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竜神探闘:準備期間⑧

「アディル、ちょっと良い?」


 夜の帷がおりた頃にアディルの部屋をエリスが訪れた。もし、エリスの格好が夜着であればそれは甘い夜を連想させるのであるが、あいにくとエリスの格好はスパッツに革鎧というもので色気とは程遠いものであるために、そのような雰囲気にはならないのは確実であった。


「どうした?」

「レジ―ルに残してきた竜眼(ドルグシア)が全滅したわ」

「そうか。回収(・・)は出来たのか?」

「うん。どうやら竜眼(ドルグシア)を潰したのは、影竜(ズールダイム)という暗殺専門の部隊みたい」

「その言い方だと闇の竜騎兵(イベルドラグール)の一部隊と言うことか?」

「そうみたいね。隊長はシーファス、副隊長はアルゼスト」

「実力の程は?」

「中々の実力ね。でも暗殺専門というには少しばかり隠密性に欠けてるように思えるわ」


 エリスはまるで見てたかのようにアディルに話す。それをアディルはさも当然というように受け入れていた。

 駒達を縛っている呪血命(まじないのちのみこと)は、対象者が死んだ時にどのような状況であったかを断片的であるが見る事が出来るのである。


「エルメックは最後に中々良い情報をくれたわ。ついでに大いに誤解もしてくれた」

「誤解?」

「うん。エルメックが死ぬまで情報を漏らさなかったのはアリスへの忠誠心故とあいつ等の中ではなってるわ」

「ほう……つまり俺達の術はバレてないというわけだな」

「そういう事。アリスの実力が高いのはもちろんだけど、だからこそ私達の特異な術の存在まで考えが回らないわ」

「僥倖というやつだな」

「ええ、この状況を上手く使えば有利に事が進むかも知れないわよ」

「だな」

「みんなに伝えておくとしましょう」

「おう」


 アディルとエリスは言い終わると同時に立ち上がり、仲間達の元へと向かう。それぞれすでに部屋で休んでいる状況であるが、共通理解は早めにしておくべきなのだ。


 アディルとエリスは仲間達を集めるとサロンでエルメック達の最後と影竜(ズールダイム)達にアディルとエリスの術がバレていないという状況を説明した。


「なるほど……使えるわね」


 ヴェルがアディルの説明を聞き終えると同時に言う。ヴェルの言葉に全員が同意とばかりに頷いた。戦いの基本は相手にいかに誤った情報を与える事が出来るかである以上、エルメックの死は相手に誤った情報を与えることが出来たのである。


「だろ? この状況を利用しない手はない。相手が誤解してくれているならそれに従って良い状況を作ろうじゃ無いか」

「わざわざ誤解を解いてやる義理はないわね」

「そういう事だな」


 ベアトリスの言葉にアディルはニヤリと嗤いながらいうと全員が黒い笑顔を浮かべるのであった。



 *  *  *


「そうか……アリスティアめ……」


 イルジードの口から忌ま忌ましさが音声化して発せられた。イルジードの目の前には、シーファスと他に三人の男がいる。

 一人は闇の竜騎兵(イベルドラグール)剛竜(ヴァスダイム)の隊長であるフォルデシル。フォルデシルは三十代半ばと言うところの容姿をした大男であり、波打つ銀髪を後ろで無造作にまとめている。筋肉はもりあがっておりいかにもパワーファイターという感じである。

 二人目は魔竜(フルドダイム)隊長のエーベント。魔竜(フルドダイム)は魔術専門部隊であり隊員達は全員が一流の魔術師である。隊長のエーベントは長い銀色の髪をピッチリとオールバックになでつけ後ろで結んでいる。やや神経質そうな印象を受けるのは切れ長の目が怜悧な印象を与える故かもしれない。

 そして三人目は、闇の竜騎兵(イベルドラグール)の団長であるウルグ=マボルムであった。ウルグの均整のとれた体格は戦場を住処とするものの彼の思想を体現していると言って良いだろう。ウルグは戦場で活躍するには突出した能力よりも、むしろバランスのとれた能力が必要と考えているのだ。ただし、ウルグの各能力は高次元でまとまっており、戦闘において比肩するものは竜神帝国でもほとんどいないほどである。


「イルジード様、アリスティアを侮るべきではないかと」

「シーファスの言はもっともだが、アリスティアが連れてきた中に竜族はいない」


 シーファスの諫言にイルジードは余裕の表情を浮かべながら言う。竜族以外の者を一段も二段も下に見ているかのような印象を受ける。


「だが鉄竜(アスダイム)は敗れたました」

鉄竜(アスダイム)はな」


 イルジードはそう言うとニヤリと嗤う。自信と過信が同居しているかのような笑顔にシーファスは心の中でため息をつく。


(この方は能力の高さ故に他者を見下す傾向にある)


 シーファスはイルジードの姿勢に一抹の不安を感じる。他の団長、隊長はイルジードと同意見のように感じる。それがシーファスにとってとても危険のように感じる。


「シーファスは相変わらず慎重だな。だが、竜族以外の者などに頼るアリスティアなど竜族の恥さらしよ」

「フォルデシルの言う通りだな。人間、魔族などに頼ろうとするアリスティアは竜族の誇りを忘れた愚か者よ」

「魔族や人間のような三下をいくら集めたところで我らを破る事は出来ぬ」


 そこにシーファスの同僚達はイルジードに追従するかのような言葉を言う。いや、追従とは少しばかり違うかも知れない。竜族は種族的に強者の立場であり、それ故に他種族を見下す所があるのだ。

 それは鉄竜(アスダイム)が敗れたという事実を過小評価する事に繋がっている。竜族至上主義と言える彼らにとって鉄竜(アスダイム)が敗れたのはアリスが居たからに他ならないと結論づけていたのだ。例え生き残りの言からアディルが隊長であるエイクリッドを斬ったというのも何かの間違いとして片付けられていたのである。


「それよりもレナンジェス様もルーティア様も竜神探闘(ザーズヴォル)へ参加を表明したと聞き及びました。頼もしいですな」

「まったくです。レグノール選帝公家も安泰ですな」

「ふ、あの二人もアリスティアに何やら思うところがあったのであろうよ」


 イルジードがさほど拘ることなく言うとシーファスはゴクリの喉をならした。


(まさか……レナンジェス様とルーティア様が……参戦? 内通しているのではないか?)


 シーファスは、アリスとレナンジェス達が互いに信頼している事を知っていた。それにレナンジェス達は実父であるイルジードよりも、伯父であるエランの方に親愛の情を感じているようでもあったのだ。


(厳しい戦いになりそうだ)


 シーファスは一人暗澹たる気分に陥っていた。

 次話から竜神探闘となります。

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