竜神探闘①
竜神探闘当日にアディル達は転移魔術により、竜神探闘の決戦場へと送られた。
転移されたアディル達の目に映ったのは森林地帯にぐるりと囲まれた平原である。アディル達の前方に幅四十メートルほどの川が流れており、両陣営の緩衝地帯となっているようであった。
「川……か。どう使うかで勝敗に左右しそうだな」
「そうね。深さがどれくらいかわからないわね。式神で深さを測ってもらおうかしら」
「だな」
「迎え撃つべきかしら……それとも打って出るべきかしら」
「あっちはどうなってるかな」
「兄さん、一度見た方が良いと思います。さぁ行きましょう♪」
「ああ」
「待ちなさい二人とも単独行動は危険よ。影竜という暗殺部隊が襲ってこないとも限らないわ」
「そうですね」
「確かにお嬢様の言うとおりです」
アディル達は転移してすぐに周囲の地形に視線を移すと確認を始める。
「あの川が一つのポイントだな」
「深さはどれぐらいかな?」
「確かめておこう」
アディルが駒達に視線を移すと駒の一人が走り出し、慌てて川の中に入っていく。川の深さはどうやら人の膝ぐらいの深さのようである。膝までの深さであれば通常溺れることはないのだが、渡るときに速度が落ちるのは確実である。
「あの深さか……あそこを渡るには少々危険だな」
「ああ、狙い撃ちされるだろうな」
「どうやってこちらに誘い込むかだな」
「その辺は俺に考えがある」
「それじゃ、アディルに任せるか」
「あんまりハードル上げるなよ。ダメ元なんだからな」
シュレイの言葉にアディルは苦笑を浮かべつつ言う。アディルも実の所、確実な手段などもちあわせていないのだ。
アディルは懐から巻物を取り出すと巻物を地面に広げた。開かれた巻物には幾何学的な文様が描かれている。幾何学的な文様の真ん中にアディルが手をやった瞬間にボフンと家煙が巻き起こった。
その煙が晴れた時にアディルの手元には一本の武器があった。刃部分はアディルの持っている天尽と同じ形であるが柄が通常の刀よりも遥かに長くアディルの腹部ほどの高さほどまである。
これは長巻と呼ばれる武器でキノエ流では必須の武器である。間合いは斧槍よりは短く、剣よりは長い。
「さてと……」
エリスはアディルが長巻を取り出したところで空間に手を突っ込むと一本の剣を取り出した。エリスが取り出した剣はアディルの持つ天尽の六割ほどの長さだ。
「へぇ~エリスが小太刀を使うのは初めて見るな」
「うん。今回は厳しい戦いになりそうだからね。アディルも長巻を使うと言うことは厳しい戦いになると思ってるんでしょ?」
「まぁな。アリスの仇討ちだ。負けるわけにはいかんだろ」
「同感♪」
アディルとエリスはそう言って互いに笑った。
「ん? 来たみたいだな」
アディルが対岸を見ると対岸にイルジード達が姿を見せた。
(数は十…二十……三十……百か)
アディルは現れた敵の数を確認すると百いるのは間違いない。アディル達は全部で七十三人であり数の面では不利であるし、質の面では比べものにならないだろう。闇の竜騎兵と駒達では雲泥の差である。
「レナンジェス……」
アリスがポツリと呟いた言葉を聞いたエスティルが不思議そうな視線を向けた。
「アリス、あの人を知ってるの?」
「うん。レナンジェスはイルジードの息子……私の従兄よ」
「アリスの仇の一人なの?」
エスティルの問いかけにアリスは静かに顔を横に振る。
「レナンジェスはお父様の殺害にはまったく関係してないわ……エルナもいる」
「アリスの従兄の隣にいる女の子の事?」
「うん。レナンジェスの侍女よ」
「う~ん、どうもそれ以上の関係みたいよね」
エスティルはレナンジェスとエルナの二人を見てからの互いを大事にしているような雰囲気を察し、アリスに尋ねた。
「うん。あの二人は想い合ってるのよ。ただ身分があると言うことで言い出せないのよ」
「それは可哀想ね」
「確かにそうね。このままじゃ絶対にあの二人は結ばれないわね」
(このままじゃ……か。アリスはどうするつもりかしら?)
アリスの言葉に二人を心配する感情が含まれている事を感じたエスティルはアリスがどのような行動をとるか気になった。
「なぁアリス、あの子は?」
シュレイが指を差してアリスに尋ねる。後ろの方から一人の少女が現れた。武装しており身長ほどの大剣を背負っている。少女の可憐な容姿に似合わない事この上ないゴツすぎる武器である。
「ルーティア……まで……」
アリスの呆然とした声が周囲に響く。それはレナンジェスよりも大きな驚きを受けている事を現していた。
(そう……決着をつけにきたというわけね)
アリスはレナンジェス、ルーティアが竜神探闘の場に出てきた意味を結論づけていた。




