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恋愛短編集

別に恋じゃなくていいのに

作者: みやじい

おひさしぶりです


 去年の夏頃、恋をした



 高校に入って初めてできた異性の友達。きっかけはその娘のイヤホンから漏れてた曲。



 一番好きな曲で、しかもマイナーで話せる相手がいなかったから、膨大な砂の中から砂金を見つけたように嬉しかった。



 その日の夜、いてもたってもいられずLINEを追加した。送ったのは一言、『あなたの翼に』だけ。



 この曲が好きなら伝わる、たった一言。伝わらないならそれでいい、頭のおかしいクラスメイトだと思われてそれで終い。



 けれども、返信は待ち遠しかった。早く早くと顔と名前も一致しないクラスメイトを心の中で急かした。



 通知音を最大に上げてポケットに入れて一日を過ごした。



 うとうとしていた日付変更直前に通知が来た。音が大きかったおかげですぐに覚醒できた。お母さんには怒られたけど。



 LINEを開くと1番上に『恋をした』という一言。



 伝わった、それだけで嬉しかった。



 そこから自己紹介擬きを交わしてどっぷりとその曲について話した。



 朝の4時にお開きになったときにはもう、彼女は幼なじみだったかのようになっていた。



 眠気眼を擦りながら学校へ向かう。太陽が憎い。目が痛い。



 教室に入ると彼女は自分の机で本を読んでいた。ドアの音を合図に彼女がこちらを見る。目が合う。棒立ちになる。



 慌てて顔を本に戻した彼女の耳は真っ赤だった。



 そこから三日ほどお互いに声をかけようとして恥ずかしくて諦めるというのが続いた。笑っちゃうくらいピュアだった。



 家に帰ればLINEで話した。なんでリアルだと話せないんだろうね、なんて茶化しながら反省会をした。



 そして四日目、早く起きれた分学校にもいつもより早く到着した。彼女の姿、というか誰もいなかった。



 いつもより早い時間の学校は好きだった。いつもより空気が澄んでるような気がする。




ガラガラゴ




 不意に教室の後ろのドアが開く。彼女が入ってくる。



 彼女が後ろを通り過ぎる。用意していた言葉はすぐに消えて声にならなかった。けれど、



「おは……よう」


「お……はよう」



 彼女の勇気で、ぎこちない初めての会話が成立した。会話とは言えない代物だけれども、それが嬉しかった。彼女の方を見ると彼女もちょうどこちらを見ていて目が合う。慌てて逸らす。



 やっぱり彼女の耳は真っ赤だった。






 それからは徐々に話せるようになった。



 挨拶だけだったのが会話らしくなり、噛まずに話せるようになり、笑顔で話せるようになった。



 彼女と居る時間が楽しかった。席替えで距離が近づいたときは自分の引きを感謝した。ガチャの爆死の数々はこの伏線だったんだと思った。



 それが悪かったのかもしれない。距離が近づいてしまった、そのことが。






 学校からの帰り道、ふいに気づいた。彼女と居る理由を。彼女に恋をしているんだということを。



 そこからは全てが変わった。



 彼女といる時間は楽しい時間から心が苦しい時間へ


 彼女がいない時間は寂しい時間から辛い時間へ


 彼女の笑顔を正面から見れないくせに


 正面にいるのが自分でないと嫉妬する


 苦しくて苦しくてたまらなかった


 恋が甘いものでなく苦いものだと知った


 恋は素晴らしいものでもなんでもなかった


 早く全部吐き出してさらけ出して楽になりたかった





 一学期の終業式の日の放課後、彼女を下駄箱に呼んだ。



      ――――あなたの全てに恋をした



 一言、それだけを伝えた。


 少し、考えさせてとだけ返された。





 夏休みが始まってすぐに台風がやってきた。


 彼女からの返信が無いのは台風のせいにした。


 台風が去っても返信は来なかった。


 雨が晴れてもモヤモヤは晴れなかった。






 始業式の日の朝、彼女におはようと挨拶した。


 いつもの返事は台風に飛ばされてしまったようだった。







 なんで恋なんかしたのだろう。恋じゃなくても、別に恋じゃなくていいのに。友達のままでよかったのに。なんで一番になりたかったのだろう。



 告白なんかしなければ、夏休みは友達として遊べたかもしれないのに。『いつか』行こうと話した『いつか』も来たかもしれないのに。



 なんでみんな恋をするのだろう。恋なんてハイパーリスクハイリターンだ。リスクの方が明らかに大きい。そんな理性じゃどうにもならないから恋と呼ぶのかな。



 じゃあ僕はもう恋なんてしたくない。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










 今年も秋がやってきた。僕は分不相応にも恋をした。



 あれだけ、嫌というほど身に染みたのに、それでも恋をした。






 大人しそうな女の子。特に特徴もない。有り体に言えば『何の変哲もない』女の子。もし変哲があるのなら、それは彼女が読んでいた一冊の本。好きな作家の好きな本。思わず話しかけてしまった。



 それから毎朝あいさつをするような仲になった。



 少しして挨拶以外もするような仲になった。



 最初は友達だった。それ以外の何者でもなかった。



 本のことをゲームのことをたまに勉強のことを朝に話すだけの友達。友達だった。



 でもある日、なんの脈絡も伏線もなく、きっかけも原因もなく、彼女への友情は恋心にすり替えられてしまった。


 懲りもせずに。





 彼女の笑顔を見る度に心臓が跳ねるようになった


 彼女との挨拶が習慣からかけがえのないものになった


 たまに鼻を擽る彼女の髪の匂いが忘れられなくなった


 廊下ですれ違う度目で追うようになった


 数学の授業中に考えることがゲームのことから彼女のことになった





 恋に落ちて恋に狂って恋をした。



 でも気持ちは明かさないように必死になった。



 恋人になれるかの賭けをするなら友達でいよう。



 0か10の確率じゃなくて5の確実を選ぼう。



 あわよくば、彼女の方からお声がかかるかもしれない。



 そうなることを願って友達でいよう。



 そう思ってた。




 SNSで彼女が欲しいだの呟いてみた。


 彼女からの声がかかるのを期待した。


 彼女が見たのかすら定かではなかった。



 朝来る時間を早くした。


 少しでも長く話したかった。


 彼女の来る時間は変わらなかった。


 彼女と話す時間も変わらなかった。




 策士策に溺れるかのように恋に溺れた。



 彼女のことを、考えるがために彼女のことが頭から離れなくなった。



 途方に暮れた。どうしようも出来ない。自分から想いを伝えれないのに彼女が汲み取ってくれる気配もない。



 自分から伝えればすぐの話。けれども去年のおはようの虚しさが空虚さが頭をよぎる。



 臆病だった。鶏だった。矮小だった。



 でも彼女への愛おしさは小さくなってくれなかった。





 そのとき、何かが背中を押した。断崖絶壁で背中を蹴られた。必死に歯止めしていた何かが落とされてしまった。


 止めてくれるものは何も無くなった。






 人生一度きり。七転び八起き。そう何かに書いてた。


 当たって砕けるのも悪くない。そう誰かに言われた。


 自分で伝えなきゃ伝わらない。そう何処かで聞いた。


 所詮二分の一。好きか嫌いか。そう何時だか聴いた。









 今日、放課後、彼女を呼んだ。


 使われていない旧校舎の屋上。


 絶好の自殺スポットならぬ告白スポット。


 フェンスに背をやり、もたれながら考える。








       ああ、別に恋じゃなくていいのに。





今長めの小説を書いています。

書ききれるか分かりませんが、書ききれた暁には見てやってください。

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