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「確かに経営状況は悪いです。だからと言ってそんなお金目当てで早瀬さんに近付くだなんて、ありえません。あれは不慮の事故です。早瀬設計事務所が元請けだということも知っています。だからって、それと早瀬さんは別です。これからだって一人でパン屋を頑張ります。誰にも頼りません。」


琴葉は負けないようにと拳を握り、一気に反論する。

だが杏奈は更にたたみかけるように言った。


「だったら、雄大と別れて。雄大はこれからもっと世界に出ていく人間なのよ。それに早瀬設計事務所を継ぐ大事な人。彼があなたに近付いたのはあの事故が申し訳ないと思ったから。あなたが可哀想だと思ったからよ。それ以外の何物でもないわ。彼の優しさを勘違いしないことね。わかったらもう彼に近付かないで。」


ものすごい剣幕で言われ、琴葉は唇を咬んだ。

黙りこくった琴葉をひと睨みすると、杏奈は踵を返す。


しばらく茫然としていた琴葉だったが、はぁと肩で息をすると頭を抱えた。


杏奈に指摘された通り、minamiの経営は悪く行き詰まっている。

その事実は、他人から見たら金目当てと思われても仕方がなのかもしれない。

それくらい、琴葉と雄大は身分が違うのだ。


高級そうなスーツを身に纏う雄大。

粉まみれの琴葉。

どう考えても不釣り合いだ。

そんなこと、最初からわかっていたはずだった。


それなのに、雄大が来てくれること、雄大と笑い合うこと、そんな日々が穏やかで楽しくて、いつしかそれが当たり前のことだと思うようになっていた。


「バカだな私。」


勝手に勘違いして浮かれていたのではと、琴葉はまた、大きなため息をついた。


「大丈夫、今までだってできていたんだから。これからもできるよ。簡単なことじゃない。」


一人に戻ること。

それはきっと簡単なことだろう。

雄大はただの客だ。

そう、それだけのこと。


琴葉は一人空を仰いだ。


───琴葉、俺の言うことだけを信じて。


頭の片隅でぼんやりと、雄大に言われたあの言葉が過ったが、それはすぐに消え去っていった。

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