エリスとの出会い①
アディル達はヴァトラス王国の王都「ヴァドス」にいる。アディル達はこれからどうするかを話し合った結果、王都でハンターとしてしばらく行動しようと言う事になった。
この世界には魔物、野獣と呼ばれる存在がおり人々の生活を脅かしている。人は魔物や野獣に比べ身体能力が大きく劣っている。弱肉強食の摂理から考えれば魔物や野獣が人間を襲わないはずはない。本来であればそのような脅威から人々を守るのは国の仕事なのだが、国の対応能力には当然ながら限りがあり、事実上守る事は出来ていなかった。
そこで、ハンターと呼ばれる者達が国に代わって魔物、野獣を駆除したり治安維持を行ったりしている。
猟師と自警団を兼ねているような存在だがこれはハンターの仕事の一端に過ぎない。他にも隊商の護衛、要人警護を兼ねることもあるのだ。
ちなみに猟師、自警団の団員などとハンターの違いは“ハンターギルド”と呼ばれる互助組織に登録しているか否かという事になる。
“ハンターギルド”に登録すれば報酬の5%をギルドに納めなければならない。だが、配布される登録証には様々な特権が付与されている。
代表的なものでいえば国境を越える際の手続きが簡略化されることである。これはギルドがハンターの身分を保証している事を意味している。その恩恵に比べれば報酬の5%を納めるのは安いものである。
当然、甘い蜜だけ吸おうという輩が登録だけ行おうとするのだが、そのような輩はギルドの定期的な審査で登録証を取り消される事になっている。
ハンターは階級が設けられており、ギルドは階級に応じた仕事を斡旋することになっている。これは実力に見合った仕事を斡旋することでハンターが死傷することを出来るだけ避けようという考えから来るものであった。
ちなみにハンターの階級は下から、スチール、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、ガヴォルムである。上位のハンターともなればたとえ貴族であっても一方的に見下す事は出来ない。
「ここか……さすがにでかいな」
「うん。さすがヴァトラス王国のハンターギルド本部ね。地方の支部とは一回りも違うわね」
アディル達の前にはハンターギルドの本部の建物があった。三階建ての煉瓦造りの建物であり、その大きさは明らかに他の建物を圧倒している。建てられている場所も大通りに面しておりハンターギルドの王国での重要度がわかるというものである。
ギルド本部の周囲には宿泊施設、食料品、薬屋、鍛冶屋、酒場などが軒を連ねている。ハンターというのは、武力集団という側面だけでなく、消費者という面でも王都には無くてはならない存在のようである。
「うわぁ~おいしそう♪」
「駄目ですよ。お嬢様、まずは登録が先です」
ヴェルが屋台から漂う牛串の香りに気づくと目をキラキラさせて感想を発した。それを止めたのは侍女兼護衛の魔術師であるアンジェリナである。
「もう、アンジェリナ。私の事はヴェルと呼ぶように言ったじゃない」
「あ、そうでした」
ヴェルの言葉にアンジェリナは「そうだった」という表情を浮かべる。王都までの途中にヴェルがレムリス家の令嬢であることを知られないように呼び方をヴェルで統一するという事になったのである。
もちろん、見る者が見ればヴェルの立ち居振る舞いは洗練されているために、やんごとない身分である事は容易に見破られるのだが、それでもやらないよりはマシだというものである。
「それから敬語も禁止という話じゃない」
「わかりました」
「ち~が~う」
「わかったわよ」
「よろしい」
アンジェリナが言葉遣いを友人のものにするとヴェルはニッコリと微笑みながら言う。その笑顔の美しさは見とれるなと言うのが不可能と言うぐらいに輝いたものであった。
ヴェルとすれば新鮮な気持ちであり、距離がぐっと縮まった印象であり心地良いものであったのだ。
「それじゃあいくわよ!! グェ!!」
ヴェルはそう言って先頭を歩こうとしたがすっと手が伸びてヴェルの襟首を掴むとヴェルは首が絞まり、カエルが潰されたかのような声を出した。とても美少女の出す声ではない。
「ちょっと何すんのよ!!」
「何すんのじゃねえよ。お前何処に向かって行こうとしてるんだよ。ギルド本部の入り口はこっちだぞ」
「う……」
「お前って意外と食い意地張ってるよな。アンジェリナは登録が先といったろうが」
ヴェルの襟首を掴んだのはアディルである。ヴェルが屋台の方に迷わず向かおうとしたのをアディルが止めたのだ。
「ほら行くぞ。後で屋台にはいくから」
「う~~登録は逃げないわよ!!」
「うっせ!! おいアンジェリナそっちを持て」
「うん」
アディルが右腕を絡め、もう片方をアンジェリナが腕を絡めるとヴェルを引き摺ってギルドへと進んでいく。
ヴェルのような美少女が引き摺られる様は中々シュールなモノがあるが、それを構っている事はアディル達はしなかった。
「は~な~せ~」
「はいはい。いくぞ残念少女」
「何よ残念少女って!!」
「言葉通りだ。いくぞ」
「う~~」
ヴェルは不満を漏らしながらギルドへと引き摺られていく。それをシュレイは微笑ましく眺めていた。
(お嬢様は生き生きしているな)
シュレイはヴェルの行動を好ましいと思っていた。貴族令嬢として振る舞うときのヴェルは貴族令嬢としての仮面を被り生活をしていた。
貴族の生活というのは想像以上に気が抜けないものである。特にヴェルのようにレムリス侯爵家の後継者としての立ち居振る舞いを求められる立場の人間にとってして見れば仮面は分厚く、また重い。それを被りっぱなしでいると言うのは中々神経がすり減るという生活であった。
シュレイやアンジェリナなどのように極々近しい者でさえ滅多に見る事の出来ない自然体での行動をヴェルはアディルには躊躇うことなく見せているのである。
(アディルならお嬢様を任せる事が出来るな)
シュレイは心の中でそう呟く。
「シュレイ!! 何やってんだ!?」
シュレイを呼ぶアディルの声にはっと我に返るとシュレイはアディル達を追った。
「ほら、シュレイだって屋台が先で良いと思っていたのよね」
追いついたシュレイにヴェルが声をかける。ギルドの扉を開けたというのにヴェルは未練がましく言う。
「いや、違うぞ。ちょっと考え事してただけだ」
シュレイは苦笑を浮かべつつ言う。シュレイは忠義心篤い従者であるが、食い意地が張ったやつという評価を受けるのは御免被りたかったのである。ちなみに口調がだいぶ砕けているのは意識してのことである。
「いいから、行くぞ」
アディルはそう言うとヴェルを引き摺って中に入る。中に入った所でさすがにヴェルも諦めがついたのか大人しく受付の所に向かって歩き出した。
「絶対に終わったら行くからね」
ヴェルの言葉に一同はヴェルが屋台に行くと言う選択肢を放棄したわけでない事に苦笑を浮かべつつ受付へと向かうのであった。
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