世界にたった一台だけの車
とある世界のあるところに、色のない車がいました
ミニーというのが、色のない車の名前です
ミニーには友達のランという車がいます
ランは綺麗な赤色のボディをしています
「いいなあ、ボクも綺麗な赤色になりたいなあ」
ミニーはランの綺麗な赤色のボディがとても羨ましかったのです
「どうすれば綺麗な赤色のボディになれるんだろう?」
ミニーの目の前には、たくさんの人間がいます
そこでミニーは考えました
「そうだ、人を轢き殺したら返り血で赤色になれるんじゃないかな」
ミニーは前を歩いている人間を一人、轢き殺しました
するとどうでしょう、ミニーのボディはちょっぴり赤色に染まりました
「やった、色が変わったぞ! もっともっと人を轢き殺してランのような綺麗な赤色のボディになろう」
こうしてミニーは次から次へと人間を轢き殺し、ボディ全体を赤色に染めました
「あれ?確かに赤くはなったけど、ランみたいに綺麗な赤色じゃないぞ」
ミニーのボディは綺麗な赤色にはならず、ドス黒い赤色になってしまったのです
「どうしてこんな汚い色になっちゃったんだろう」
ミニーはランに相談をしました
「人を轢き殺すなんて悪いことをしたら、汚い色になっちゃうよ。綺麗な色になるためには、たくさんある車の中で自分に乗ってくれる人をこよなく愛することさ」
それを聞いたミニーは途方に暮れました
もともとミニーは色がなく魅力がなかったので、ミニーに乗ってくれる人間は一人もいず、人間を愛することが出来なかったのです
「ああ、結局ボクは綺麗な赤色にはなれないのかあ」
そんなときです、ミニーに乗りたいと言い出した人間が次から次へと現れたのです
ミニーは驚きました
「どうしてボクみたいな汚い色をした車がいいの?」
ミニーは人間に聞きました
「君みたいなドス黒い赤色の車なんて世界にたった一台しかなく、とても珍しいから乗ってみたくなったのさ」
人間達はミニーのことをとても愛しました
ミニーは自分が世界にたった一台の珍しい車だということを嬉しく思いました
しかしミニーの友達のランは、ミニーがたくさんの人間に乗られてるのを見てとても羨ましく思ったのです
「そうだ、俺も人間を轢き殺しまくってミニーのようなドス黒い赤色のボディになろう」
ランは次から次へと人間を轢き殺しまくりドス黒い赤色へとなったのです
ランの色が変わっていくのを見て、ミニーは思いました
ドス黒い赤色のボディの車はボクだけがよかったのに、と
でもミニーはランに対して、やめてくれとは言いませんでした
ランはミニーの大事な友達だったからです
しかし、ミニーのドス黒い赤色のボディを羨ましく思ったのはランだけではなかったのです
世界中の車達がミニーのドス黒い赤色のボディをとても羨ましく思い、人間を轢き殺しまくったのです
青色の車も、黄色い車も、緑色の車も、茶色い車も、白い車も、ミニーと同じドス黒い赤色のボディとなったのです
ミニーは世界中の車が自分と同じドス黒い赤色のボディになっていくことにとても焦りました
「これじゃあボクが珍しい車でもなんでもなくなってしまう、そんなのは嫌だ」
そこでミニーはとんでもないことを思いつきました
「そうだ、世界中の車を皆轢き潰しちゃえばいいんだ。そしたらボクはまた世界にたった一台の珍しい車になれる」
ミニーは世界中の車を次から次へと轢き潰しました
友達のランさえも轢き潰してしまったのです
「やった! これでまたボクは世界にたった一台の珍しい車になれたんだ!」
ミニー以外の車は、もうこの世界のどこにもないのです
ミニーはまた、たくさんの人間に愛されることを待っていましたが
「あれ? どうして人間はボクに乗りにこないんだろう? そもそも人間はどこいるんだろう?」
ミニーは人間を探しましたが一向に見つかる気配がありません
そしてミニーはとても悲しい事実に気が付き始めたのです
「もしかして人間は、車達に皆轢き殺されて誰一人いなくなっちゃったの? ボクはこの世界にただ一台取り残されてしまったの?」
車も人間も全部、ミニーだけを除いてもうこの世界のどこにもいないのです
ミニーは世界にたった一台の珍しい車から、世界にたった一台だけの車となったのです