竜神探闘⑨
「さ、アンジェリナやるわよ」
「はい」
ヴェルの言葉にアンジェリナが即座に返答すると魔竜に向け一斉に魔術を放った。
ヴェルが放ったのはもちろん魔鏃破弾、そしてアンジェリナは魔矢だ。斃すのを目的というよりも牽制が目的のものである。
ヴェルとアンジェリナの先制攻撃に魔竜の面々は躱す事なく防御陣を形成しヴェルとアンジェリナの魔術を防いだ。魔竜の面々はヴェルとアンジェリナに向けて不敵な笑みを向けた。まるでお前らごときの魔術は効かないと言わんばかりである。
「あらら……私の魔鏃破弾を防ぎきるなんてやるわね」
「牽制程度の魔矢でしたけどあそこまであっさりと防がれると少々プライドが傷付きますね」
魔竜の挑発的な笑みにヴェルとアンジェリナもまた挑発的な笑みを浮かべる。
「数は十人……その中でも突出しているのは一人……」
「突出しているのは本当に強敵です」
「そうね……。仕方ないわね。アンジェリナあれをやるわよ」
「はい。仕方ありません。魔力のほとんどを使ってしまいますがやる価値ありというやつです」
「そういうことよ。じゃ頼むわね」
ヴェルはアンジェリナとの会話を終えると同時に左手から魔鏃破弾を放った。
カカカカッカカカカカカッカカ!!
放たれた魔鏃破弾は魔竜の防御陣に直撃すると次々と弾かれていく。ヴェルは構うことなく魔鏃破弾を放ちながら一歩一歩進み出ていく。
ヴェルが歩を進めると同時にエリスの式神であるタモンとジコクがヴェルに付き従う。
アンジェリナの側にはゾウチョウが控えている。
(しかし、竜族ってやっぱりすごいわね)
ヴェルとすればここまで魔鏃破弾を連射しても防御陣にヒビ一つ入れる事が出来ないのは初めての経験である。
そこに魔竜から雷撃の魔術が放たれる。その威力は凄まじいの一言だ。並の魔術では一生かかってもこれだけの威力を出す事は不可能であるように思われる。ジコクがヴェルの前に飛び出すと雷撃をまともに受けた。
ブスブス……煙をあげたジコクがその場に崩れ落ちると同時に塵となって消滅した。
(く……今の雷撃の一撃……凄まじかった。私の防御陣では紙のように貫かれるのは間違いわね。あの魔術師……すごいわね)
ヴェルは背中に冷たい汗が流れるのを自覚する。ヴェルに向かって雷撃を放ったのは魔竜の隊長であるエーベントであったのだ。
「お嬢様!!」
アンジェリナが背後からヴェルに向けて大声で叫ぶ。ヴェルは小さく頷くともう一体の式神であるタモンの陰に隠れると魔竜の真っ正面に巨大な魔法陣が展開されると一体の巨人の上半身が現れた。
現れた上半身の巨人の手には一本の巨大な戦槌が握られている。その戦槌の巨大さは優に十メートルは超えている。そのような巨大な戦槌を巨人は軽々しく振りかぶった。
「な……」
「まさ……」
「人間如きがこんな!!」
魔竜の口から次々と恐怖の叫びがあがった。目の前に現れた巨人が危険極まりないものである事など考えるまでも無いことであった。
巨人の戦槌が勢いよく振り下ろされると魔竜の展開していた防御陣をあっさりと打ち砕くとそのまま地面にその強大な力を叩きつけた。
ドゴォォォォォォォォ!!
凄まじい爆発音が響き渡り、爆風が周囲を席巻する。大量の土砂と共に魔竜の隊員達が宙を舞いそのまま地面に叩きつけられる。地獄絵図のような光景であるが決して戦いの決着を意味するものはないのだ。
爆風が収まった所に人影があった。魔竜の隊長であるエーベントであった。さすがにエーベントは無傷で凌ぎきることは出来なかったようで、体の至る所から血が流れているが致命傷には程遠いという印象だ。
「信じられん……人間が巨神の破激を……使うだと」
エーベントの言葉には信じられないという驚きがふんだんに盛り込まれている。アンジェリナの使った魔術は竜神帝国では巨神の破檄と呼ばれるものであり、最高難易度の魔術として認識されているものだ。当然竜族の中でも限られた者しか使えないものだ。
「巨神の破激? アンジェリナの放ったのは破神の鉄槌なんだけどね。さて……降参しなさい」
ヴェルが首を傾げながらタモンの陰から姿を見せてエーベントに向け言い放った。降伏勧告にエーベントは忌々しげな表情を浮かべた。ヴェルの言葉がエーベントの不快感を大きく刺激したのは間違いないだろう。
「まだ終わってもいないのに降伏勧告とはな。少しばかり気が早いのではないか?」
「そう? 決着はついてるんだから気が早いというのには当たらないと思うけど?」
「こいつらが動けないから決着がついた? それは私を甘く見すぎだと思うがな」
「アホには事実を叩きつけないとダメなのよね」
ヴェルはエーベントに左手の五指を向けると魔鏃破弾を放った。エーベントは即座に防御陣を形成するとヴェルの魔鏃破弾を弾く。
「またそれか!!」
エーベントはヴェルの魔鏃破弾を嘲笑った。エーベントにとってヴェルの魔鏃破弾は脅威ではない。それにもかかわらず魔鏃破弾を再び放つヴェルの愚かさを嘲笑うのも当然かも知れない。
(魔術の腕ではあんたの方が遥かに上よ。でも勝つのは私達よ!!)
ヴェルはチラリと周囲を見ると魔鏃破弾を放ちながら心の中でほくそ笑んだ。
「死ね!!」
エーベントは誤解のしようのない意思表示を行うと同時に周囲に七つの魔法陣を展開するとそれぞれの魔法陣から火竜が現れヴェルに向かって飛ぶ。
「く……」
ヴェルは放たれた火竜を後ろに跳び躱しながら魔鏃破弾で迎撃する。
ヴェルを襲う火竜からタモンが庇うように間に入る。ヴェルを火竜から守ったタモンは一気に燃え上がった。ヴェルはタモンの後ろに回り込み姿を見せた瞬間に右手から魔槍穿を放った。凄まじい速度で形成された魔槍がエーベントの防御陣を貫いた。
「なんだと!?」
ヴェルの魔槍の貫通力にエーベントから驚きの声が上がった。魔槍はエーベントの右肩を貫いた。ヴェルの術では自分の防御陣を貫けないと思っていたエーベントは回避が遅れてしまったのだ。
(ここから一気に!!)
タモンがボロボロと崩れ去るのを横目に、ヴェルは懐から符を取り出すとモコモコとした黒い靄を発生させた。発生した黒い靄は人型へと形を変えるとエーベントへ向かって襲いかかった。




