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竜神探闘④

 アディルとエリスが駆け出し、ヴェルとアンジェリナの前に立つと同時にエリスが四枚の符を放る。すると四体の式神がヴェルとアンジェリナの周囲に展開する。


「二人を守りなさい!!」


 エリスの言葉を受けて四体の式神はヴェルとアンジェリナを庇いながら後退を始めた。


「どけ下郎!!」


 ヴェルとアンジェリナの後退を見てフォルデシルが大音量で叫ぶと竜を突進させてきた。


「やなこった」


 アディルはフォルデシルの命令を一言で拒絶すると長巻を構える。フォルデシルはアディルが構えを取った事で明らかに嘲りの表情を浮かべて竜を突進させてきた。部下達もそれに続いて突撃体勢をとる。


「かかれ!!」


 エリスの命令に駒達は一斉に剛竜(ヴァスダイム)へと襲いかかった。顔は完全に強張っており、明らかに剛竜(ヴァスダイム)に恐怖しているのが見て取れる。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!

「ひぃぃぃぃぃ!!」


 駒達が襲いかかるが剛竜(ヴァスダイム)達は容赦なく竜上から斧槍(ハルバート)を振るう。

 うなりをあげて振るわれた斧槍(ハルバート)が駒の男の頭部に直撃すると頭部が破裂し、よろよろと五秒程歩くとバタリと斃れた。仲間の命が奪われたというのに駒達に仲間の死を悼む素振りは見られない。理由はそれどころでは無いという非常にシンプルなものであった。


「ぎゃあああああああ!!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」


 駒達の雄叫びは数秒後には絶叫へと変わり、一気に地獄絵図へと変わった。死臭が充満しまともな精神状態ではこの場に留まることは不可能であると言って良いだろう。


 シュン!!


 その中にあってエリスは剛竜(ヴァスダイム)に果敢に襲いかかる。間合いの外からエリスは鉄鎖を投げつけると駒を薙ぎ払っていた剛竜(ヴァスダイム)の首に鉄鎖が巻き付き、目に見えぬ力に押されるかのように剛竜(ヴァスダイム)は落竜する。


「やれ!!」


 エリスの言葉を受けて駒達が落竜した剛竜(ヴァスダイム)に殺到し容赦なく剣を振り下ろした。


「がぁぁぁぁぁぁあぁっぁ!!」


 体を数カ所差し貫かれた剛竜(ヴァスダイム)が絶叫を放ち、信じられないという表情を浮かべつつ命を終える。

 実際にエリスに落竜させられた剛竜(ヴァスダイム)は、首に鉄鎖が巻き付いた瞬間に抗いきれない力を受けて引きずり落とされたのだ。それは今まで自分が体験した事のないものであった。

 エリスは鎖を通して自分の体から起こした衝撃波を鎖に伝えて引きずり落としたのだ。エリスの体術の基本的なものであり、最小の動きから発する衝撃波は魔力とは異なるものであり、剛竜(ヴァスダイム)の知らない技術であり抗う事は出来なかったのだ。


「次は……」


 エリスはさっと周囲の状況に目を配らせ、駒を薙ぎ払い意識が自分に向いていないものへ向かって再び鉄鎖を投げつける。

 先程同様に首に鉄鎖が巻き付いた剛竜(ヴァスダイム)はあっさりと落竜し、駒達が態勢を立て直す前にとどめを刺した。


「このクソガキが!!」


 フォルデシルがエリスに向かって突進し、斧槍(ハルバート)を振り下ろした。


 キィィィィン!!


「なんだと!?」


 フォルデシルの口から驚愕の声があがる。エリスは振り下ろされた斧槍(ハルバート)の一撃を手にしていた鉄鎖で受け止めていたのだ。

 強烈極まる斧槍(ハルバート)の一撃をエリスが鉄鎖で受け止める事が出来たのは、斧槍(ハルバート)を鉄鎖で受けた瞬間にエリスは鉄鎖を緩めて衝撃を殺したからである。もちろん魔力を鉄鎖に通して強化していたのも理由の一つである。


「寂しいだろ無視すんなよ」


 そこにアディルがフォルデシルとの間合いを詰め跳躍し長巻を振るった。


「く……」


 フォルデシルはアディルの長巻の一撃を左腕の手甲で受けた。キィィンという金属同士の打ち合う澄んだ音色が響く。アディルの長巻の斬撃はフォルデシルの手甲を斬り裂く事は出来なかったと誰しも思った事だろう。


「うぉ!!」


 だが、フォルデシルは大きく態勢を崩すとそのまま落竜する。


(な、なんだこの衝撃は!?)


 フォルデシルは今まで経験した事のない衝撃に落竜しながら驚いていた。受けたのは左腕のはずなのに右肩を引っ張られたかのような不可思議な一撃であったのだ。備えていたところとは別の場所に力を感じた事でフォルデシルは対処する事が出来なかったのだ。


「じゃあな!!」


 アディルはそのまま倒れ込んだフォルデシルへ長巻を振り下ろした。


「く!!」


 アディルの一撃をフォルデシルは転がって躱すと即座に立ち上がり、怒りを込めた目でアディル達を睨みつける。ここまでの攻防はアディルとエリスが完全にフォルデシルを上回っており、フォルデシルにとって屈辱の極みと言うべきものである。剛竜(ヴァスダイム)の隊長である自分が人間、しかも年端も行かぬ少年と少女に押されているなど認めるわけにはいかないのだ。


「アディル、こいつは私がやるわ。アディルは他の連中を始末して」

「わかった。頼むぞ」

「大丈夫よ。切り札があるからね♪」

「だな」


 アディルとエリスはそう言って笑いあうと、アディルは剛竜(ヴァスダイム)と駒達の戦いの中に跳び込んでいった。


「貴様如きがこの剛竜(ヴァスダイム)の隊長である、このフォルデシル=カベルムを勝てると思っているのか?」

「何言ってるのよ。あんた私がこの鉄鎖で斧槍(ハルバート)の一撃を受け止められたのを忘れたの?」

「あんなまぐれでいい気になるなよ」

「まぐれ程度に止められるあなたの技量って大したことないのね。頭も悪そうだし、利用しやすいけどあんたの出番は終わりよ」

「舐めるなクソガキが!!」


 フォルデシルが斧槍(ハルバート)を振り回しながら突っ込んでくる。


(ここだ!!)


 エリスは斧槍(ハルバート)の暴風域に恐れる事なく踏み込むと、フォルデシルの胸元に左手を静かに添えた。


「せい!!」


 エリスは次の瞬間に添えた左手の上に右掌を叩き込んだ。


 ドォォン!!


 鈍い音が発せられ、フォルデシルの体が宙に浮き、二メートルほどの距離を飛んで後方に着地する。


「がはっ!!」


 フォルデシルの口から血がこぼれ落ちたところを見るとエリスの一撃により内臓が傷付いたようである。


「おのれ……まだだ」


 フォルデシルが斧槍(ハルバート)を構えた。エリスはその様子を無表情で見ている。ここまでの流れは完全に狙ったものであった。フォルデシルは知らない、自分の意識が意図的にエリスに向けられていることを……。


「もう終わりじゃないの?」


 エリスのこの言葉にフォルデシルは瞬間的に激高した。すでに激高したと思っていたのだがさらにもう一段階上があった事にエリスは心の中で驚いた。そしてエリスがこの言葉を投げ掛けることによって詰みとなった事を確信した。


 フォルデシルは知らなかったのだ。自分を狙うもう一つの存在に……。


 フォルデシルの背後から自分を狙う白の刺客……。


 そうベアトリスの白の弓神(フィンファリス)の持つ長大な弓がフォルデシルの延髄に狙いを定め、放とうとしていたのだ。エリスに意識を集中するフォルデシルは当然その事に気づいていない。

 フォルデシルが一歩踏み出した瞬間に白の弓神(フィンファリス)の矢が放たれ、フォルデシルの延髄を貫いた。


「が……」


 フォルデシルが怒りから驚愕に表情を変化させフォルデシルは糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

 

「くそ……卑怯……者め……」


 フォルデシルの苦痛と悔しさに満ちた言葉がエリスの耳に届くとエリスは心の底からガッカリしたような表情を浮かべる。その表情をフォルデシルは失いつつ視力で確実に捉えていた。


「どこまでもガッカリさせる奴ね。これは試合? それとも殺し合い?」


 エリスの言葉は死の淵にあるフォルデシルの胸に突き刺さった。エリスはフォルデシルの返答など求めていない。この男と言葉を交わすにはエリスの価値観と大きな隔たりがあったことを感じたからだ。


「甘すぎるわね。剛竜(ヴァスダイム)のフォルデシルだっけ? 卑怯などという単語が命のやり取りの場で出ること自体があんたの甘さの表れよ。竜族という生まれにあぐらをかいて努力をやるべき事を怠った結果がこれよ」

「……」

「聞こえてないか」


 エリスはフォルデシルの目から光が失われていることに気づくと踵を返した。



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