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リビングの隣は和室で仏間だった。

琴葉は雄大を、赤茶色で木目の美しい落ち着いた様式の仏壇の前に通す。


「実は両親はもう亡くなってるんです。」


琴葉は仏壇の障子を開けて灯籠に明かりを灯した。雄大は無言で仏壇の前に座ると、リンを鳴らして静かに手を合わす。

それを琴葉は後ろで密やかに見ていた。

合掌が終わり立ち上がって琴葉を見ると、


「…ごめん、知らなくて。」


と雄大は慌てて頭を下げる。

琴葉はフルフルと首を振った。


「こちらこそ気を遣わせてすみません。お参りしてくださってありがとうございます。」


両親のことを口にする機会はあまりなかったし、自分から言うことも滅多になかった。

それは言いたくないという思いと、思い出したくないという思い、でも忘れたくはないという思いが入り交じった複雑な気持ちだった。


「一人で寂しくないか?」


琴葉には大きすぎる一軒家に立派なお店。それを琴葉は毎日一人で切り盛りしている。

母屋に入ったときに感じた静けさはそういうことだったのかと、今更ながら雄大は納得した。


「そうですね、毎日お店にはお客様が来てくださいますし両親の想いがいっぱいつまったパン屋で働いているので寂しさは感じないです。でも言われてみれば、仕事が終わって家に帰るとやっぱり寂しいかもしれないです。」


両親が亡くなってから毎日がむしゃらに働いてきた琴葉だったが、今となればそれは寂しさや悲しさを感じさせないための一種の処世術だったのかもしれない。


「琴葉はずっと一人で頑張ってきたんだね。俺が琴葉の寂しさを埋めることはできないかな。琴葉の力になりたい。」


雄大の言葉は琴葉の心に簡単に入ってきて、ずっと頑なに閉ざしてきた気持ちをスルスルと解いていく。

気づくと視界がぼやけて、慌てて手の甲で拭った。


「ひどいです早瀬さん。早瀬さんが優しすぎて私甘えてしまって、どんどん弱くなる。こんなに泣き虫じゃないのになぁ。」


溢れ出てくる涙をしばらく止めることができなくて、琴葉は俯いた。

そんな琴葉の頭の上から、雄大の優しい言葉が包み込む。


「ごめん、責任取って側にいるよ。いいよね?」


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