えた言葉にイルジードは驚きの表情を浮かべるがすぐに怒りの表情へと変わる。


「その怒りの表情は“飼い犬に手を咬まれる”という心情の表れよね?」

「……」

「レナンジェスは言ってたわよ。あんたを殺した後自分も死ぬって……そうすることであんたの罪を償おうとしたのよ」

「愚かな事だ……後できちんと教育しておかねばならんな」

「それは無理よ。あんたはここで死ぬからね」

「死ぬのはお前だよ……アリスティア」

「それはどうかしらね」


 アリスはそう言うと周囲に雷の珠が発生した。


「ほう雷珠(ウルターム)か」

「ええ、お父様の得意の術よ」

「子供だましだ」


 イルジードの吐き捨てるような言葉を受けてアリスはニヤリと嗤うと右手の輝竜(ルクナレス)を横薙ぎに振った。すると雷珠(ウルタール)が意思を持つかのようにイルジードに襲いかかった。

 イルジードもまたニヤリと嗤うとアリス同様に雷珠(ウルタール)を展開するとアリスの雷珠(ウルタール)と空中でぶつかり、放電を行うと互いに消滅した。


「く……これならどう!?」


 アリスは再び魔法陣を展開すると輝竜(ルクナレス)をまた横に振る。魔法陣から水で出来た人面の頭部、体は蛇のような奇妙な生物が現れるとイルジードへと襲いかかった。


「今度は水の蛇精(ウェルボス)か……」


 イルジードは訝しながら襲いかかる水の蛇精(ウェルボス)に対処するために剣を地面に突き刺し魔法陣を展開させると魔法陣から炎が巻き起こり、イルジードを包み込んだ。炎の壁が展開されると水の蛇精(ウェルボス)を包み込む。


 シュゥゥウゥゥゥゥ!!


 炎に絡め取られた水の蛇精(ウェルボス)は蒸発の音を発しながら消え去った。


(この程度の術など私に通じないのは明らかなはずなのに……何のつもりだ?)


 アリスの魔術の腕前はそれほどではない。もちろん二流というわけではないのだがイルジードに通じるレベルのものではないのは確実だ。そしてそれを知らないアリスではないのでそれがイルジードには何を企んでいるかが気になるのだ。


(今度はこちらの番だ!!)


 イルジードはアリスに向かって突っ込んでいく。アリスが何のために魔術を多用したか、その意図を完全に把握しているわけではないが、このままでは流れを掴まれる事を危惧したのである。


 イルジードはアリスへと斬撃を放つ。アリスは魔法陣を展開しようとしておりイルジードの斬撃への対処が一瞬遅れてしまう。イルジードの剣がアリスを斬り裂いた。


 ギ……シュ


(ん? なんだ? この水を斬ったかのような手応えは?)


 イルジードの手には肉を斬った感触ではなく、液体を斬ったかのような感触が感じられた。


 パァン!!


 イルジードの視界には、斬り裂かれ破裂したアリスの後ろに控えていたもう1人のアリスの顔が見えた。


 アリスは輝竜(ルクナレス)を振るうとイルジードの胸から鮮血が舞った。

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