竜神探闘⑩
ヴェルが形成した人形達はエーベントへ向かって向かう。のっぺりとした人形には一切の目も鼻もない。何の意思表示も行わないままエーベントに襲いかかる。
「なんだ……?」
エーベントは襲いかかってくる人形達に呆れたかのような声を発した。一目でヴェルの放った人形が戦闘力が低すぎる事を見抜いたのだ。
「せい!!」
ヴェルは右掌から再び魔槍穿を放つ。放たれた魔槍は人形を貫通するとそのままエーベントへと向かう。貫かれた人形は破裂すると周囲に降り注いだ。
ガシャァァァン!!
魔槍がエーベントの防御陣を貫く音が周囲に響く。しかし、今度はエーベントは油断していなかったこともあり、魔槍を余裕を持って躱した。
「追加っと!!」
ヴェルは再び符を取り出すと再び黒い靄を発生させ再び十体の人形を生み出した。ヴェルは魔槍穿を再び放つと魔槍が人形を貫通してエーベントを襲う。
(また? こいつは一体何を考えている?)
エーベントは魔槍を躱しつつ流石に同じ手をくり返すヴェルに対して訝しみ出した。効果があるならばともかく通じない行動をとる意図がわからないのだ。
「もう一度!!」
ヴェルが符を放つと再び人形が形成された。
「何を企んでいる?」
エーベントの言葉にヴェルは不敵に嗤うと口を開いた。
「私の技量では一度に作成できる式神は十体が限界なのよ」
「式神?」
「さぁて何の事かしらね」
「ふざけるな!!」
ヴェルの返答にエーベントは激高する。本来ヴェルが質問に答えなければならない義務などどこにもないことはエーベントも理解している。だが、不可解な行動をとるヴェルに対し一種の気味悪さを感じ始めていたエーベントとすれば冷静でいられないのだ。
「まぁ未熟だからこそ工夫で何とかするものよね」
「だから何を言ってる!!」
「こういうことよ!!」
ヴェルは一際大きな声でエーベントに言い放つと展開していた人形がドロリと形を失うと一箇所に集まり一体の巨大な人形へとなった。
「なんだ?」
エーベントは一つにまとまり巨大化した人形を見て呆れた声を発した。見てくれは巨大であるが、その力が大したもので無い事は一目で見抜いたのだ。ヴェルの取っていた行動の理由がこれであったのかと呆れる気持ちが半分、警戒していた自分が恥ずかしいと思う気持ちが半分であった。
「ふん」
エーベントの周囲に炎が巻き起こると一つにまとまった人形に放たれると瞬時に人形が炎に覆われ、ボロボロと人形は形を失うと崩れ落ちた。
「な!?」
人形が崩れ去るのを見たエーベントがニヤリと嗤ったが次の瞬間に驚愕の表情を浮かべた。崩れ去る人形の中からヴェルが現れたのだ。
「せい!!」
ヴェルがエーベントの間合いに入るとそのまま魔鏃破弾を放った。至近距離からの魔鏃破弾の連射であったがエーベントは咄嗟に防御陣を展開した。
咄嗟に展開した防御陣であったためにヴェルの魔鏃破弾を受け亀裂が入るが防御陣を突破することは出来ない。
「くらえ!!」
ヴェルは続けて右掌から魔槍穿を放つ。こちらの魔槍は防御陣を貫くがエーベントは動ずることなく魔槍を紙一重で躱すとヴェルに向けて魔力の塊を直接放った。
「く!!」
ヴェルは腕に魔力を込め腕を交叉させると同時に防御陣を形成してエーベントの魔力の塊を受ける。
ガシャァァァァァァン!!
ヴェルが形成した防御陣が砕け散り交叉したヴェルの腕に直撃する。
ボギィィ!!
(ぐぅ!!)
腕の砕ける音をヴェルは聞き、その苦痛に表情を歪ませた。ヴェルは威力を受けきることは出来ずに吹き飛び数メートルの距離を飛ばされ地面に転がった。
(いてて……無傷の勝利って難しいわね)
ヴェルが心の中でため息をつきつつエーベントを見るとエーベントは勝利を確信したのだろう口元に勝利の笑みを浮かべているのが目に入った。
(さようなら……やっぱり私達の勝ちよ)
ヴェルはエーベントの後ろにいるエリスの姿を見て心の中でいう。
ズシュ……
「が……ゴフ」
エリスの小太刀が背中から入り前面の胸部から突き出す。エーベントの口から苦痛と困惑、そして血が溢れ出した。
エリスはエーベントを貫いた小太刀を抜くとそのままエーベントの首を斬り裂く。ここでエーベントの目はグルリと白眼を向き、糸の切れた人形のように倒れ込んだ。
「ふぅ」
エリスはエーベントの死を確認すると倒れているヴェルの元へ駆けつけると符を放ち、タモンとジコクを作成し護衛を確保するとヴェルに治癒魔術を施した。
「いてて、助かったわ」
「しかし、無茶するわね。形も整わない式神をあの魔術師との戦いに投入するなんてすごい度胸よね」
「エリスが護衛のためにつけてくれた式神がやられた時にエリスが来てくれると思ってね。時間稼ぎをしようと思ったのよ」
「式神を知らないからこそ意識が向いたと言う事か」
「知識って重要よね」
「心からそう思うわ。さ、大きな仕事を終えたヴェルとアンジェリナは後を私達に任せて下がっててもらうわね」
「ええ、私もアンジェリナもほとんど魔力が残ってないからアドバイスに従うわ」
「うん」
二人はそう言葉を交わすとヴェルは後方へエリスはアディルの元へと向かう。
(本当に良くやったわ)
エリスはヴェルの後ろ姿を見て心の中で賛辞を送る。ヴェルがアンジェリナを伴って後方へと下がっていくのが見えた。
(魔術師の一団をここで潰せたのは大きいわ)
エリスにとって魔竜がここで消えてくれたのは有り難い事この上ない。アディルが団長であるウルグを討ち取れば、一気に形勢はアディル達に傾くだろう。その流れを押しとどめるためには魔術による無差別攻撃が行われる可能性があったのだ。
(さ、次は私達の仕事ね)
エリスは決意を固めると激しい乱戦の中に再び跳び込んでいった。




