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竜神探闘⑫

 キキキキキキキキィン!!


 黒の貴婦人(エルメト)の両手首から剣が飛び出すとアルゼストの双剣を激しい剣戟が展開された。


「人形如きがやるじゃねぇか!!」

「それはどうも♪」

「気に入ったぜ!!」

「それはご勘弁願いたいわね」


 ベアトリスとアルゼストは互いに軽口をたたき合う。交わされる言葉は互いに軽いのではあるが剣戟の激しさは凄まじいものがある。


(あっちは動かない……私がこいつとの戦いに意識を取られるのを待っているという感じね)


 ベアトリスはチラリとシーファスに視線を向けて心の中で呟いた。ベアトリスがシーファスに視線を送る事で自分が決してシーファスから意識を外していないことを見せつけているのだ。そのためにシーファスは転移魔術を使う事が出来ない。


(ち……あの娘の白の傀儡はやっかいだ。あっちのジジイもビオルへの警戒と同時にこちらへの警戒も怠らない)


 シーファスは間合いを計りながらもベアトリスとジルド相手に攻めあぐねているのは間違いなかった。ジルドが先程自分の部下三人を苦も無く倒した事からその技量を軽視するべきでないことは理解していたのである。

 ビオルはジルドへの警戒から動く事は出来ず、シーファスもまたジルドとベアトリスの白の弓神(フィンファリス)に狙われているということから動く事が出来ずにいた。


 ビシュン!!


(ち……迂闊に動けんがこのままではジリ貧だ。イルジード様の元へ急がねばならない……くそ。動くしかないか)


 シーファスは双剣を構えると同時に動く。


「ジルド!!」

「わかっとりますよ!!」


 シーファスが動いた事を察したベアトリスはジルドに向かって叫ぶ。ベアトリスとジルドの本心から言えばシーファスはアルゼストとビオルを倒してから二対一の状況で戦いたかったのだ。


 シーファスに向かってジルドが正拳突きを放つ。音を置き去りにしたかのような凄まじい速度のジルドの正拳突きをシーファスは躱し様にジルドの腕を斬り落とそうと双剣を振るう。


 キィィィィン!!


(な……)


 ジルドの腕をシーファスの双剣は斬り落としたはずであった。しかし、シーファスが感じた感触は柔らかい肉を斬り裂く感触ではなく堅い金属のものであった。


 ビシィィイィィィ!!


 シーファスの一瞬の動揺を逃すことなくジルドは下段蹴りをシーファスの右太股に蹴り入れた。


「ぐっ」


 シーファスの口からシーファスの下段蹴りを受けた素直な反応が発せられた。シーファスが長い戦歴の中でも数えるほどしか味わったことのない衝撃であったのだ。

 シーファスは横に跳んで、ビオルと合流する。そこに白の弓神(フィンファリス)の矢が二射立て続けに放たれた。

 放たれた二矢をシーファスとビオルは、はたき落とすと忌々しげに白の弓神(フィンファリス)を睨みつける。


「ち、嫌なタイミングで射てくるな」

「ええ、娘の人形もアルゼストとほぼ互角ですし、あのジジイも隊長と五分と見て良いですね」

「ああ、これほどの手練れが人間にいるとは思わなかった」

「となると私の存在がこの戦いの流れを決めるわけですよね」

「そういう事だ。狙うのは誰かわかるな?」

「もちろんですよ」


 ビオルはそう言うとふっと姿を消した。


(まずい!!)


 ベアトリスはビオルを見失った事に戦慄する。いかに黒の貴婦人(エルメト)の操作に意識を向けたからといって、警戒を解いていたわけではないのに見失ったのだ。


「はっ!!」


 そこにジルドがベアトリスに突っ込むと正拳突きを放った。放たれた正拳突きはベアトリスの顔のすぐ横を通り抜けベアトリスの背後に一瞬で回り込んだビオルの顔面にまともに入った。


 ジルドの正拳突きをまともに食らったビオルは血を撒き散らしながら吹っ飛んだ。だが、次の瞬間にシーファスも動いていたのである。

 ベアトリスを庇うためにジルドがビオルを討つことは当然想定していた。そしてその際に大きな隙を生じさせることもわかっていたのだ。もし、生半可な攻撃を行えばビオルはベアトリスを殺していたことは間違いない。


(その娘はお前にとって主筋なのだろう? お前は俺達の事を舐めていたわけではないが迂闊だったな)


 シーファスはジルドの背中に双剣を振るう。


 シュパァァ!!


「ジルド!!」


 ジルドの背中が斬り裂かれ鮮血が舞うとベアトリスが叫んだ。


(鎖を着込んでいたか)


 シーファスはジルドの着込んでいる服に鎖が編み込まれていることを斬った感触で気づいた。だが、それは致命傷に至らなかったが重傷を負わせた事は理解している。


「はっ!!」


 ジルドは苦痛をおくびにも出さずに裏拳をシーファスに放った。シーファスは後ろに跳んでジルドの裏拳を躱すと距離をとった。


「隊長、大丈夫っすか?」

「ああ、お前こそ苦戦してるじゃないか」

「そりゃこれだけの手練れですからね。むしろ褒めてくれても良いくらいですよ」

「そうかもな」


 シーファスとアルゼストは互いに軽口をたたき合う。軽口を叩いてはいるがアルゼストはシーファスがジルドへの追撃を行わない理由を察していた。最初の攻防で受けた下段蹴りが与えたダメージが思いの外重いのである。


「これは痛み分けとみるべきよね」

「そうですな。三対二が二対二になりましたからこちらが勝ったという事にしましょうかの」

「そうね。まさかジルドがケガを負わされるなんて思ってもみなかったわ。ジルドが助けてくれなかったら私死んでたわ。ありがとう」

「まぁ、弟子を守るのも師の務めというものですじゃ」

「それじゃあ弟子としてはここでジルドには下がってもらいたいわね」

「御言葉に甘えたいところですが、あの二人は強いですぞ」

「分かってるわ」


 ベアトリスはそう言うと不敵な笑顔を浮かると黒の貴婦人(エルメト)白の弓神(フィンファリス)がガラガラと崩れ落ちた。黒の貴婦人(エルメト)白の弓神(フィンファリス)が崩れた後に二つの宝珠が現れた。


天魔降臨(カルフィリト)!!」


 ベアトリスの言葉に二つの宝珠を中心に魔法陣が展開すると崩れ落ちた黒の貴婦人(エルメト)白の弓神(フィンファリス)のパーツが二つの宝珠に向かって集まり始めた。


「これは……?」


 シーファスが信じられないものを見たかのように呟く。シーファス達の目の前に全く新しい傀儡が立っていたのだ。

 黒を基調とした鎧に身を包んだ白皙の傀儡は、荘厳な雰囲気を醸し出していた。新たに現れた傀儡は右手をかざすと一本の長槍が現れる。


「いくわよ……花天の槍牙(シェイラベル)


 ベアトリスの言葉に応えるように傀儡が長槍を構えた。


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