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キノエ流

 少々説明がくどいかも知れませんが避けては通れませんのでよろしくおつきあいください。

「何者って俺が化け物にでも見えるのか?」


 アディルの返答にヴェルはため息をつきつつ言う。


「そういうのはいいわ。私はアディルが使ったあの間抜けな死霊術士の術を打ち消した術が何なのかを聞いてるのよ」

「冗談の通じないやつだな。そんなんじゃ……すみません」


 アディルがヴェルにお決まりの「老後寂しいぜ」と言おうとしたのだがヴェルが指先をアディルに向けたのでその言葉を呑み込んだのだ。


「よろしい。それで話せないことなの?」


 ヴェルはアディルに向けていた指先を戻して言う。ヴェルとすれば聞きたいというのは単なる好奇心であり、無理に聞き出すつもりはなかったのだ。


「いや、別に話せないことじゃない。まず俺の家には代々伝わる武術があるんだ」

「武術?」

「ああ、流派は「キノエ流」というんだ。俺はそこの五代目だ」

「アディルって良いところのご子息なの?」

「いや、俺は平民だ。家だって普通の家だし、親父殿、お袋様も平民。違ったところと言えばうちにはキノエ流という家に伝わる武術があるという事ぐらいだな」

「ということはアディルの技はお父様から?」

「ああ、剣術、格闘術、組打術、槍術、薙刀術、鉄鎖術、退魔術など一通り仕込まれた」

「なんか聞き慣れないのが混ざってるんだけど」


 アディルの言った技術の中にヴェルは聞き慣れないものがいくつかあり首を傾げた。シュレイもアンジェリナも同様で“聞いたことないな”という表情が浮かんでいる。


「ま、その辺はおいおいな。とりあえずはあの間抜けの魔術を破った方法を教えとくよ」

「う、うん」


 アディルの言葉にヴェル達は素直に頷く。


「まず、うちの流派は「五行思想(ごぎょうしそう)」が基本になっている」

「ゴギョウシソウ?」

「この世の中は五つの気が存在するという考えだ。(きん)(もく)()(すい)()の五つだ。この五つの気は互いに影響し合っているわけだ。相性の良いものならば一方的に破る事が出来る。金属の斧は木を切り倒し、木の根は土を抉り、土は水を堰きとめ、水は火を消し。火は金属を溶かすというようにグルグルと強さと弱さが入れ変わるわけだ」

「……はぁ」


 アディルの説明を聞いてヴェル達は理解が追いつかないのだろう。いまいち良くわかってないような反応だ。一度で聞いて理解できる事は稀なのでアディルとすれば特に落胆するようなことではない。


「簡単に言えば五つの気には相性があるって話だ。雷は木気(もくき)に分類される。だから金気(きんき)をつかって木気の雷を破ったんだ」

「じゃあ、アディルは魔術を相性で破る事ができるというわけ?」


 アディルの説明にアンジェリナがそう返した。魔術師のアンジェリナにしてみればアディルの能力は反則以外の何ものでもないだろう。


「理論上はそうなる。だが強力すぎる魔術なら破る事は出来ないかも知れないな」

「ちなみに敗れなかった相手はいるの?」

「いや、魔術師とは何回か戦った事はあるけど魔術を破れなかったことはないな」

「そう……」

「破るのに苦労したのはルジオルクというおっさんの魔術だな」

「ルジオルク……?」

「ああ、何か威張り散らしてたおっさんだったけどな」


 アディルが何でもないというようにアンジェリナに告げるが、アンジェリナは考え込んでいたが一人の可能性に思い至ったのだろう。アディルに尋ねる。


「ねぇアディル……そのルジオルクって魔術師なんだけど四十代ぐらいで半白の髪に三白眼じゃなかった?」

「お、知ってるのか?」

「うん……魔術師の中では有名よ。「狂乱」の二つ名で逆らう者は容赦なく殺すという変態野郎よ」

「あ~言われてみれば「狂乱」とか言ってた気がするな」

「殺したの?」

「いや、親父殿の殺さないように制しろというお題だったから殺してないぞ」


 アディルはあっさりと言う。


「じゃあ生きてるの? 執念深いという話だからいつか復讐にくるんじゃない?」

「いや~来ないんじゃないかな」

「どうしてそう言いきれるの?」

「あの、おっさん。逃がすときにちょっと脅したら腰抜かしてたから完全に俺にビビってたからな」


 アディルはその時の光景を思い出しているような表情を浮かべて返答する。アディルの表情からはまったく恐怖も警戒感も感じている様子はない。

 ヴェル達はそれだけでルジオルクという魔術師に同情したほどである。


「とりあえず、魔術についてはわかった。死の騎士(デスナイト)を斬り裂いたのもそのゴギョウによるものか?」


 次にシュレイが尋ねてきた。


「いや、ちょっと違うな。死霊術のような術はキノエ流では陰陽(いんよう)で表現する」

「インヨウ?」

「ああ、親父様の話だと陰陽(おんみょう)と呼ぶ流派もあるという話だけど、うちは陰陽(いんよう)だ」

「はぁ……」

(いん)は闇のような気と考えてくれ。反対に(よう)は光のような気だ」

「ひょっとして、死の騎士(デスナイト)を構成する瘴気はインの気でアディルはヨウの気を使って相殺したというわけか?」

「お、察しが良いな。その通りだ」


 アディルはシュレイの察しの良さに感心したように返答する。


「今までのお前の話から考えれば普通に行きつくだろ」

「それでも頭が固いやつはそれを認められないさ」

「褒め言葉と受け取っておくよ」


 シュレイは苦笑を浮かべつつ、そう返答する。アディルは三人を見渡すとニカッと笑う。


「取りあえずは聞きたい事は終わったみたいだな」

「そうね。まだよくわかんないけどアディルが敵でなくて良かったわ」

「高く評価してくれて嬉しいよ」


 ヴェルの評価にアディルはそう応える。謙譲は美徳ではあるが、ここは素直に受け取るべきだとアディルは思ったのである。


「さて、それじゃあ。ここを離れようか」

「そうね。疑問点が多過ぎたから、つい話し込んじゃったけど考えてみればいつ追っ手が来るかわからないわね」

「まぁ、しょうがないさ。常に完璧な選択ができるわけじゃないし、他に気が取られればやるべき事が抜ける事があるさ」

「随分優しいじゃない」

「誰だって老後寂しいやつに人の優しさ……うぉ!!」


 アディルの軽口の途中でヴェルが指先から魔力の鏃を放ったのだ。ヴェルの放った鏃はアディルの頬を掠めたのだ。ちなみに頬を掠めたのはアディルが咄嗟に躱したからである。


「おまっ、危ねーだろ!!」

「蚊がいたのよ。さされたら可哀想だと思ったの。ありがとうという御礼の言葉が聞きたいわね」

「言うわけないだろ!!」


 アディルとヴェルのやりとりにシュレイとアンジェリナは小さくため息をついた。


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