竜神探闘:準備期間⑥
「そ、その声は……」
エルメックは声の主を恐る恐る見ながら呟く。自分を捕らえた時にいた妙に陽気な声そのものであったのだ。
声の主は二十代前半の男で、銀色の髪、側頭部に竜族であることを示す角、白皙の美貌の青年であった。
「お~おっさん、目が覚めたか。隊長の一撃をくらってすぐに伸びたがそのまま死ぬんじゃないかって心配してたぞ」
青年はエルメックにニッコリと笑いかけながら声をかける。
「あ、あなたは?」
エルメックはようやくそれだけを絞り出した。本来であれば部下達の手前虚勢を保つのであるが、なぜだかこの青年にはそのような態度を取ることは危険であると本能が告げていたのだ。
「俺? ああ名乗ってなかったな。俺はアルゼスト、影竜の副隊長だよ」
「影竜?」
「闇の竜騎兵の中でも暗殺専門の部隊だよ」
「暗殺……」
アルゼストと名乗った青年の言葉にエルメック達はゴクリと喉をならした。暗殺専門という不穏な単語もであるが、何より自分達が闇ギルドとして多くの暗殺者に触れてきたという事がその危険性を察知したのだ。少なくともアルゼストには命を奪うという行為に対して忌避感を持っているようには見えない。子どもが楽しみながら虫の足をもいでいくように命を奪う印象を受けた。
「ま、尋問も俺達影竜の仕事だ。そういうわけで出た出た」
アルゼストはエルメック達をそう言って急かすと牢の扉を開けた。エルメック達は戸惑ったように顔を見合わせるとアルゼストはニコニコと笑いながら言う。
「心配しないでも大丈夫だって♪」
アルゼストの言葉にエルメック達はぞろぞろと牢を出て行く。
「そうそう、ついてきな」
アルゼストはそれだけ言うとクルリと身を翻して進み出すとエルメック達はその後ろを付いていく。
エルメック達が通された部屋は広さ的には相当なものだ。四十人の人間が一度に運動できるほどの広さだ。壁に武器が掲げられていることから訓練施設なのかも知れない。
エルメック達はその部屋に入った瞬間に顔を顰めた。その理由は部屋の中に入ってすぐに感じた死臭のためだ。
(ここは……拷問部屋だ)
エルメックがその事に気づいた時、背筋を恐怖の電流が走り抜ける。それは興奮とは違い妙に心と体を重くするものであり、体が自然に震え始める。
カチャ……
エルメック達が扉の方を向くと数人の男が入ってきた。そのうちの一人はエルメックを捕らえた男であることをエルメックは即座に理解した。
「お~流石隊長っすね。ナイスタイミングっすよ」
「は~お前はいつもの事ながら俺への敬意が足りんな」
「何言ってるんすか。俺は隊長のことマジで尊敬してるっすよ」
エルメック達の前でアルゼストと隊長と呼ばれる男が妙に軽いやり取りを展開している。それを見てエルメック達のうち何人かは緩んだ雰囲気を出していた。
(バカが……こいつらの恐ろしさがわからんのか)
エルメックは心の中で気を緩めている部下達を怒鳴りつけたくなる。見せかけの態度などで相手を侮った結果、アマテラスの面々に痛い目に遭わされたというのにその反省が、全く活かされていないのだ。ただ、アマテラスの襲撃はどう考えても天災レベルの災難なので、“人智の及ばない”という判断が下されていても不思議ではない。
「隊長、副隊長……話を進めましょうよ……はぁ」
そこに冷静な言葉が投げ掛けられた。青白い顔をした男が隊長とアルゼストに言うと二人はバツの悪い顔を浮かべた。
「すまんな」
「ビオルさん、すいません」
二人は素直に謝るとビオルと呼ばれた青白い男は頷いた。どうやら事なきを得たようであるがその目には“次ふざけたらわかってるよな?”という意思表示が感じられた。何となくこの三人の関係性が見えるようである。
「すまなかったな。俺は影竜の隊長であるシーファス=レグジムだ」
名乗ったシーファスはエルメック達を見やる。何気なく視線を受けただけであるが、エルメックは冷たい汗が一気に噴き出してきた。視線に毒が籠もっているようでエルメックは毒を流し込まれたような印象を受けたのである。
「さて、君達は我が闇の竜騎兵の事をこれでもかとこき下ろしてくれたね。まぁそれは良いのだが、アリスティアが何を企んでいたかが俺達はしりたいわけだ」
「……」
シーファスの言葉にエルメック達は沈黙する。正確には沈黙せざるを得ないのである。なぜならばエルメック達が知っているのは自分達が駒として仇討ちに参加させられると言う事ぐらいである。アディル達はどのように戦うのかなどの事を一切教えないのだ。
「簡単に教えてもらえるなんて思ってないから安心してくれ」
シーファスがそう言うと一気に室内の雰囲気がどす黒いものになる。いやより正確に言えば本来の雰囲気が顔を見せたという方が正しいだろう。
ゴシャ!!
何かが潰れる音が発せられエルメック達の視線がそちらに向くと頭部を潰された男が倒れ込んだ姿が目に入る。頭部が潰され即死したはずなのにピクピクと痙攣している姿は現実感が完全に欠如している光景であった。
「おいおい。きちんと叫び声を上げさせろ」
「申し訳ありません」
シーファスが窘めると男は血に塗れた戦槌を掲げると隣にいた男の腰に叩きつけた。
「が……ぐ」
腰を打たれた男はその場で崩れ落ち苦痛に呻く。あまりにも強烈な痛みのためにうめき声しか上げられないのである。
「上手くなったな。吹き飛ばさないでその場に崩れ落ちさせるとはな」
「ありがとうございます」
男は一礼すると戦槌を容赦なく振り下ろした。振り下ろした戦槌はそのまま蹲る男の背中に入り男はビクビクと痙攣を始めていた。どうやら戦槌は男の肺を潰したようである。
「さ、取りあえずはこれで良いか。話す気になったか?」
シーファスの言葉にエルメック達はガタガタと震え始めた。




